様々な人に「推し」や「推し活」について語ってもらう「推し問答!~あなたにとって推し活ってなんですか?」、第5回のゲストは現役大学生でライターの佐々木チワワさんです。なお、この記事は後編になります。
【編集部注:前編全文は発売中のTV Bros.8月号に掲載しております。後編は全文無料でお読みいただけます】
最近よく聞きますよね、「行き過ぎた推し活」「過剰な推し活」問題。歌舞伎町を歩いていたら、街頭アナウンスで「メンズ地下アイドルやメンズコンカフェ、過剰な推し活からパパ活に気をつけて」と流れていて「とんでもねえ職業差別が?」と思いましたけど、それはそういう側面があるから生まれているのでしょうね。
それに伴って、「行き過ぎた推し活」「過剰な推し活」パパ活や性風俗で身を持ち崩す女性たちの報道も増えた気がします。ご家族から「お前の推し活は過剰なのでは?」と問い詰められないか、ヒヤヒヤしている方もいるかもしれません。「最近熱中しすぎてお金を使いすぎかも」と我に返る人もいるかもしれません。そういう効果もあるでしょう。ただ、傷ついた若い女性たちをセンセーショナルな形で切り取っている、社会問題「風」の報道も目に付きます。私はそういうの、好きじゃないです。ずっと好きじゃない。だって、そういった情報を「消費」するのは誰か? って話ですよ。メディアの人、それを見る人たちじゃないですか。
「いやいや自分は心配して言ってるから」「そんなことはやってはいけないから」
そうですね、その通り。でもそれは「欲望を発散したお客さま」の定番セリフでもあります。過激な報道に興奮するお客さま。推す人、推される人、それを切り取る人、眺めるひと、皆、何に欲望し、何を消費しているのですか? 後編では、そういう話をしてます。推し活はどこいった? いや、これは推し活と切っても切れないテーマですよ。私はそう信じています。
取材&文/藤谷千明 題字イラスト/えるたま
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目次
悪口としての「ホスト」ってあるじゃないですか
藤谷千明 前編では、ホスト的なコミュニケーションと、推し活的なコミュニケーションの違い、推しのホスト化、ホストの「推し」化の話をしましたけど、アイドルやバンド、とくに規模が小さくてお客さんとのコミュニケーションの比重が高くなりがちなジャンルになると、「オレたちはホストじゃねえ」みたいなことをおっしゃるじゃないですか。これは「接客がメインではないんだぞ」という意味ですよね。ただ、悪口としての「ホスト」ってあるじゃないですか。
推し問答!【6人目:ホスト好き 佐々木チワワさん前編】「消費社会とぴえんの報道」
佐々木チワワ たしかに、騙した騙されたとか、しょうもない色恋のことを「ホストまがいのようなことをしてすみません」と謝罪していたようなケースもありました。 そのときに「オレたちの職業なんだと思ってるんだ」と怒っているホストもいました。「女性を色恋で騙して貢がせて搾取して病ませて…」みたいなイメージが古くから定着しているんでしょうね。
藤谷 私はほとんどホストに行ったことがない(※正確には佐々木さんに一度初回に連れて行っていただいたことがあります。おしゃべりとお酒が苦手なため、4人のホストの方と4回同じ話をしてしまいました)ので、ホスト絡みの事件報道や、YouTubeやTwitterで見る「すごいホス狂い」しか知らないので、正直「ハマると大変なことになる。ホストのことを真剣に好きになってしまうと、たくさんお金がかかるし、そのためにお金を稼ぐには手段を選ばなくなってしまう」という印象は持っています。
佐々木 通ってるホス狂の大半は、それをわかって楽しんでいるんですけどね。でも、この数年で変化が起きました。「ホストに通ってる」というと、「大丈夫?」「騙されるよ」「貢がされてるの?」みたいな反応だったのが、最近は「今の推しはホストだよ」みたいに言うと「そうなんだ〜」とライトな反応になってきました。
