楽しいのにどこか湿っぽい。 日本のポップスを牽引するBUDDY・PUNPEE&BIMが見つけた夏の景色。

PUNPEEとBIMによる初のコラボEP『焦年時代』。このタイトルを見て、BIMがPUNPEEのヘッズだった10年前を思い出した。だが今はレーベルメイトで、バディで、ともに日本のポップミュージックを牽引する存在でもある。そんな2人が、BIMの名曲「BUDDY feat. PUNPEE」以来の共演はどのように実現したのか? じっくりと話を聞いた。

取材&文/宮崎敬太 撮影/横山マサト

 

正直、無理だろうって思ってましたよ。

 

ーー今回のプロジェクトの発端を教えてください。

 

PUNPEE:去年(2021年)、自分がBIMのツアー(BIM全国ワンマンツアー『NOT BUSY 2020 – 2021』)に何箇所か同行したんですよ。その福岡公演で(SUMMITのA&Rの)レンくんが「最近こういうビートをもらいました」って何気なくRascalのビートを聴かせてくれたんですね。スネアに毎回鈴虫の音が入っててなんか夏っぽい。4月くらいかな。あれって福岡のBEAT STATIONの楽屋だったっけ?

 

BIM:うん。そこからすぐに「一緒にやろう」ってなったんですよ。最初は1曲だけのつもりで。コンピかなんか入れよう的な。でもPUNPEEくんが「EP作ろう」と言ってくれたんです。

 

PUNPEE:あー、そうだっけ? (EPにしようと思ったのが)どのきっかけかはもう覚えてないかもしれないですが、その一曲だと自分達を表現するのが難しいかもだったので何曲か作ろうとなった気がします。そもそも自分はテーマを設けて1枚の作品を作ったことなくて。でも夏って切り口なら2人で作りやすそうというか。自然とEPを作る流れになってた気がします。ただお互いすでに決まってたスケジュールがいっぱいあったから、去年の夏には全然間に合わなくて。そのビートが9月くらいに「蛍火」になったんですよ。

 

BIM:あの時はまだビートだけで歌詞は一切なかったですよね。

 

PUNPEE:うん。まず「いい曲できた」みたいなツイートした。ラッパー的には「作りたい」と思ったらすぐやりたいし、ツイートに対して「すぐ聴きたい」ってレスポンスもあったんだけど、そこはグッと我慢して来年(2022年)の夏に出そうと。

 

ーーでは約1年以上かけてじっくり制作したんですか?

 

PUNPEE:いや作業が本格化したのは今年の6月っすね(笑)。『POPYOURS』とか、神戸(『KOBE MELLOW CRUISE 2022』)の準備があってどんどん遅れちゃったんですよ。ビートは合間にずっと作ってたんですけど。てか夏曲って本来6月くらいに出てないと機能しないんですよ。なのに6月になってようやくやり始めるっていう。

 

BIM:正直、無理だろうって思ってましたよ。

 

PUNPEE:出ないと思ってた?

 

BIM:うん。フジロックまでには絶対間に合わないでしょうと思ってました(笑)。

 

ーーフジロック直前の7月27日に「トローチ」が出て、現地で「Jammin’97 feat. Zeebra」が初披露されました。

 

BIM:6月からは怒涛でしたよ。ほかにも締め切りが結構あったので。

 

PUNPEE:1日に(別々の案件で)3曲録ってたりしてたもんね。なんか島からデータが送られたこともあった。

 

BIM:あれはSTUTSくんの曲(「Voyage feat. JJJ, BIM」)のMV撮影でJくんと島に行ってたんですよ。まあ俺、そんな中でも普通にLA行ったりしてたんですけど(笑)。

 

PUNPEE:「このタイミングで行くんだ(笑)!?」って思ったもん。でも帰りの飛行機の中でリリック書いたりしてたよね。今回は自分が全体のスケジュールを把握できてたんですけど、BIMは常に何かやってました。

 

BIM:最後の詰めの時は、PUNPEEくんが夜から朝っていうか昼前まで作業して、俺にデータを送ったら寝て、俺はそれくらいに起きてやれることをやってPUNPEEくんに戻して寝る、みたいな感じでした。同じ時間に2人が起きてても効率が良くないんで。

Zeebraさんなら複雑で変なアイデアも柔軟に面白がってくれるかも。

 

ーービートが揃ったのはいつ頃ですか?

