「これ、ワイプに抜かれる大豆田とわ子」。Mステ出演も話題のSTUTSが改めて語る「Presence」と「大豆田とわ子と三人の元夫」

放送日である毎週火曜日が楽しみで仕方なかった、ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」。放送終了からほぼ1ヶ月が経過したが、STUTS & 松たか子 with 3exesとしてフィーチャリングラッパーのKID FRESINOと共に「ミュージックステーション」(テレビ朝日系)に出演を果たし、また8月1日からはNetflixでの配信がスタートするなど、まだまだ熱狂を呼んでいる。

ここでは、ドラマと複雑に結びついた本作についてSTUTSへのインタビューを公開。また、インタビューの最後には「Presence」のディスクレビューも掲載!

取材&文/宮崎敬太(インタビュー、レビューともに) 撮影/堀哲平

ーー「大豆田とわ子と三人の元夫」はフジテレビ系で放送されたドラマですが、STUTSさんはTBSディレクターの藤井健太郎さんから今回の主題歌について相談を受けたそうですね。

そうなんです。ドラマをプロデュースした佐野亜裕美さんはもともとTBSにいらした方なので、主題歌をラップにするということになってから藤井さんに相談したみたいで。僕が最初に話を聞いたのは去年の11月に藤井さんとプライベートでお会いした時。「坂元裕二さん脚本のドラマ主題歌で、俳優にラップしてもらおうと思うけど興味ある?」と聞かれたので、うまくできるかわからなかったですが挑戦してみたいなと思い「自分で良ければぜひやりたいです!」と答えました。そしたら12月に正式にオファーをいただけたんです。

ーー今作はドラマ本編と深く結びついていますが、オファーの段階ではどこまで決まっていたんですか?

俳優とラッパーが週替りでラップすること、劇伴をサンプリングしてトラックを作ること、エンディング映像はドラマ本編とは違った映像にすることです。サビを松(たか子)さんに歌ってもらうことは藤井さんと相談しながら決めました。せっかく一緒にやれるなら、ぜひ松さんに歌っていただきたかったので。

ーー松さんのラップありき、というのはこのドラマのユニークさを象徴するエピソードですね(笑)。

ですね。とても光栄な機会だったのですが、一歩間違うと危険な方向に転ぶ可能性もあると思ったんです。しかも僕にとっては、ゴールデンタイムのドラマ主題歌という発表の場は未知の領域。これまで以上に多くの人に聴かれるからこそ、企画ものではなくちゃんといい曲を作りたかった。今まで以上に色んなことを考えながら作りました。

ーー客演ラッパーには若手の実力派がずらりと並びました。

ドラマの内容を踏まえつつ、企画や俳優との相性も考慮して、人選を考えました。僕たちが人選を考えてた12月の段階では、まだ劇伴がでないからトラックもないし、大まかなプロットも第1章(1〜6話)までしかなくて。ごく最初の段階では各話に違うラッパーさんを呼ぶ案もあったんですが、最終的に曲としてリリースするときにどういう形が一番きれいなのかを考えて、5人のラッパーさんに2ヴァースずつ作ってもらい、1〜5話は1ヴァース目、6〜10話は2ヴァース目を流すという形を提案しました。

ーー俳優とラッパーの組み合わせはどのように決めたんですか?

人選と並行して進めていたんですが、ドラマのキャラクターとも相性の良い組み合わせになるように考えました。「BIMくんの歌詞の世界観なら、岡田将生さん演じる(中村)慎森の不器用でかわいい感じをうまく書けそう」みたいな。

ーーたしかに角田晃広(東京03)さん演じる(佐藤)鹿太郎はNENEさんみたいなかっこいい女性に振り回されてそうだし、松田龍平さん演じる(田中)八作の柔和だけど色気ある雰囲気はDaichi Yamamotoさんに通じる部分がありますね。

そうなんですよ(笑)。で「あと1人は誰がいいかな」と悩んでたとき、藤井さんが「T-Pablowくんはどうかな?」と提案してくれたんです。オファーを受けていただけるのならぜひご一緒したかったので、OKの返事が来た時はすごく嬉しかったです。今回のプロジェクトには、いろんなスタイルの方に参加してもらいたいという思いもあったので、最高のメンツになったと思います。