藤谷 それは「いい変化」なのでしょうか。でも、そうじゃないと『明日カノ』があんなにヒットしないでしょうし、ゆあてゃがあんなに支持されないですよね。「お金」を通した、通さないと生まれないコミュニケーションゆえの切実さみたいなものが、多くの人から共感される時代になっているのでしょうか。
佐々木 過去のホストの資料を調べていると、そういう人は昔からいるので、今も昔も変わらないと思います。
藤谷 ただ、そういう人もそういう話を公ではしていなかったように思うんです。コッソリ病んでいたというか。そして今はSNSやYouTubeである種の「開き直り」を伴って病んでいるというか……。
佐々木 それは客の方も劇場型になっているのでは。でも、正直その「切実さ」や「病み」って、悲劇のヒロインぶっているというか、勝手に自己犠牲をエモいと思って病んでいて、その病みや幸せといった感情の起伏も含めた自分のエンタメを楽しんでいるというか。
藤谷 そう、好きな対象のために「頑張ってしまう私」がエモいと感じて脳内物質がドバドバ出る。それはまあ、推し活でもそういう局面はありますね。「誰かのために頑張ってしまう」「そこにお金が絡む」ことでしか出ない脳内物質があるのかもしれない。なお、根拠はありません。そこに依存してしまうと、色々大変なことに……。佐々木さんご自身はそれで「病む」ことはあります?
ホストクラブはあくまでも「好きな人にお金を使うための場所」
佐々木 ホストクラブは「好きな人にお金を使うための場所」です。それは今も昔も変わらないルールのはず。好きなら、客はお金を使ってホストに証明すべきだし、反対にホストはお金を使ってもらっているなら、それ相応のクオリティの接客をすべきと考えています。なので、私にとってホストにお金を使うことは先行投資なんですよね。「楽しく使いたい」ときしか使いません。
藤谷 ちなみに、ホストに「騙された」と思ったことはありますか?
佐々木 ないです(きっぱり)。でも、言ってることが全部ウソだったホストはいます。大学生のホストだったんですけど、学校やインターン先が全部ウソだったという(笑)。
藤谷 それは単なる虚言癖か見栄っ張りだよ!
佐々木 あとは、「マッチングアプリでホストであることを隠して会って、相手が惚れたら〈実はホストなんだ〉と店に連れて行く」みたいなのは「騙す」と呼べるのでは。
藤谷 わー! それはダメ! それは禁止にしてほしい!
佐々木 ホス狂にはそれは関係ないじゃないですか。さっきも言ったように、ホストの言葉を嘘だとわかった上で楽しんでいるんです。「好き」と言ったら「オレもだよ」と仕事をしてくれるのが、ホストでしょう。
藤谷 夢を見せてくれるのが仕事。オタクもSNSなんかでファン感情をくすぐる仕草をしてくれると「しごでき〜(仕事ができるの意)」って言いますもんね。ここで言う、嘘と夢の違いはわからない。でも、みんながみんな佐々木さんみたいなマインドでもないですよね。
佐々木 自分で言うのもなんですが、私は頭がいいし気が強いのでイヤなことはイヤと言えました。なので突飛な嘘に引っかかるとか、殴られるとかはなかったです。自分が使った金額はそれなりに大きかったけれど、それを「搾取」とは感じていません。とはいえ、私は運がよかったのだとも思います。
藤谷 本当に自分で言いおる。そういうマインドはホストのお客さんのなかで多数派なのでしょうか? 『明日カノ』ゆあてゃ的な自己犠牲マインドの人の方が多そうなイメージがあります。
佐々木 私みたいなタイプは、ある程度自分のスキルで稼いでいる、私より年上の人が多いかもしれません。あくまで私の出会った範囲での話ですが。あとはホストクラブの外に家庭や仕事という居場所と立場を持っている人。全ツッパの子はまさにゆあてゃタイプ。
藤谷 これは字義通りの老婆心なんですけど、やっぱりそういう話を聞くと心配になってしまうんですよ。おばさんは、すぐYouTubeとかマンガの知識になっちゃうのだけど、「売掛で何百万」みたいな。借金を作らせる仕組みは良くないですよ〜。
佐々木 でもそれって「自己責任」じゃないですか?
