コミックから始まり、TVアニメシリーズや実写映画等、メディアを変えてロングセラーな人気をキープしてきた『ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズ』。見た目はちょっとグロいが、心はヒーローの彼らが、現在公開中の最新作『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』で再びスクリーンにカムバックしている。注目すべきは本作が長編アニメーションである点。『スパイダーバース』シリーズの登場によって米国アニメが変わりつつある今、その自由さを取り入れた、絶対にチェックしておかなくてはいけない作品になっているのだ。
今回は、セス・ローゲンのプロデュースのもと、監督を務めたジェフ・ロウにインタビュー。アメリカのアニメ事情も聞いてみましたよ!
なお、この記事は『TV Bros.』本誌10月号(発売中)でも読むことができます。
生配信『【柳下毅一郎 × 渡辺麻紀】月刊 映画言いたい放題大放談!(仮)』でも、『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』について語っています。
取材・文/渡辺麻紀
「米国のアニメ業界において、今はまさにワクワクする時期なんだ」
――『~ニンジャ・タートルズ』のファンだったんですか?
ジェフ・ロウ監督(以下ジェフ)「そうだよ。4歳くらいの頃、TVのアニメーションシリーズが大好きだった。コミック系のヒーローというのは基本、シリアスな世界に生きている場合が多いのに、彼らはどちらかというとユルいだろ? 自分たちをシリアスに捉えてないからだし、ヘンで楽しい。それにパンキッシュだったから。とはいえ、子ども心に刺さったのは、実はオモチャのデザインが大好きだったからなんだけどさ(笑)」
――今回のアニメバージョンには、そのあなたの挙げたポイントが活かされていますね?
ジェフ「そうそう(笑)。それに、90年代のアメリカで流行っていたアニメのキャラクターデザインは、ちょっと崩した感じというかモンスター風というか……ひと言でいうとグロテスクかな。そういう風にデフォルメしたタッチが好きだったことも、今回の作風に影響しているんだ。もうひとつ、絶対に死守したかったのは、タートルズをティーンエイジャーにすること。これまではおっさんっぽかったから、彼らを若返らせたかった。これは僕だけのこだわりじゃなく、プロデューサーのセス(・ローゲン)も同じ意見だった。実は初めて彼に会ったとき、その部分で盛り上がったんだよ(笑)」
――カメのティーンエイジャーですが、かなりリアルな感じですね。
ジェフ「単なるティーンエイジャーじゃなく、リアルなティーンエイジャーを目指したからね。セスの映画にはいつも、そういうホンモノのティーンが出てるじゃない? 『スーパーバッド 童貞ウォーズ』(07)とかさ。だから、声優も本当のティーンにやってもらっているんだよ」
――そういうリアルなティーンという点においても、『スパイダーバース』シリーズ(『スパイダーマン:スパイダーバース』〈18〉、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』〈23〉)の影響を感じます。その成功があったからこそ、こういう作品を作ることが出来たと思いますか?
ジェフ「まさにそうだよ。米国のアニメ業界において、今はまさにワクワクする時期。ここに来てやっとアメリカのスタジオは、これまでとは異なるルックやスタイルにチャレンジするようになった。過去30年間のアメリカアニメって実写的。フォトリアリズムを追い過ぎたように感じている。そのせいで、人間性であったり、アーティストが加えてくれるはずの温かみが消えてしまったような気がする。『スパイダーバース』は、アニメーターにアートを返してくれたような作品だと思うんだ」
――30年前といえば、それこそピクサーが登場した辺りじゃないですか? もしかして暗に、ディズニーやピクサーがアニメにそういう価値観を定着させてしまったと言っている?
ジェフ「うん(笑)。あとはドリームワークスも。あくまでアンチテーゼとしてだけど。ピクサーに関しては素晴らしい作品が才能豊かなアーティストたちによって生み出されたと思う。アーティスティックな作品になってはいるんだけど、個人的には共感出来ないものが多かった。たとえば、ピクサーに登場する家はとてもきれいだろ? インテリアや家具はまさにパーフェクト。趣味のいい人がお金をかけてしつらえたという感じだ。でも、僕のこの前の作品、『ミッチェル家とマシンの反乱』(21)に登場する家は、本当にそこに人が暮らしているという感じがするはずなんだ。旧式の家電があったり壁に落書きがあったり、買ってきてまだしまってない買い物袋があったり。そういうリアリズムが僕は大好きなんだ」
子どもの頃大好きだったのは『新機動戦記ガンダムW』と『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』
――タートルズの師匠、スプリンターはネズミですが、彼が「“レミー”と呼ぶな!」と叫びます。これはピクサーの『レミーのおいしいレストラン』(07)ですよね? そういう思いを込めたセリフだったんですか?
