自ら築いた草の根のネットワークを頼りに全国のライヴハウスやカフェ、飲み屋などをツアーして回り、人によっては年間100本を超えるライヴを行なう“ツアー・ミュージシャン”たち。笑いと涙、心の痛み、そしてささやかな希望が息づく彼らの歌には、たまらなく人懐っこい魅力がある。
そんな彼らの活動に付きものなのが旅と酒、そしてブルーズ。ライヴと酒を通じて音楽の歓びを伝える、愛すべきツアー・ミュージシャンたちを紹介する不定期連載。第1シリーズはローリング・ピアノマン、リクオ。そして関西ブルーズ/ソウルのレジェンド有山じゅんじ!
1~2日目はリクオ、3~4日目は有山じゅんじ、そして締めはおふたりの対談を5~6日目にお届けしよう。6日連続で「旅と酒とブルーズと」スタートです。
取材・文/染野芳輝
#1 リクオ(PART1)
「旅と酒とブルーズと」。この企画にまず登場してもらうのは、コロナ禍以前は年間100本以上のライヴを行ない、自らを”ツアー・ミュージシャン”と呼ぶ、シンガー・ソングライターのリクオ。ファンキーに転がり、リリカルにメロディーを奏でる絶品のピアノ・プレイ、人の温もりやしなやかで開かれた思いを伝えるエモーショナルな歌で根強いファンを魅了してきた、隠れた逸材だ。この9月にニュー・アルバム『リクオ&ピアノ 2』をリリースした彼に、作品のこと、そしてツアー暮らしやお酒について語ってもらった。(京都・一乗寺のカフェ「OBBLi」にて)
思うようにツアーに出られず、会いたい人たちに会うこともできない日々。
地域から発信することの意味をより強く意識するようになった
ーー『リクオ&ピアノ2』。ピアノ弾き語りアルバムとしては11年ぶりだけど、こういう形でアルバムを作ることはいつ頃から考え始めたんですか?
去年の……いつだったかな、わりと早い時期には弾き語りアルバムを作ろうと決めてました。
ーーリクオさんはライヴでしばしば新曲を演奏するけど、去年の3月に高円寺のJIROKICHIでやったソロ・ライヴでずいぶん新曲をお披露目しましたよね。
そうですね。覚えてますよ、観に来てくれましたよね。
ーー「イマジン」「満月の夕」「(What’s So Funny ‘Bout) Peace , Love And Understanding」「青空」と4曲続けて歌ったカヴァー曲も、「短編映画」や「友達でなくても」をはじめとする新曲も素晴らしかった。リクオさんの弾き語りの魅力を再認識しました。
いやぁ、そう言ってもらえると……。ありがとうございます。
ーーだからニュー・アルバムが弾き語りだと聞いても違和感はなかった。オリジナル曲とカヴァー曲という構成ですが、セルフ・カヴァー1曲以外のオリジナル曲は最近書いたものですか?
じゃない曲もありますね。「友達でなくても」は2年以上前に書いた曲だし。でも、コロナ禍になって曲の意味合いが変わった曲なんですよね。今回のアルバムでカヴァーしたカンザス・シティ・バンドの「新しい町」もそうですよね。3.11以前に書かれた曲なのに、まるで3.11からの再生を歌っているように響いた曲。
ーーだからいろんなアーティストがこぞってカヴァーした。リクオさん、中川敬、T字路s、夜のストレンジャーズなどなど。やはりコロナ禍という現在の状況はアルバム作りに影響してますか?
それはもう、大きくね。今回、アルバムを作るうえで考えたのは、自分が暮らしている街、具体的には京都の人脈を活かして京都で制作するということ。それが一つのテーマでした。コロナ禍で思うようにツアーに出られず、会いたい人たちに会うこともできない日々の中で、地域から発信することの意味をより強く意識するようになっていたので、作品にもそういうスタンスを反映させたかった。
ーーグローバルな視野を持ってローカルから発信する。資料にはそんな思いが綴られています。
そういう考えはコロナ禍以前から持ってはいたんですけどね。
ーー湘南を拠点にしていた頃から。
そう。2008年から藤沢の鵠沼海岸に住んでたんですけど、その周辺には地域の繋がりを大事にする地元の人たちがいて、そうした繋がりのなかでライヴを企画してもらったりしていて、それが僕たちのライヴ活動のベースになったようなところもあったんです。
ーー地元から発信するというカルチャーがあるんですね。
そうですね。音楽好きというか、そういう店が多くてね。ライヴハウスは少ないんだけど、簡易なPAシステムがあって週末や月イチでライヴをやるような店が湘南にはすごく多かったんですね。で、そういう店同士の横の繋がりがあって、そういう中で僕も楽しませてもらいましたね。10年間。
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