星取りレビュー:『シビル・ウォー アメリカ最後の日』【2024年10月号映画コラム】

今回、星取りレビューでピックアップするのはA24が史上最高の製作費を投じ、米国で起こる内戦を描いた『シビル・ウォー アメリカ最後の日』です。(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

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<今月の評者>
柳下毅一郎
やなした・きいちろう●アラン・ムーア+ジェイセン・バロウズのクトゥルーもの〈ネオノミコン〉シリーズの翻訳が完結しました。国書刊行会より。

大森望
おおもり・のぞみ●SF翻訳家。短編集があと1冊分だけ残っている劉慈欣(『三体』)未訳短編の翻訳作業中。順調に行けばたぶん年末には刊行される予定。

地畑寧子
ちばた・やすこ●Netflix『地面師たち』面白すぎて一気見。安心して見られる役者さんばかりってやっぱりいいですね。もちろん大根監督の演出も冴えわたってます。


『シビル・ウォー アメリカ最後の日』

監督・脚本/アレックス・ガーランド 出演/キルステン・ダンスト ワグネル・モウラ スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン ケイリー・スピーニ―ほか(109分/24年アメリカ・イギリス)

●連邦政府から19の州が離脱したというアメリカでは、大規模な分断が進み、「西部勢力」と「政府軍」による内戦が勃発していた。4人のジャーナリスト・チームは“14カ月一度も取材を受けていない”という大統領への単独取材を狙い、ニューヨークから約1300km、戦場と化した道を走りホワイトハウスを目指すが――。

全国公開中

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柳下毅一郎

麻痺する過程
→戦場カメラマンのキルステン・ダンストに憧れる小娘が一人前の戦場カメラマンとして死体をばんばん撮れるようになるまでの話なのだが、成長というよりは単に残虐行為に慣れてがさつに鈍感になってしまったようにも見える。師匠の方も「アメリカにこれ(=戦火)を持ち込ませないために戦争報道をしてきたのに」と嘆いてるくらいで、まあいい気なものである。本気でシミュレーションすると洒落にならない話になってしまうからか、わりと寓話っぽくなってしまって、それでは衝撃もあまりないね。

★★★☆☆

 

大森望

三丁目が戦争です
→いまどき報道カメラマンが主役の内戦映画か。と思っていたら、7月のトランプ狙撃事件でAP通信のエヴァン・ヴッチが撮った〝奇跡の1枚〟が脚光を浴び、さすがガーランド監督、持ってる男は違うなと思っていたら、その騒動もたちまち忘れ去られ、現実のアメリカはこの映画以上にマンガ的というか(70年代の)筒井康隆的なのだった。シャーロッツヴィルを舞台にしたジョスリン・ニコール・ジョンソンの終末SF『モンティチェロ 終末の町で』を読んだばかりだったので個人的にもタイムリー。野心満々のケイリー・スピーニーが意外とよかった。

★★★☆☆

 

地畑寧子

米国の現在の空気感
→冒頭、テキサス州とカリフォルニア州が同盟!? の設定にびっくり苦笑したものの、その後に続く国家分断の構図は至極真っ当で引き込まれる。そして露呈するのが生命を軽視していることさえ自覚していない、感情が麻痺した人の心。そら恐ろしい。そこにはもはや民主主義国家の欠片もなく、幾多の蛮行を伝えてきた戦場カメラマン、リー(ダンストが妙演)のまさか母国で…のおののきが胸に迫る。この作品でもガーランド監督の視線は冷徹だ。大統領が拳を振り上げて全国民をまとめてた時代(『インデペンデンス・デイ』)は、遠くなりにけり、のようだ。

★★★★☆


<今月の推し>

柳下毅一郎…『The Search for Weng Weng』

世界最小のスパイ

世界最小のスーパースパイ、ウェンウェンは1980年代の頭、フィリピン映画界に彗星のようにあらわれた。フィリピン製のスパイ映画で生まれながらの『007』のパロディを演じ、アジアのトラッシュ映画ファンの心を鷲掴みにしたウェンウェン。数年活躍して姿を消したウェンウェンにとりつかれたオーストラリアのトラッシュ・ビデオ屋が映画を作り本まで書いてしまったのだが実にイメルダ・マルコスまで登場する驚きの大冒険なのだ。

『The Search for Weng Weng』
監督/アンドリュー・リーヴォルド 出演/ティコイ・アギルスほか(92分/07年 オーストラリア)
1980年代に映画界で活躍し、国際的にも知られた世界最小の映画スター、ウェンウェンの背後にある真実を探る。フィリピンB級映画の奇妙な歴史をたどるドキュメンタリー。

 

大森望…中国ドラマ『慶余年2』

大ヒット作のシーズン2

中国ドラマにハマって『瓔珞』『如懿伝』『明蘭』『花の都に虎われて』『国子監は花盛り』『黒豊と白夕』(+現代ラブコメ群)……と大量に観た中で(趙露思の主演作は別にして)、一番面白かったのが、猫腻のネット小説が原作の『慶余年』。「現代の学生が書いた異世界転生もののSF時代劇」という枠物語構造を使ってメタ要素のあるノリノリのアクションコメディに仕上げている。主役の張若昀がすばらしい。『2』も快調です(夏休みに完走)。

©Tencent Pictures Culture Media Company Limited/©New Classics Television Entertainment Investment Co., Ltd.

シーズン1『慶余年~麒麟児、現る~』
監督/スン・ハオ 出演/チャン・ルオユン リー・チンほか(全46話/19-20年中国)
現代から戦乱の世に転生した主人公の活躍を描く爽快歴史エンターテイメント。

U-NEXTにて配信中

※シーズン2はRakuten Viki→VPN経由で視聴可。

 

地畑寧子…『ターゲット・ブルー』

追悼 元奎(ユン・ケイ/コーリー・ユン)

スターの訃報続きだが、香港電影迷として衝撃なのは、監督&武術監督の元奎の訃報。同門のサモハンらと異なり裏方に徹した人で、彼の職人芸は『トランスポーター』のJ・ステイサムも絶賛していた。ジェット・リーの米国映画での活躍も彼の手腕が大きかったと思う。二人のコラボで忘れ難いのが、中国返還間近の香港が舞台の『ターゲット・ブルー』(93)。リーのストイックな演技とアクションを活かしきった作品で終盤は涙。私的には元ネタ(『ボディガード』)より数段好みである。

監督・アクション監督/ユン・ケイ 出演/ジェット・リー クリスティ・チョン ケント・チェンほか(93分/94年香港)
香港。中国政府直属のSPのエキスパート、チンは企業の不正がらみの殺人を目撃したために命を狙われている美女ミシェルの身辺警護と対峙することになる。

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