ーートラック制作で意識したことを教えてください。

4パターンくらい作ったのですが、その中でもラッパーさんの色に染まりやすい、自由度の高いトラックが今のものだったのでそれをブラッシュアップさせました。

ーー最初はラッパーごとにビートを差し替えているのかと思いました。

BIMくんとNENEさんの2ヴァース目はちょっと変えてるんですが、基本はすべて同じトラックです。

皆さんがあのビートに対してそれぞれの解釈をした結果、曲全体の印象が変わって聴こえるようになったので面白かったです。

ーー松さんパートのサビ、ブリッジはシンガーソングライターのbutajiさんとの共作ですね。

最初は自分で挑戦しようと思ったんですが、今回はいろんな人に聴かれることを考えて、大きなメロディーが書ける人にお願いすることにしました。でもなかなか適任者が思い浮かばなくて。楽器で歌謡曲っぽいメロディーを作る人、トラックにR&Bっぽいメロディを当てられる人はいるんですけど、トラックに歌謡曲っぽいメロディをつけられる人は意外と少ないんですよ。

ーー同時にヒップホップやアンダーグラウンドなダンスミュージックのノリも知っててほしいですよね。

そうなんです。あれこれ悩んでたらA&R兼マネージャーの平川さんがbutajiさんを勧めてくれて。聴いてみたら理想的だったのでオファーさせていただきました。一緒に打ち合わせしながら1から考えるつもりだったんですけど、最初のミーティングで3パターンも良いメロディを作ってきてくれて(笑)。僕なりにいじってみたりもしたけど、butajiさんが作ってくれたメロディーが良すぎて、ほぼそのまま活かしました。あと最後のサビ前にブリッジを入れたくなったので、その部分の歌メロは一緒に作りました。歌詞に関しては大半をbutajiさんが書いて、気づいた部分は僕からも提案しました。

ーー具体的には?

聴いていて気持ちいいグルーヴとなるような言葉や譜割りを提案したり、いろんな人が自由に解釈して共感できるような方向性に寄せたりですね。ドラマの設定資料集を読んでいて、このドラマには「Realize」というか、感じ方で世界は変わると気づく要素があると思って、サビの最後のフレーズを「それでも私は」から「夢はもう醒めた」にしてもらったり。

ーータイトルはどのように決めたんですか?

butajiさんが書いた歌詞「私か“自分で”決めた幸せの姿」から連想しました。そこから「存在」って言葉が浮かんで。平川さんと一緒に、抽象的でインパクトある英単語の案を色々出して「Presence」にたどり着きました。

ーーレコーディングでは松さんにどんなディレクションをしましたか?

日本語をはっきり発音するというよりは、流れるように歌っていただきたいということですね。松さんの歌にあれこれ言うのは恐れ多かったのですが、自分の作品として出すからには納得いくまでやらないと後悔すると思ったので、この部分はこういう感情で歌ってほしいということなど色々お願いしました。松さんの歌を聴いて思ったのは、ピッチやリズムの上手さとは別次元の歌い手の内面から出てくる要素の重要性です。今回は改めて松さんの表現者としての凄みを痛感させられました。

ーードラマ放送時はMV風のエンディング映像も話題になりましたが、なぜ映像作家・丸山雄大さんが起用されたんですか?

当初から、エンディングをドラマとは違う世界観にしたいと佐野さんから聞いていたので、僕から丸山さんを提案しました。笹塚ボウルで撮影した1話目以外は、ロケーションやスケジュール調整も含めて、こちら側でハンドリングさせてもらえました。

ーーということは「Presence」のプロジェクト全体のプロデュースをしたということですか?

