“おどる”ことに対しての思い『TOUGH PLAY』リリース記念【Lucky Kilimanjaroインタビュー】

Lucky Kilimanjaroが1年ぶりとなる3枚目のフルアルバム『TOUGH PLAY』を完成させた。今回は、ボーカルを務める熊木幸丸にアルバムのこと、そしてバンドの根底にある“おどる”ことに対しての思い、最近触れたカルチャー作品など、たっぷりと話を聞いた。

 

取材&文/笹谷淳介 撮影/米玉利朋子

 

――アルバムのお話の前に、バンドの根底にある“おどる”ことについて聞かせてください。熊木さんが考える“おどる”とはどのようなことなのでしょうか。

 

一般的に想像されるのは、体を動かして身体的に踊ることだと思うんですけど、それだけじゃなくて、僕らの“おどる”は日常的に自分が何か好きだなと思ったり、やってみたい、ワクワクする、ときめいたなどそういう感覚を元に自分で行動すること。例えば、「今日の夜〇〇が食べたいな」と思ったとき、調べ始めたりすることも僕は“おどる”ことだと思うんです。能動的に主体性を持って何かアクションを起こすこと全般を“おどる”と表現しています。

 

――なるほど。ただ今はおどりづらい世の中ですよね。

 

そうですね。おどりづらいというか、おどるのを萎縮させるような空気感はありますね。でも、だからこそ自分の“おどる”というポジションを大事にしないと、RPGで例えるなら宿屋がなくなっちゃう感覚というか。

――セーブポイントがなくなってしまう?

 

そうです! 要はものすごくハードモードになっちゃう。その状態ではとてもじゃないけど魔王は倒せない。むしろ自分のストレッサーがたくさんある状態だからこそ、そこから逃げられる、あるいはそこを耐えられるシェルターみたいな部分が絶対に必要だと思っています。Lucky Kilimanjaroとしては自分の好きなものだったり、おどれるものの価値を改めて再認識できるようなメッセージを出すべきだと思っていますし、より“おどる”ということの重要性というか、もっとおどっていいんだよと伝えていかなくちゃいけないなと思っています。

 

――今作は、まさしく踊るためのプレイリストのような気がして。前作に増してビートやリズムにフォーカスされている印象です。今作には何かコンセプトはあるんですか?

 

「好きを大事にしてほしい」というのがコンセプトですね。混乱している世の中で、しかもいろいろな物語に多様性が求められる状態だからこそ、自らのパーソナリティ、好きをちゃんと大事にしないと、僕たちは社会のうねりに飲み込まれちゃうんじゃないかという感覚があって。自分の好きを大事にするって、人生の本質というか、僕らが生きてる本質にならないのか、というところをちゃんとメッセージとして出したかったんです。

――それは、曲を作る前提としてそのコンセプトがあった?

 

そもそも、Lucky Kilimanjaroの活動は割とそういうところに根ざしていると思っています。この考えは前からあったんですけど、アルバム全体でそういうコンセプトで打ち出そうと思ったのは、先行リリースの「踊りの合図」と「楽園」が完成した時期くらいですね。今回はみんなの防御力をあげる、みたいなラインがいちばん必要なんじゃないかなと。自分の中でもそういう詞を書きたいし、そういうメッセージを出すことに意味があるなという感覚があったので、徐々にコンセプトが形成されていった感じです。

 

――特徴的なのは、繰り返すリリック。同じ言葉やキーワードを繰り返すことでの説得力、曲として強度がアップしているように感じました。

 

そうですね。僕らが昔からずっと曲中に“踊る”や“ダンス”という言葉を入れ続けているのは、ずっと言われていたら、みんなそれが当たり前に感じる錯覚に陥るんじゃないかと思っていて(笑)。反復による刷り込みって絶対あると思うんですよね。今回はそれをワンワードで重ねることで、この歌詞の意味がみんなの中で当たり前になっていくというか、だんだん刷り込まれていく感覚っていうのを作りたくて。ちょっと過剰なまでに繰り返して表現しています。

 

――サウンド的には、テクノやハウスなどスペーシーに感じる曲もあれば、ブラックミュージックの要素を感じる曲もあります。アルバムを通してサウンドで意識したことを教えてください。

 

ひとつはもっとリズムをダイナミックに、より自然なリズムをちゃんと伝えたいということで、前作よりもみんなが考えなくてもリズムが入ってくるサウンド。踊る曲だから踊るのではなく、聴いていたら踊れちゃうっていうラインをできるだけ意識しました。あとは、意図的に声を加工した声ネタをたくさん使っているんですけど、そうすることで、声という表現の可能性みたいなものを追求したかった。お客さんが声を楽器として捉える表現の仕方に挑戦しました。

――声の可能性ですか。

 

メジャーデビューしてから、自分の声にも可能性があるんじゃないかと思ったんです。歌詞で感情を表現するのではなく、声で感情を表現することもできる。歌ってもっと広い可能性があるな、と。自分の歌や声を出すことの発想と可能性をもっと伸ばしたい、かつ伝えたいということで今回は声ネタを多く使っています。

 

――実際に挑戦されて手応えはどうですか?