 

BIM:4月くらいに「Night Rider」と「トローチ」のビートを送ってくれたんですよ。

 

PUNPEE:そうだ。それで自分がBIMの家に遊びに行ったんですよ。そこで「アイスクリーム」って曲を聴かせてもらって。

 

BIM:そう。「いまこんなの作ってるんです」って俺のソロ用に作ってた曲を。そしたらPUNPEEくんが「これにZeebraさんとか大御所の方が入ったら面白いね」って言ってくれて。それが「Jammin’97」になるんです。

 

PUNPEE:でも普通にZeebraさんに参加していただくんじゃなくて、もうちょっと自分達らしい招き方にするにはどうしたらいいかなって。それで家に帰ってタイムマシンネタを思いついたんです。

 

ーー一応読者のために補足しておくと、今回の「Jammin’97」に参加してるのはタイムマシンで1997年から現代に来たZeebraさんです。1stアルバム『THE RHYME ANIMAL』をリリースする直前だから、まだそんなに忙しくない。かなり入り組んだ設定だと思うんですが、Zeebraさんにはどうやって説明したんですか?

 

PUNPEE:結構そのままですよ。最近のアニメやマンガって少し昔より複雑で難しい設定の作品が多いじゃないですか。「進撃の巨人」は壁に囲まれてる街に巨人が襲ってくる話だし。「チェンソーマン」も物語の前提が変わってるし。今はそういう変な設定もみんな楽しめる時代だから、ラップでもそういうことできないかなと思ってたんです。Zeebraさんはフロウや声の使い方の引き出しがたくさんある方だし、なによりこういう企画も柔軟に面白がってくれるかも、っていうのがあったんですよね。

 

BIM:Zeebraさんてアメコミ映画もお好きらしくて。

 

PUNPEE:そうそう。マーヴェル映画も全部見てるから、マルチヴァースとか多次元みたいな感じで説明したら、すぐわかってくれて快諾していただけました。あとヤバかったのが一緒にスタジオに入った時。第一声目から「90年代のZeebra」だったんですよ。

 

BIM:しかもテイクを重ねるごとに磨きがかかってくる。(SUMMIT代表の)増田さんが「すみません! もう一回いいですか……」ってお願いしてもすぐ「オッケー!オッケー!」って。最終的に10テイクくらい録っていただきました。

 

ーーそれはかっこいいエピソードですねえ。

 

BIM:あと寸劇の「インスタ? インスト?」っていうやりとりはZeebraさんのアイデアです。

 

PUNPEE:アルバム名を俺らに相談して帰っていくっていうのも、レコーディング当日にZeebraさんから提案していただいて。

 

ーーあ、あれはZeebraさんのアイデアなんですね!

 

BIM:そう。全部Zeebraさんなんです。

 

PUNPEE:でも言われた時、自分らは「えっ!?」って恐縮しちゃって(笑)。

 

BIM:「そんな……、いいんですか?」みたいなね(笑)。

 

PUNPEE:そうそう。ちょっとした歴史改変じゃないですか。でもZeebraさんは「全然いいよ」とおっしゃってくれて。

 

ーーうわー、またしてもかっこいいエピソードですねえ。僕はこの「Jammin’97」で表現した2人のZeebraさんへのリスペクトもものすごくかっこいいと思いました。この曲に呼ばれたのは、Zeebraさんも嬉しかったんじゃないかな。柔軟なアイデアって、ヒップホップにおいては不良文化と同じくらい重要だと思うから。

 

PUNPEE:Zeebraさんは良い意味で人生を心から遊んでる人。

 

BIM:スタジオにめっちゃヘネシーを持ってきてましたもんね(笑)。

 

PUNPEE:純粋にヒップホップが大好きな方なんですよね。いまだにアンダーグラウンドな若い子たちを楽しんでディグしてるんです。「え、この人も知ってるんですか?」みたいな。

 

BIM:Zeebraさんは大先輩というか、俺からするとハリウッドスターみたいな感じ。学生の頃から聴いてますから。スタジオ入る前は超緊張してたんですけど、Zeebraさんはめちゃくちゃフランクに接してくれるんですよ。「タバコ吸いにいこうぜ」とか誘ってくださって、「あのさあ……」って普通に話してくれる。俺もこういう先輩になりたいというか、なれるように頑張ろうと思いましたね。盛りなしで超かっこいい方です。