はい。配信や情報解禁のタイミングも佐野さんと相談しながら考えました。1話目の放送後に「Presence I」のMVと楽曲配信をするということは決まっていたのですが、「Presence II」以降はネタバレできる7話目放送後から毎週順次配信して、最終回の翌週にリミックスも出たら最高かな、と。素晴らしいラッパーの皆さんに参加してもらえたので一堂に会する場を作りたくて。

ーー編集部には通常放送前に事前情報が届きますが、今回は関係者も視聴者と同じようにリアタイで放送を観ていたので驚いた人も多かったはず(笑)。

ドラマを観るほとんどの方は僕らを知らないと思うのですが、こんなやり方で進めさせくれた佐野さんと坂元さんにはすごく感謝しています。今回は自分のプロデューサーとしての面をしっかり出せたし、新しい経験もたくさんできました。

STUTS&松たか子 with 3exes「Presence」ディスクレビュー

■改めて考える、大豆田とわ子の魅力とは。必要不可欠だったbutajiの視点。

「これ、ワイプに抜かれる大豆田とわ子」。

STUTS & 松たか子 with 3exesが「ミュージックステーション」でKID FRESINOと「Presence I」を披露した。放送中にドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」の脚本を書いた坂元裕二はインスタグラムのストーリーに前述のコメントを投稿した。多くのまめロスたちも緊張したような彼女の面持ちを見て、似たようなツッコミを伊藤沙莉のナレーションで脳内補完していたはずだ。実際私自身も、松たか子というより、大豆田とわ子が歌っているような感覚で番組を見ていた。

STUTSや客演ラッパーたちの素晴らしさはさまざまなところで語られていると思うので、ここでは松たか子パートのメロディと歌詞をSTUTSと共作したシンガーソングライター・butajiについて書こうと思う。

butajiは東京を拠点に活動するシンガーソングライターで、これまで2枚のアルバムと4枚のシングルを発表している。BECK、七尾旅人からの影響を公言しており、フォーキーな歌をベースに、曲によってはソウルやゴスペル、さらに日本の80年代歌謡曲のような質感すらも表現する。また作曲にダンスミュージックや電子音楽の要素を取り込んでいることも特徴と言える。

彼は2ndアルバム「告白」のリリース後、オフィシャルサイト(http://butaji.com/)のインタビューで「『今いるところから別の場所に移動する』という選択肢って、優位な立場にいる人しか選べない」とマイノリティからの視点を言及し、作詞については「誰かの立場になって『きっとこの人ならこういう節回しだろうな』みたいなところから曲をつくりはじめたり、その人の立場で歌詞を書いてみたりとか、僕にはそういう癖が昔からあって」と話していた。

アルバム「Presence」にはbutajiがフルコーラスを歌う「Presence Reprise (feat. butaji)」 が収録されている。ドラマを最終回まで見た上で、butajiが歌うこの曲を聴くと、「大豆田とわ子と三人の元夫」とは、とわ子が選択肢を得るまでの過程を描いた作品だったのではないかと思わされた。

側から見るとわ子は建築デザイン会社の社長で経済的には恵まれている。だが3回の離婚を経験したことで、社会からの疎外されたように感じ、自身のパーソナリティーに確証が持てない部分があった。が、そこはあえて考えないように生きていた。物語は亡くなった母が設定して開かなくなかったパソコンのパスワードを探すシーンからスタートする。そしてとわ子は自分が愛した元夫たち(過去)と再び交流せざる(向き合わざる)を得なくなり、娘、親友、父、母、仕事との関係性の中で、自分の「曖昧で純粋で/私が自分で決めた/幸せの姿」を見つけていく。

おそらくとわ子の生々しいほどの実在感は、作り手が彼女を客観的に描き、視聴者にイメージを委ねたからこそ生まれた。だからみんな彼女を一口では説明できない。あまりにもいろんな面を知ってるから。そして受け取り方も見る人によってそれぞれ違う。

当たり前のことだが、人を一方向から解釈することはできない。あそこではこうだけど、ここではこう。自己矛盾なんて当たり前。T-Pablowのように力強いこともあれば、KID FRESINOのように飄々としているときもある。その意味でも、「Presence」に、そして「大豆田とわ子と三人の元夫」に、butajiの繊細な視点は不可欠だった。

こうして思い返すとやはり感じるのだ。「『大豆田とわ子と三人の元夫』、また来週っ!」からの「Presence」の流れを毎週見ていたあの時間はとても幸せだった。

STUTS(すたっつ)●トラックメーカー。16年に1stアルバム『Pushin’』を発表。同作が星野源の耳に留まり「アイデア」などで共演。18年には「NHK紅白歌合戦」のオープニング音楽を手がけた。21年にドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」の主題歌をプロデュース。

STUTS&松たか子 with 3exes

「Presence」

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