藤谷 なんでも「自己責任」なのも良くないですよ〜。
佐々木 あれは「おまえを信頼している」というステータスでもあるので、「売掛」があるから頑張れる人も多いはず。それに、「売掛」というシステムをなくしたところで、水面下に潜るだけだから、表にあったほうがマシかもしれない。
藤谷 そうかな〜? 自己責任も自己犠牲も良くないですよ〜。それはビジネスをしてる側にとって都合のいい考えのような気もします。これも老婆心(2回目)だけど、そういう自立心を利用する悪い大人もいると思うんですよ。もし、佐々木さんのそういう考えを「聡明で素晴らしい!」ともてはやす中年男性(女性もいるかもですが)がいたら、絶対に警戒したほうがいいですよ。
「ホストやメンズコンカフェのキャストが一方的に女性を搾取している」という言説には違和感が
佐々木 私も成人してるので「大人」です。さきほど、「借金を〈作らせる〉」とおっしゃいましたよね? 泥酔させてだとか脅して無理やり腕掴んで書かせたなら話は別ですけど、成人女性が正常な判断力を持って伝票にサインしているわけで。逆にそういう言い方は「ホス狂の女性」を自分より愚かな存在だと下に見ている気がしますよ。
藤谷 ウッ、すみません。
佐々木 それに、ホストやメンズコンカフェのキャストが一方的に女性を搾取しているという見方も私からすると違和感があります。
藤谷 と、言いますと?
佐々木 先日、筋肉が売りのキャストがいるメンズコンカフェに行ったんです。そしたら、半裸の男性キャストが接客してくれたんですが……。
藤谷 そりゃあ、筋肉が売りのコンカフェならそうでは?
佐々木 キャストの半裸の胸を触るだとかのサービスも提供されていて、その値段が500円だとか1000円だとか、安価なんですよ。女性キャストだったらセクキャバくらいの接触サービスを提供しているのに。それはジェンダーの非対称ですし、搾取と呼べるのでは。女性の筋肉コンカフェは、当然ながらそんなサービスはないはずです。
藤谷 「男性の裸」だと、「笑い」や「ネタ」みたいに消費されてしまう残酷さがありますね。ご本人たちは好きでやっているとおっしゃるかもしれませんが、構図として……。あと、値段が「適切な」価格に上がった場合、お客さん側も「ガチ」で性的なサービスを受けてる感が出てきて真顔になりそう。いや、本来ならサービスに「ネタ」も「ガチ」もないはずなのですが……。
佐々木 女性側が性的な搾取に無自覚すぎると感じます。そして、もうひとつショックなことがあって。その筋肉コンカフェで私が「ホス狂」と知った途端、一部のキャストの目の色が変わって、いきなり色恋営業をかけてきたんです。しかも、YouTubeで聞きかじったような適当な営業方法で! ホス狂、舐められている!
