インターナショナルな映画作りでは遥か日本の先を走っている感の強い韓国映画界。作品を支える重要な要素のひとつ、VFXについても高いクオリティを誇っている。『THE MOON』は、そんななかでVFXに特化した作品を得意とする『神と共に』のキム・ヨンファ監督によるサバイバルSF。月を目指す韓国の有人ロケットに乗り込み、ひとり生き残った宇宙飛行士を地球に生還させるため奔走する人々を描いている。
もちろん、月やロケット発射シーンはデジタルだが、そのクオリティはインターナショナル。決してハリウッドに負けていない。自らが設立したVFXスタジオももつヨンファ監督の声をお届けしますよ!
取材・文/渡辺麻紀
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■『THE MOON』は国家と人種を越えた救出劇。観客に人類愛や愛の心を感じてもらえればとても嬉しいよ。
――あなたはVFXを駆使した映画が得意という印象です。そういう映画の面白さや魅力はどこにあると思いますか。また、韓国の映画界での意義のような要素があるなら教えてください。
映画館の力が韓国における映画産業のみならず全世界的に必要な状況だと考えている。様々な要素のなかで、VFX映画は私たちに楽しみを提供してくれるという点で大きく寄与しているんじゃないだろうか。しかし、私はこれを、テクノロジーではなくアートと捉えている。人間の感情を支配するストーリーテリングのなかで生きる、動くアートなんだよ。
―― 『THE MOON』というタイトルがとても象徴的です。このタイトルにはどういう想いや意味を込めたのでしょうか?
月はロマンチックでもあるから、多くのおとぎ話やファンタジーが生まれたんだと思う。でも、私たちが見ている月は表だけで裏を見ることは出来ない。表は暖かく、ファンタジーも生み出すけれど、月の裏が生み出す漆黒の闇は恐怖を与えると、私は思うんだ。それって、まるで人間のようじゃない? 決して一面的じゃないところが。そういうことも想起してほしかったのでこのタイトルを選んだんだ。
――本作のテーマから『アポロ13』や『オデッセイ』、『ゼロ・グラビティ』等の宇宙をテーマにしたハリウッド映画を連想しました。そういう映画から何かヒントをもらいましたか? あなた自身、そういうSF系映画でお好きな作品があれば教えてください!
本作の着想を得たのは、そういう作品を観る前だった。十数年前、たまたま韓国天文研究院の博士のインタビューを目にする機会があり、人間関係に誤解が生まれたときにどのように解決したらよいのかを尋ねると、博士が「星を眺めつつ、誤解された人と焼酎でも飲みながら謝ればよいのです。人間の存在なんて宇宙のなかでは塵のようなもの。なので星を見れば謝ることができますし、あらゆる誤解や葛藤も解決するでしょう」と仰っていて、何か崇高なものを感じたんだ。それがこの作品の大きなヒントになった。
ハリウッド映画ではジェームズ·キャメロンの『アバター』が好きだし、幼い頃はジョージ·ルーカスの『スター・ウォーズ』シリーズを見ながら夢を育んでいた。
―― 今年のアカデミー賞で日本の『ゴジラ-1.0』がアジア映画では初めて視覚効果賞を受賞しました。VFXスタジオを立ち上げたあなたはこれをどう捉えましたか?
2013年、『ミスターGO!』を制作するためにデクスター・スタジオを起ち上げた。実際にVFX制作を経験したことのある身として、『ゴジラ-1.0』の受賞がいかなる困難を乗り越えたのか想像に難くない。日本のこのような試みは、パンデミック以降の映画市場に大きな影響を与えたと思う。クリエイターに勇気を与える素晴らしい出来事だよ。クリエイターを代表して感謝を申し上げたい。
――アイドルグループ、EXOのド・ギョンスが月に取り残されるアストロノーツ、ファン・ソヌを演じています。この役は彼にとっても挑戦だったと思います。彼に出した宿題は? 彼とはどういう話をしましたか? 彼の魅力はどこにあると思いますか?
私は『神と共に』でド・ギョンスと組んでいて、彼以外の俳優は考えられなかった。他の俳優を想像したこともない。私が生み出したソヌというキャラクターをド・ギョンスが引き受けてくれたとき、シナリオのなかのソヌがどのように生まれ変わるのかを心から楽しみにしていたんだけれど、彼が作り上げたソヌは、私の想像をはるかに超え完璧で素晴らしかった。ド・ギョンスは、撮影中から、編集を経て映画が完成するまでずっと、私に無限のインスピレーションを与えてくれる俳優だった。
――国や人種を越え、みんながひとつになってソヌを救出しようとするくだりが感動的でした。監督&脚本家として、ここにどういう想いを込めたのでしょうか?
人間は誰もが安らぎを必要としている。そして、自分自身に素直になったときに初めて、安らぎを得る資格を持つことができる。私は映画を作るなかで、人間性を大切に考えているんだけれど、それは温かさや優しさだけではなく、多様で計り知れない人間の本質のこと。本作では、ソヌと、韓国の宇宙センターのジェグク、そしてNASAのムニョン、三人がお互いに通じ合い、それが国家と人種を越えた救出劇となった。観客に人類愛や愛の心を感じてもらえればとても嬉しいよ。
■プロフィール
監督・脚本 キム・ヨンファ
1971年9月25日生まれ。おもな監督作品に『カンナさん大成功です!』(06)、青龍映画賞・大鐘賞で最優秀監督賞を受賞した『国家代表!?』(09)、VFX制作会社デクスター・スタジオを設立して制作した『ミスターGO!』(13)など。『神と共に 第一章:罪と罰』(17)では、百想芸術大賞監督賞を受賞。続編『神と共に 第二章:因と縁』(18)との累計観客動員数は2,700万人を突破した。
■作品紹介
『THE MOON』
●韓国のロケット「ウリ号」は月面の有人探査をかなえるため、3人のクルーを乗せ宇宙へ飛び立つ。しかし月周回軌道への進入を目前にしながら、太陽風の影響で通信トラブルが発生。修理のため船
外に出たクルー2人が事故で命を落としてしまう。唯一残された新人宇宙飛行士ソヌを必ず生還させようと、5年前の有人ロケット爆発事故の責任を取り組織を去ったジェグクが呼び戻される。そんな中、ソヌは月面への着陸を成功させ、地球へと戻ろうと奮闘するが……。
監督・脚本:キム・ヨンファ 出演:ソル・ギョング ド・ギョンス キム・ヒエ チョ·ハンチョルほか (2023/韓国/129分)
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