今回のEPはリリックで一回も「夏」を使ってないんですよ。

 

ーー『焦年時代』というタイトルもあってか、僕はPUNPEEさんに憧れて本格的にヒップホップの世界に入ったBIMさんが、今作をどんな気持ちで制作したのかうかがいたいです。

 

BIM:そうですね……。Zeebraさんと同じく、PUNPEEくんは高校生の頃から見てるので、それを思うと「うわっ」ってなるけど、実際に制作してる時はむしろソロよりも楽しめました。

 

PUNPEE:うん。自分も楽しかった。BIMとは「BUDDY」を作ってて、次やるなら「BUDDY」と同じくらい(のクオリティ)かそれよりも良いもの、もしくは違ったアプローチじゃなきゃなって常に漠然と考えてはいたんですよ。そしたら今回の夏ってトピックがいい感じにハマって。

 

BIM:PUNPEEくんが言ったとおり、俺にとっても「BUDDY」がデカかったんですよ。1曲ってなるとかなりハードルが高い。でもEPならいろいろできるなって。

 

ーー良い意味でハードルが下がった、と。

 

BIM:ですです。「Kids Return」みたいなサビがない気だるい曲とかは、お互いソロじゃやんないと思う。でもこういうヒップホップも好きなんですよね。

 

PUNPEE:夏ってトピックはマジで寛大なんですよ(笑)。なんでもハマる。

 

ーー『焦年時代』というタイトルはどのようにきまったんですか?

 

PUNPEE:最初は普通に『少年時代』だったんです。でも「少年じゃないじゃん」って気づいて(笑)。そしたら増田さんが『焦年時代』ってアイデアを出してくれたんですよ。

 

ーー僕は「Jammin’ 97」の印象が強かったので、2人がヒップホップに胸を焦がした少年時代、みたいなイメージで今作を聴いてました。

 

BIM:“焦る(あせる)”とか“焦らす”とかもありますよね。

 

PUNPEE:“焦げる”は夏っぽさもあるし。

 

BIM:そういえば今回のEPは一回も“夏”を使ってないんですよ。

 

PUNPEE:そう。ラップを書く前に2人でミーティングして、BIMが出してくれたアイデア。“夏”と言わず全部季語で表現する。粋な発想だと思いました。

 

BIM:そこから2人でいろいろ季語のアイデアを出し合ったんです。ネットで調べても俳句みたいのしか出てこないから。

 

PUNPEE:納涼とかね。でもそういうのじゃなくて、もっと今の季語というか。自分らとか、リスナーの人が聴いて、夏がイメージできる言葉を2人で探しました。その流れからジャケも決まって。

 

BIM:トイレの後に手を洗ってたら、プールで目を洗うやつを思い出したんですよ。戻って「これって季語になりますよね?」って言ったら、PUNPEEくんが「それジャケにしよう」って。

 

PUNPEE:洗眼器っていうらしいんですけどもうないらしいんですよ。

 

ーーコロナの影響で?

 

BIM:いや、単純にあんなので目を洗っても意味ないからって理由らしいです(笑)。

 

PUNPEE:だから高校生以下の子たちは知らないみたい。てかプールの授業って嫌じゃなかったですか? 裸になりたくないし。

 

ーーわかります。

 

PUNPEE:衛生的にもね。プールに葉っぱが落ちてたりするのも嫌だった人もいただろうし。

 

BIM:ヤゴがいたりね。あ、“ヤゴ”は(リリックで)使ってなかった。ちなみに「蛍火」の“地獄のシャワー”ってラインは結構同世代から反応ありますよ。

 

ーーあのライン、ピンとこなかったんですよ。

 

BIM:プール入る前に塩素入りの消毒シャワーを浴びなきゃいけなかったんですよ。

 

PUNPEE:自分らの頃は塩素のプールに腰まで浸かる感じだった。

 

ーーですです。BIMさんの頃はシャワーだったんだ。

 

BIM:こういうとこに地味に世代の違いがあるっすよね。

改めて日本の夏って独特なんですよね。

 

ーー“夏”という直接的な言葉がないから、このEPには不思議な雰囲気があるんですね。

 

BIM:エゴサで「パッと聴いてもわかんなくて、自分で考えて理解する感じは久しぶり」みたいな感想を見つけた時はすごく嬉しかったですね。俺もそういう夏の曲が好きだから。散文的っていうか。ちなみに途中でPUNPEEくんから「“サマー”は使っていい?」って連絡きたけど速攻で却下しました(笑)。

