星取りレビュー:第96回アカデミー賞 国際長編映画賞・音響賞の2部門を受賞した『関心領域』【2024年5月号映画コラム】

今回からSF翻訳家の大森望さんがメンバーに入ってくれた星取りコーナー! ピックアップするのはアウシュビッツ収容所の隣で幸せに暮らす家族を描き、第96回アカデミー賞 国際長編映画賞・音響賞の2部門を受賞した衝撃作『関心領域』です。
「今月の推し」では、星取りレビュアーのお三方がプッシュする作品をご紹介。
(星の数は0~5で、☆☆☆☆☆~★★★★★で表記、0.5は「半」で表記)

◆そのほかの映画特集はこちら

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<今月の評者>
柳下毅一郎
やなした・きいちろう●映画評論家・特殊翻訳家。NHKの『ダークサイド・ミステリー』に出演して殺人者の話をしてきました。しかし栗山千明様には会えなかったし、そもそも番組を見ることすらできていません。

大森望
おおもり・のぞみ●SF翻訳家。劉慈欣『三体』三部作文庫化のためにひたすらiPad上でゲラを読む日々。『三体Ⅲ 死神永生』文庫版は6月19日(水)発売。

地畑寧子
ちばた・やすこ●映画ライター。『三体』中国版ドラマ30話に没入。理解が追いつかない部分はあるものの、事象、人物関係全てにおいて原作に忠実な点が好感触。葉文潔の青年期役の王子文が可憐でいい。

『関心領域』 

配給:ハピネットファントム・スタジオ                            ©Two Wolves Films Limited, Extreme Emotions BIS Limited, Soft Money LLC and Channel Four Television Corporation 2023. All Rights Reserved.

監督・脚本:ジョナサン・グレイザー 原作:マーティン・エイミス『関心領域』(早川書房刊) 
出演:クリスティアン・フリーデル ザンドラ・ヒュラーほか 
(106分/2023年アメリカ・イギリス・ポーランド)

●1945年、アウシュビッツ収容所の所長ルドルフ・ヘスとその妻ら家族は、収容所の隣で幸せに暮らしていた。しかし、壁ひとつ隔てたアウシュビッツ収容所の存在が、音、煙、そして気配などから着実に伝わってくる――。『アンダー・ザ・スキン 種の捕食』のジョナサン・グレイザー監督が手がけ、2023年・カンヌ国際映画祭コンペティション部門でグランプリ、第96回アカデミー賞で国際長編映画賞、音響賞を受賞した。

5月24日(金)より新宿ピカデリー、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開


柳下毅一郎

描かれないものが一番怖い

→この映画の主人公達は決して壁の向こうの出来事に無関心なわけではなく、知ったうえで積極的に壁のこちら側に「楽園」をこしらえている。つまり彼らは意識した差別主義者であり、まじりっけないナチそのものなのだ。とはいえ、壁の向こう側を見ないようにすることもまたやはり“関心領域”だと言わざるを得ないわけで、その意味でも、アカデミー賞授賞式でのジョナサン・グレイザーのスピーチへの反応はグロテスクと言わざるを得なかった。自分にとっての壁がどこなのか、思わず考えてしまう映画である。

★★★★☆

 

大森望

本当は恐しいホームドラマ

→奥様の名はヘートヴィヒ。旦那様の名はルドルフ。ごく普通の二人は、ごく普通の恋をし、ごく普通の結婚をしました。でもただ一つ違っていたのは、お隣は旦那様が所長を務める絶滅収容所だったのです――という〝本当は恐しいホームドラマ〟。なんともショッキングな設定だが、それを知らずに見るのが事実上不可能(ネタバレ不可避)であることが玉に瑕か。なお、ちらっと眺めてみたところ、マーティン・エイミスの原作は、設定以外ぜんぜん違う話みたいです。あと、旦那様のヘス(Höß)はナチ副総統だったヘス(Heß)とは別人なので注意。

★★★★☆

 

