岡村靖幸『あの娘と、遅刻と、勉強と』 (ゲスト:丸山隆平先生)
雑誌 TV Bros.で連載中、岡村ちゃんが気になる人に根掘り葉掘りインタビューする『あの娘と、遅刻と、勉強と』。今回のお相手はSUPER EIGHTの丸山隆平さん。対談の後編をお届けします。前編はこちら。(前編はTV Bros.2024年12月号龍が如く特集号にて掲載)
おかむら・やすゆき●最近は、『NewsCLUB』(文化放送)で田村淳さんと共演。『ワラボ』(AuDee)最終回でいとうせいこうさん・倉本美津留さんと共演。 『アフター6ジャンクション2』(TBSラジオ)で宇多丸さんと共演。共演3部作を行い、さらに共演レギュラーの岡村和義のポッドキャスト、「POD OKUMADE ーポッド、奥まで」も是非お聴き下さい。
まるやま・りゅうへい ●1983年生まれ、京都府出身。俳優としてドラマ、映画、舞台など出演作多数。『泥棒役者』以来約8年ぶりとなる主演映画『金子差入店』が2025年5月16日より全国公開。SUPER EIGHTでは主にベースを担当。昨年7月にリリースされた最新アルバム『SUPER EIGHT』には、岡村ちゃんが作詞・作曲・編曲した「ハリケーンベイべ」が収録。
取材・文/前田隆弘 撮影/ツダヒロキ 編集/土館弘英
ヘアメイク/マスダハルミ【岡村】 林摩規子【丸山】
「ハリケーンベイベ」に込めた意味
丸山 岡村ちゃんって、「こいつ失礼やな」ってキレることあります?
岡村 (即答)ないです。
丸山 ないですよね? いつからそんなに丸くなったんですか?
岡村 もともと。キレたりはしないタイプです。
丸山 あ、性質なんですね。
岡村 僕から見ると、STARTOの人たちは本当に忙しすぎるから、たぶんストレスがすごく溜まってると思うんですよ。
丸山 それは岡村ちゃんもあるでしょう?
岡村 いや、ない。STARTOの人たちと比べると、忙しさのレベルが全然違うから。だから「本当はいろいろストレスも抱えていて、二日酔いをしたり慟哭したりすることもある。でもみんなの前に出たら、ちゃんとスターになるんだよ」というニュアンスを「ハリケーンベイベ」に込めたの。きっとそういうことはあるだろうと思って。
丸山 まあまあまあ(笑)。
岡村 まあまあまあ(笑)。
丸山 岡村ちゃんはデビューっておいくつのときでした?
岡村 ’86年? でも作曲家としてはもうちょっと前かな(*)。
* ’85年8月、渡辺美里の2枚目のシングル曲「GROWIN’ UP」を作曲。その後も渡辺に楽曲提供を続け、’86年12月の「Out of Blue」でデビューした。
丸山 その……ありません? ミュージシャン独特のストレス、プレッシャーって。
岡村 ないですよ。
丸山 本当ですか?
岡村 たとえば役者だと、共演者、演出家、監督、ドラマだとスポンサーもいて、いろんな人が現場に関わってますよね? あるいはアイドルだと、グループの他のメンバーもいるし、歌以外の仕事、バラエティに出たりすることもある。それと比べるとミュージシャンって結局、音楽をやればいいだけだから。ストレスの度合いがまったく違うんですよ。だから交流してみると、役者の方やアイドルの方は「普段ストレスすごいんだろうな」って感じるときがある。たとえば、斉藤和義さんは仲良しで、一緒に飲むこともあるけど、斉藤さんも全然キレたりしないです。
丸山 ああ、確かにずーっとあの感じですね。ずーっとエッチな話ばかりしてる(笑)。
岡村 ふふふふ(笑)。ミュージシャンは好きなことだけやってるから、アイドルや役者の方たちに比べてストレスが少ないですね。
丸山 そうやって消化できてるのがすごいですよね。だって、若くして亡くなるミュージシャンもいるじゃないですか。それはその人なりのストレスを抱えていたのかもしれないし。だから岡村ちゃんが、「自分はこういう人たちに比べたら全然ストレスフリーだよ」と言えてるのがうらやましいですね。もともとそういう性質だったと言えば、そうなのかもしれないですけど。
岡村 あるとき、明け方近くまで飲んで、そこからトレーニングに行ってたのね。汗で(酒を)落としてやれと思って。で、トレーニングしながらテレビ見てたら、丸ちゃんが朝の情報番組に出てたんですよ。8時か9時くらいの。「丸ちゃん、朝から働いてる! すごい!」と思って(笑)。
丸山 いやいや、「朝から働いてすごい」と言ってるあなたは、朝からトレーニングしてるじゃないですか!