ジェフ「そうそう(笑)。でも、ケンカ腰じゃないよ。みんながいろんなアニメを作ってもいいじゃないか、という思いを込めたんだ。そのほうが絶対、アメリカのアニメのレベルが上がるから」
――でも、その監督、ブラッド・バードも「アニメといえばファミリームービーと決めつけるアメリカのスタジオが嫌だ」と言っていましたよ。
ジェフ「その通りだよ。アメリカの大手スタジオはアニメに出資するとき、ファミリー向けじゃないと資金を出してくれない。長編アニメのアートフォームをより盛り上げてくれるようなチャンスが少ないんだ。今回、僕たちはラッキーなことに“ファミリームービー”ということを考えなくてもよかった。僕らが最初の観客で、まず僕らが楽しめるかどうかを基準にしたんだよ。よりエッジな作品を作りたかったからね。実はもっと言葉がヤバかったんだけど、ちょっとやりすぎたかなと思いトーンダウンしたんだ。もし、ファミリー向けを最初から意識していたら絶対、こういうアニメーションにはならなかったと思う」
――ディズニーやピクサーにはジブリオマージュが多々ありますが、本作にはないですね。
ジェフ「その代わりってわけでもないんだけど『進撃の巨人』や『呪術廻戦』のオマージュはある(笑)。ちなみに『進撃~』はセスの趣味、『呪術』は美術監督。僕のはないけど、影響を受けたのは日本のアニメが多い。『ドラゴンボールZ』(89~96)や『ガンダム』シリーズ。子どもの頃大好きだったのは『新機動戦記ガンダムW』(95~96)と『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』(96~99)。ティーンになってからは『カウボーイビバップ』(98)にハマっていた。めちゃくちゃクールで、そうか、アニメでこんな表現も出来るんだと驚いたんだ」
――ということは、そういう日本のアニメに影響されてアニメ監督を目指したの?
ジェフ「いや、それがピクサーの『トイ・ストーリー』(95)なんだよ(笑)。子どものとき、これを観てアニメーターになりたいと思ったんだ。実はジブリの『もののけ姫』(97)も好きでさ(笑)。あとは『ジュラシック・パーク』(93)。映画ファンになったきっかけの作品だ。
実写映画も大好きで、いろんな監督の作品を観る。デビッド・リンチは最高! ウォン・カーウァイとか(アンドレイ・)タルコフスキーとかはカメラワークが素晴らしい。(ジャン=リュック・)ゴダールも(アニエス・)ヴァルダも好き。日本だと是枝裕和の『ワンダフルライフ』(98)や『万引き家族』(18)もいいなあって。彼は市井の人を描くのが上手だと思う。あ、スパイク・ジョーンズも大好きだ。『ミッチェル家』のときは、そういうエッジな作品に留まらず、音楽や絵画等からもインスピレーションを受けている。従来の作品とは違うワイルドなものを作りたかったからだ」
――な、なるほど。
ジェフ「でも、今回、スプリンターの声を当ててくれたジャッキー・チェンの映画も大好きなんだよ。アクションコメディのなかで、どうやってユーモアを見せるのかに長けた作品が多いから。だから、アニメに限らず、いろんな映画を観て勉強をしているんだよ、僕は(笑)」
ジェフ・ロウ(監督・脚本)
米イリノイ州出身。2011年にカリフォルニア芸術大学を卒業。ディズニー・チャンネルの『怪奇ゾーン グラビティフォールズ』(12~16)の脚本を2014~2016年まで務め、共同脚本・共同監督を務めたNetfilx配信作『ミッチェル家とマシンの反乱』(21)は、第49回アニー賞で作品賞など最多8冠に輝き、アカデミー賞の長編アニメ映画賞にもノミネートされた。
【作品情報】
『ミュータント・タートルズ:ミュータント・パニック!』
Teenage Mutant Ninja Turtles: Mutant Mayhem
監督・脚本/ジェフ・ロウ
製作/セス・ローゲン エヴァン・ゴールドバーグ ジェームズ・ウィーバー
声の出演/シャモン・ブラウン・Jr ニコラス・カントゥ ブレイディ・ヌーン マイカ・アビー セス・ローゲン ジャッキー・チェン ジョン・シナ アイス・キューブほか
(2023年/アメリカ/100分)
●レオナルド、ラファエロ、ミケランジェロ、ドナテロは不思議な液体に触れたことでミュータントとなったカメたち。大都市ニューヨークで人間から姿を隠し暮らしているものの、中身は人間のティーンエイジャーと変わらず、ネズミのスプリンターを師匠に、武術の腕を磨く日々を過ごしていた。そんなある日、ハエのスーパーフライを筆頭とするミュータント軍団が現れる。ミュータントの仲間に出会えて喜ぶタートルズたちだが、彼らは人間社会を乗っ取る野望を抱いていた。
現在公開中
© 2023 PARAMOUNT PICTURES.TEENAGE MUTANT NINJA TURTLES IS A TRADEMARK OF VIACOM INTERNATIONAL INC.
配給: 東和ピクチャーズ
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