地畑寧子

不安をあおる楽曲が耳から離れない

→人はかくも無神経に生きられるのかをえぐり出した稀に見る恐怖映画。ナチス将校の夫は“荷”の処理と分別の効率に勤しみさらなる出世を目指し、妻は“荷”からはぎ取ったもので送る豊かな生活にしがみつき、ユダヤ人宅で働いていた母親に、“成功”を遠回しに自慢する。これらが美しい花々に囲まれた穏やかな日常会話のなかで展開するそら恐ろしさは、記憶から消えないだろう。壁の向こうで絶えず立ち上る煙、夜間の閃光、かすかに聞こえてくる絶叫などわずかな描写でかの暴虐を匂わせているのも巧い。ヘンゼルとグレーテルの引用、ネガ反転シーンの暗喩もかみしめたい。

★★★★★


<今月の推し>

柳下毅一郎…『青春』

工場の青春! 恋の花咲く!

とんでもなく長くて地味なドキュメンタリーばかりを作る王兵(ワン・ビン)、今度の映画はわずか三時間半で中国浙江省にある繊維工場で働く無名の男女を追いかけたドキュメンタリー。小品だ(笑)。例によって見はじめるとやめられなくなり、無名の若者たちの顔がどんどん魅力的に見えてきて、彼らの行く末を知りたくなるこれぞ王兵マジック。なお、小品と思ったらこれは三部作の第一部でしかなく、このあと二本続くんだそうです。

© 2023 Gladys Glover – House on Fire – CS Production – ARTE France Cinéma – Les Films Fauves – Volya Films – WANG bing

監督:ワン・ビン (215分/2023年フランス、ルクセンブルク、オランダ)
●上海を中心に広がる「長江デルタ地域」。経済規模はここだけで日本のGDPを上回る。この巨大経済地域の小さな衣料品工場で働く中国の若者にフォーカスしたドキュメンタリー。

シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開中

 

大森望…Netflixシリーズ『三体』

神技アレンジが冴え渡る

原作に思い切り忠実だったテンセント版(中国版)とは対照的に、三部作の登場人物と出来事を大胆に整理・統合。北京を舞台にしたバディものの警察サスペンス(+SF)が、ロンドンを舞台にした青春群像劇(+SF)へと変貌する。それでいて原作の骨組みは変わらないという神技アレンジには脱帽するほかないが、完成まで何年も待たされた割に、配信されたらあっという間に見終わってしまった。一刻も早く第二シーズンをつくっていただきたい。


エグゼクティブプロデューサー:デビッド・ベニオフ D・B・ワイスほか
監督:デレク・ツァン アンドリュー・スタントンほか
出演:ジョバン・アデポ リーアム・カニンガムほか(2024年英、米、中)
●才能豊かな5人の友が、天地を揺るがす恐るべき事実を発見。やがて、人類存亡の危機が明らかになっていく。

Netflixで独占配信中

 

地畑寧子…『オールド・フォックス 11歳の選択』

父子の機微が心に染み入る

店と家を得るという夢に向かって父親と倹約生活を送る小学校5年生のリャオジエが、他人を思いやる父とは真反対の価値観を持つ地主シャ(あだ名がOLD FOX/老狐狸)に気に入られ、揺れ動くさまを綴った共感度大の作品。一代で財をなしたシャの処世術も納得できる部分もあり、他者の痛みを無視したリャオジェに思わず手をあげてしまう父の激しい一面に思わず涙。舞台になっている1990年前後の台湾の社会状況の描き込みも巧い。30年後のオチも心地よい。

©2023 BIT PRODUCTION CO., LTD. ALL RIGHT RESERVED.

監督:シャオ・ヤーチュエン
出演:バイ・ルンイン リウ・グァンティン アキオ・チェン 門脇麦ほか(112分/2023年台、日)

●1989年、台北郊外。レストランで働く父と慎ましく暮らす11歳のリャオジエは、「腹黒いキツネ」と呼ばれる地主のシャと出会う。

6月14日(金)新宿武蔵野館ほか全国ロードショー

 

 

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TV Bros.編集部
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