岡村 スポーツクラブなんか誰だって行くじゃないですか。一方では朝の情報番組ですよ? すごいと思ったから、あとで丸ちゃんに「朝見たよ!」ってメッセージ送りました。「丸ちゃん、朝から働いてる!」って。
丸山 優しい(笑)。
岡村 アイドルって、グループの中で「ドラマに出る人」「情報番組やバラエティに出る人」みたいなそれぞれの役割があって、全員がそれぞれの役割を20年もやってると、やっぱりそこにはストレスもあると思うんですよ。僕らには計り知れないくらいの。だから芸能関係の人は、飲むとその分はじけるイメージがありますね。
丸山 でも俺はおとなしいほうでしょ?
岡村 全然おとなしいほうです。
丸山 ね。ちゃんと会話になってますもん。(酔い方は)わりと穏やかですよ。
岡村 全然穏やかですよ。ただ、歌にもちょっと込めましたけど、そのストレスは常人には想像もつかないから。
丸山 そういう部分は見せないですよ。でも岡村ちゃんは岡村ちゃんで、絶対あると思うんだけどなあ。
岡村 斉藤さんや僕は、ミュージシャンやってるだけだから全然ストレスはない。でももし、朝の情報番組に出て「ちょっと待ってくださいよぉ!」とかやりはじめたら、それはもう俺も斉藤さんも……。
丸山 それはキツいですよね。俺、ワイプに岡村ちゃんが出てるの見たくない(笑)。
岡村 そうなったら、僕も斉藤さんも病んでいくと思う(笑)。でも今は好きなことしかやってないから。
20年の中で、心が折れそうになったとき
丸山 “岡村和義”のライブを見たんですけど、「こういう年齢の重ね方っていいよな」って思ったんですよ。個人で成立している巨頭が2人並んでいて、サウンドが混ざり合わなさそうなのに、ちゃんと混ざり合ってる!と思って。見ていて立たずにはいられなかったですよ。好きなことだけやっていたら、ここまでのことはできないんじゃないか……でもそれを好きなことのように見せるというやり方も知っているから、あの感じが成立するんだろうな、と。音楽のジャンルも年齢も違う2人が、言葉を交わさずとも音楽でつながっている。それは見ていて美しかったし、自分もそういう年齢の重ね方、キャリアの積み方をしたいなと思いました。
岡村 してるじゃないですか。SUPER EIGHT、もう20周年なんですよね?
丸山 そうです。
岡村 20年やってきて、どうですか。ものすごく観客動員のあるバンドであり、アイドルでもあるわけじゃない? ずっと続けてきて、今の状態になったのはどんな気持ち?
丸山 その質問、岡村ちゃんに聞かれると、またちょっと響きが違うなあ……。今まで歌ってきた曲や懐かしい曲も今回のアリーナツアー(*)ではやってるんです。わかりやすいところで言ったら、「ズッコケ男道」は盛り上げソングで明るい曲なんですけど、歌詞が自分を通って出る意味が変わってきたというか。昔はただ勢いよく、「きばってこーぜ」とか「イェイイェイイェイ」とかやってたんですけど、今はAメロやBメロを歌ってても、なんて言うのかな、感情の入り方が違うというか。わかりやすく言うと、小学校のときに読んだムーミンを大人になって読んだら、けっこう印象が違ったみたいな……。
*「超アリーナツアー2024 SUPER EIGHT」のこと。取材はツアー真っ最中の2024年10月収録。
岡村 「意外と深いじゃん!」みたいなこと?
丸山 そうですそうです。20年の中でのメンバーとの関係性とか、ファンとの距離感とか……そういうのが乗っかってきて、思いも寄らぬところでグッと来てしまうことが増えましたね。
岡村 20年メンバーとやってきて、あと20年ファンの方々に支えてもらって、というのは感慨深い?
丸山 そうですね。「恩返しをしている」みたいな感覚がずっとあるんですよ。その恩はより強くなっているから、返しても返しきれないんですけど。コロナ禍の時期を経験したのもでかいですね。会えないことがいかに切ないものか思い知ったし、エンタメの危機でもあったので、「フィジカルに会えることの大事さ」はより増幅しましたね。
──恩というのは「ファンがずっと支えてくれたこと」みたいな意味ですか?