 

PUNPEE:大変だったけどめちゃくちゃ夏について考えてたら夏が好きになっちゃいましたね。改めて日本の夏って独特ですよ。楽しいけど湿っぽい部分がある。お盆とか。終戦記念日とか。不思議です。

 

BIM:そうそう。夏がおばけ最盛期の国って日本だけじゃないかな。1年で一番日が長くて明るい時期になんでおばけ?って。海外だとハロウィンとかじゃないですか。

 

ーーそういう意味では本作の発端となった「蛍火」の雰囲気にもつながりますね。Zepp Hanedaでの『焦年時代 リリースライブ』でも息のあったパフォーマンスで、個人的には今後も定期的になんらかの活動をしてほしいなと思っています。

 

PUNPEE:(Zepp Hanedaのライブは)実際すっごいやりやすかったですもん。

 

BIM:とりあえず来年の夏にもう一回ライブしたいですね。俺、ツイッターの自己紹介文にPUNPEEくんのリリック“低気圧BOYZ”(「Night Rider」)って入れましたから。

 

PUNPEE:ライブはまたやりたいね。実はあの一回しかやってないので。EP1枚しか出してないから、最初は(ライブの時間が)短すぎないかちょっと心配だったんですよ。でも昔の曲にヴァースを足すだけですごいいい感じになって。こんなにライブできちゃうんだって、自分でもびっくりしました(笑)。

 

BIM:ほかにもやりたい曲あったけど削ったんですよね。

 

PUNPEE:そうそう。あとなんか「グループっていいな」って。やっぱステージにBIMがいる安心感というか。もちろんいつも後ろにミチヨシくんがいるけど、また違う感じ。話し相手がいるというか。

 

ーーPUNPEEさんはZepp HanedaのMCで「ほかの季節でもEP作りたいね」と話していました。

 

PUNPEE:そこは正直未定なんですけど、制作もすごくやりやすかったんですよ。自分が「どうしよう……」ってなるとBIMがアイデアを出してくれたから。ジャケの洗眼器とか、リリックで“夏”を使わないとか。結構早い段階で「これは大丈夫だな」って思ってた。

 

BIM:俺からすると、大枠をPUNPEEくんに決めてもらって、細部の決まってないとこを俺が考えなきゃなって感じでした。普段は全部自分でやってるから、そういう意味では今回は楽チンでしたよ(笑)。あとPUNPEEくんが“蛍の滑走路掌”(「蛍火」)ってリリックを褒めてくれたの嬉しかった。

 

PUNPEE:他にもいいのいっぱいあったよ。“青田買われ/サミットとサイン翌年”(「Kids Return」)とか。“青田”って夏の季語なんですよ。(BIMと)初めて会ったのが夏だったんです。青田買いってあんま良い印象の言葉じゃないけど2人でやるなら成立するなって。

 

BIM:“青田買ったパンちゃん”と“青田買われ”た俺。それならウィンウィンでしょって(笑)。

 

ーー個人的にここ数年でBIMさんのラップの表現力がものすごく上がっていると思うんですが、実際に一緒に作業したPUNPEEさんはどのように感じていますか?

 

PUNPEE:長くやってるとどうしても似たフロウが出てきちゃうんですよ。でもBIMはいつも工夫してる。デリバリーも、メロディも。こんなにできる人、他にいないんじゃないかな……。しかもその上で面白いことも言うじゃないですか。

 

BIM:……あざっす。今回は一個のお題で大喜利して、俺とPUNPEEくんで答えを出し合ったわけじゃないですか。でも例えば「トローチ」のPUNPEEくんの入り方とかを聴いたら「こりゃ、俺もっとやんきゃダメだ」ってなるわけですよ。もちろん自分のハードルは相当高くしてるんですよ。でもね。そりゃそうっすよ。だってPUNPEEと一緒にやってんだもん。

 

PUNPEE:いやいや……。

 

BIM:あとね、これだけは言っときたいんですけど、PUNPEEと作るのはプレッシャーよ。本当に(笑)。

 

PUNPEE:実は10個も違うしね。でも自分はBIMが歳下って感覚ないな。友達。じいさんになったら2人ともタメ口になってますよ(笑)。

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