藤谷 それはショックですね。そしてホストとホス狂のYouTube見られすぎ、人気コンテンツすぎる。そう、オタクやホス狂の金遣いがコンテンツ化されてしまうんですよね。本来はお客さん側の人たちがコンテンツ化されて数字=お金を生んでいる。まあそれも昔からテレビや週刊誌であったといえば、そうか。「ヴィジュアル系バンドを追っかける病んだ少女たち! 彼女たちは居場所がないのです!」みたいに社会問題「風」に取り上げるメディアよ……。
佐々木 「居場所」って、なんなんですかねえ。私、マスコミの方から質問されたことありますよ。「居場所のない少女たちをどう思いますか?」「居場所のない少女たちがいる場所を教えてください」だとか。居場所のない少女のいる場所? それは「居場所」じゃないの? っていうかあなた方はそんな風に自分の居場所を即答できるんですか?ってまず、「居場所」の定義を尋ねましたが(笑)。
藤谷 社会学の学生ムーブだ! 話を戻すと、実際に家庭や学校が苦しくてバンドを精神的支柱、心の居場所にしていて、だからこそライブのために無理なお金の稼ぎ方をしていた人もいたと思います。ただ、結局そういった報道がその人たちのなにかを変えてくれた、救ってくれた実感はありません。少なくとも私にはね。今現在「ヴィジュアル系」を「トー横」に代入しただけの、似たような報道も目立ちます。それが社会問題「風」で消費しているだけのように見えて、不毛だなと。「そんなことをやってはいけないから」「心配している」とおっしゃるかもしれませんが、それって夜職のお客さんが言うセリフと似てますよね。意地の悪い見方ですけど、それは「お客さん」の言葉です。
佐々木 パパ活や売買春に手を染めるおじさんたちも、「居場所」がないからお金を払って女の子に相手をしてもらってる人もいる可能性ありますからね。
藤谷 以前「トー横の居場所のない少女たち」を半年密着したドキュメンタリーを観たのですが、ぜひ「居場所のないおじさん」を半年間密着していただきたく……。「〈おぢ〉と呼ばれる彼らには、家にも会社にも〈居場所〉がないのですーー」みたいなナレーションで。
佐々木 おじさんたちは「消費される」ことすらできない! 私は2020年に「ぴえんという病」という本を出して、その前から歌舞伎町やトー横界隈の取材をしていました。それが2021年、人が亡くなるような大きな事件が起きた途端、一気に取材するメディアが増えたんです。 メディアが「消費」してるなって思いました。そして私自身もこれで仕事が増えて、なんだか……。
藤谷 「消費」って、なんなんですかねえ。それに、佐々木さんご自身も「現代の歌舞伎町を取材する現役女子大生ライター」として「消費」されかねない。はい、本日3回目の老婆心、出ました。
佐々木 私はたまたま書いていることが時代とマッチしていた、いわばポッと出です。今の歌舞伎町をメディアが取り上げたいときに便利に使える「アイコニックな若い女子大生」で、おっしゃるように消費される側です。だから、コンテンツとしての「佐々木チワワ」はいつ終わっても構わない。
藤谷 前編の冒頭でも言いましたけど、「コンテンツとしての自覚」を若い人が持ちすぎてるのも心配になりますよ。さっき「心配は客の言葉」と自分で言いましたけど、言わせてください。心配です。これはこれで、パターナリズムといわれてしまうかもしれませんが……。
佐々木 これから大学卒業して研究者になれば、どうせ本名もバレますし。どうでもいいかなって。
藤谷 良くないですよ。本日何度目の老婆心か忘れましたが、執筆と学業でハードワークでしょうし。
佐々木 そうですね、あとホストクラブでの飲酒も(笑)。
藤谷 それも控えましょ(苦笑)。せめて、人間ドックには行ってください。
佐々木チワワ●2000年、東京生まれ。高校1年生の大みそかに初めて歌舞伎町に足を踏み入れる。以来、歌舞伎町で働く夜職の人々に惹かれ、自身も一通りの職種と幅広い夜遊びを経験。歌舞伎町で幅広い人脈を持ち、大学では繁華街の社会学を専攻している。『週刊SPA!』(扶桑社)、『実話ナックルズ』(大洋図書)で夜の街に関する記事を執筆。著書に『「ぴえん」という病 SNS世代の消費と承認』(扶桑社新書)、『歌舞伎町モラトリアム』(KADOKAWA)がある。Twitter→@chiwawa_sasaki
藤谷千明(ふじたに・ちあき)●1981年、山口県生まれ。フリーランスのライター。
高校を卒業後、自衛隊に入隊。その後多くの職を転々とし、フリーランスのライターに。ヴィジュアル系バンドを始めとした、国内のポップ・カルチャーに造詣が深い。さまざまなサイトやメディアで、数多くの記事を執筆している。近年はYoutubeやTV番組出演など、活動は多岐にわたる。著書に 『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』(幻冬舎)。共著に 『アーバンギャルド・クロニクル「水玉自伝」』(ロフトブックス)、 『すべての道はV系へ通ず。』(シンコーミュージック)、『バンギャルちゃんの老後 オタクのための(こわくない!)老後計画を考えてみた』 (ホーム社)などがある。 Twitter→@fjtn_c
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