丸山 最初は「1人でも多くファンを増やしたい」とか「もっと目立ちたい」とか思ってたし、まあそれがないと続けられないんですけど、続けていけばいくほど、ライブに来てくれることも当たり前のことではないと気づくようになったというか。最近は「続けてくれてありがとう」とよく言われるようになって、(当たり前のことが当たり前じゃないという)そのことを意識するようになりましたね。
岡村 たくさんのファンに推されてるのに続けられなくなるアイドルグループもいる中で、SUPER EIGHTは20年続けてきて、ファンもずっと減らずにいるというのは素晴らしいことだし、大変なことだと思うんですよ。さっき「メンバーのそれぞれに役割分担がある」という話をしましたけど、それぞれの仕事でファンが増えて、またバンッと集結したときにグループのファンも増えてる、そういう相乗効果もきっとあったと思う。そういうことを20年間、くじけずにやってきたことのすごさを感じますね。
丸山 くじけずに……実はけっこう大きく、2回くらい心が折れそうになりました。
岡村 あ、そうなんですか。
丸山 それは「人数が減っていった」ということもあるんですけど……1年ごとに1人ずついなくなるんですよ。僕としては、それはとても自然なことだと思ってて。ある程度の年齢になってきたら、自分の人生も考えるし、この事務所にいるとできないこともあるだろうし、そこはメンバーそれぞれが重々わかってるんです。じゃあ何がキツかったかと言うと、「6人でなんとかやっていこう」という歩みのペースが、それぞれ違ってたことなんですよ。1人抜けたことに対して、気持ちを切り替えて「よしやるぞ!」ってトップスピードを出せるやつもいれば、それを咀嚼して飲み込むまでに時間がかかるやつもいる。「歩幅の違いって、ここまであるんだ……」というのを感じてる間に、「その歩幅じゃやっていけない」と考えるメンバーが抜けていく。その「歩幅を合わせられなかった」という経験があったので、5人になったときに、「歩幅を合わせなきゃいけない」「ちゃんと周りを見なきゃいけない」「お互いを見つめ合わなきゃいけない」と考えて、そのときにグループを閉じるかどうか、続けるかどうか、みたいな話を5人でしました。折れそうになったのは、そのときくらいかな。でも骨みたいなもんで、一度折れて修復したときに、前よりも強くなった気はしましたね。
岡村 それは感じます。
丸山 だからさっき岡村ちゃんが言った「くじけず」というのは本当にその通りで、「たしかにあのとき、俺たちくじけなかったな!」というのは、いま改めて思いました。
岡村 あと、運も大事なんですよ。たとえば『EIGHT-JAM』は、いま一番影響力のある音楽番組だと言われていて、そういう番組をやっていることとかね。それは恵まれているということでもあるし、そういう番組をやる説得力がSUPER EIGHTにはあるということでもある。
丸山 あれはスタッフさんのリサーチがすごいんですよ。仕込みがめちゃくちゃ丁寧でしょ? あと、出演してくださる方々も出し惜しみなく話してくださるから。
岡村 若い人たちは、歌番組どころかテレビそのものを見なくなってますよね。そういう中で、あの番組だけは若い子たちも見てるんですよ。そういう番組をやってるのはすごいことだと思います。
──あの番組をやることでベースをより練習するようになった、みたいなことはあるんですか?
丸山 『EIGHT-JAM』をやってると、2週に1回はアーティストの方とセッションするんですよ。それまではグループで演奏してて、大倉のドラムしか知らなかったわけです。でも他のドラマーの方と一緒にやるようになってから、「あ、こんなに違うんや」と気づくようになって。やりやすい・やりにくいじゃなくて、解釈が変わるというか。だから、番組のセッションのおかげでベースが楽しくなりました。次にゲストで来られる方の音源をいろんなバージョンで聴いて、「どう来るんだろう?」とか考えるんですよ。(リズムに対して)けっこう後ろめで歌う人もいるから、リリース音源じゃなくライブ映像を見て研究したりもして。ただ覚えて弾くだけじゃなく、「どこにベースの位置を置くか」を考えるようになりましたね。あの番組で圧倒的に変わりました。
求めてくれる限りは
岡村 ちょっとお伺いしたいんですけど、今は役者の仕事も多いじゃないですか。どうですか? 楽しいですか?
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