 

僕はもう終わったあとはできなかったことばかりが気になるので(笑)。できた感はあるんですけど、それより可能性に気づいてしまっているから、まだまだできるなという感覚です。ただ、今までより、より面白くてオリジナルなサウンドで声というところでのサウンドメイク、そして曲作りができたんじゃないかなというある一定の満足感はあります。

 

――なるほど。今までの話を踏まえると1曲目の「I’m NOT Dead」が全て詰め込まれているような感じがします。声で遊びつつ、繰り返す歌詞もある。

 

そうですね。もともと自分でサンプリング元を作って、それを自分でサンプリングするっていうアイディアを考えていて。サンプリング元として50〜60年代のドゥーワップ、ボーカルグループの感覚を自分で作ったら面白いんじゃないかというところにリファレンスがあり、それをさらにファニーな感じのハウスでまとめあげることで、面白い世界観が作れるんじゃないか。ちょっと馬鹿馬鹿しい感じというか、騒々しい感じが作れるんじゃないか、という感覚からこの曲が出来上がりました。

――とてもコミカルな曲ですよね。

 

この曲は自分の声をサンプリングしたものでもあるので、ずっと繰り返しているフレーズは歌なのか、音なのか出来るだけ区別することが難しくしています。ある意味このアルバムのコンセプトにすごく合うというか、自分でも挑戦していますし、面白いと思っているものを1曲目に持ってきた感じです。

 

――あとは個人的に「週休8日」から「楽園」の流れが気持ちよくて。

 

気持ちいいですよね! 僕も好きなところです。

 

――特に「楽園」を聴いたとき僕が求めている楽園はコレだなって思ったんです。

 

この曲はコンセプトが最初にあって、「みんなが戦い続ける日常の中の3分間だけ楽園を作ろう」、それはインスタントな楽園と言いますか、「自分の物語のベクトルが変わるような楽園をちゃんと作ろう」といったテーマで作っています。ちょっと快楽主義じゃないですけど、出来るだけ快楽を感じるサウンド。でもアウトロ部分で徐々に崩れる感覚、その快楽が続かない感覚みたいなものも大事にしながら全体を組み立てました。

 

――なるほど。「週休8日」も今の世の中には必要な考え方ですよね。

 

すごくシンプルにただただ休んでくれということを伝えています。僕もそうなんですが、音楽作っているとキリがないので、ずっとやっちゃうんですよね。でも休まないと最終的な音楽のアウトプットがギスギスする感覚があって、もっと隙間や無駄があってこそ僕らはいい音楽を作れるのかもと。それは音楽に限らず日常的な仕事をしているあらゆる人に言えると思っています。実はこの休むということがそのまま仕事の内容に直結しているというか、休む・仕事するっていう周期が大事なのであって、そこを無理にするといいものができない。だから休みましょうって。

 

――日本人がいちばん苦手なことかもしれない。

 

そうですね。バランスを取ろうよっていうね。頑張ると休むの表裏一体をちゃんと理解してその周期を大事にしてほしいなと思います。

 

――メジャーデビュー以降コンスタントにフルアルバムをリリースされています。デビューから3年が経ちましたが、どんな3年間でしたか?

 

正直もう10年くらいやっているような感じにもなっていて(笑)。ずっと制作もしていますし、ずっとツアーも回っているので、自分の中でずっと修行しているみたいな感覚です。ただ、活動の中で言い続けてきた“おどる”ということが徐々に浸透してるなという感覚に対する嬉しさはありますね。まだまだ面白いことができる、ようやくスタートラインだなという感覚もあるので、よりお客さんと一緒にコミュニケーションをとりながら、「おどれる社会」を目指していきたいと思います。

 

――熊木さんが考える「おどれる社会」とは?

 

人にやらされているという感覚が増えれば増えるほど、人は窮屈になっていくと思うので、自分が主体性を持って物事を選ぶという感覚が増えていけば良いなと思っています。もちろんそう思えるときと思えないときは当然ありますが、そういう感覚が24時間分の1時間でも増えれば、僕はより「おどれる社会」になっているんじゃないかなって。

 

――主体性を持つことって難しいですよね。

 

確かに難しいんですけどね(笑)。でもそういう考え方やスタンスのあり方を少しでも多くの人にLucky Kilimanjaroの音楽を通して伝えられたらいいなと思っています。

――最後に音楽以外のお話も。カルチャー好きの熊木さんですが最近特に印象的だった作品はありますか?

 

映画だと『コーダ あいのうた』が最近では印象に残っています。耳が聞こえない家族の話で、娘だけ健聴者で歌がすごく好き、でもその歌は家族には聞こえないという中で、ストーリーに家族の闇や希望の部分が全部詰まっていて、すごくいい作品でした。信じられないくらい泣きました(笑)。

 

――音楽や本はどうですか?

 

FKAツイッグスのアルバムはヤバかったですね。ちょっとショックを受けちゃってしばらく他の音楽が聞けなかったです。音像や表現しているジャンルの引用とかも含めて、ちょっとレベルが違う感じ。僕は日常的に絶対1日100曲くらい聞くようにしているんですけど、それがしばらくできなくなっちゃうくらい衝撃でした。

 

あと、最近読んだ本だと年始に読んだ東畑開人さんの『心はどこへ消えた』が良かったですね。精神的なケアをするお医者さんのエッセイなんですけど、書いている内容も自分の中で発見がたくさんあって、すごくよかったです。

 

Lucky Kilimanjaro『TOUGH PLAY』

¥2970/Dreamusic

 

 

Lucky Kilimanjaro公式サイト

Lucky Kilimanjaro公式Twitter

 

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