デザイナー・大島依提亜×ライター・SYO、映画グッズを作る二人による「映画にまつわるモノ論」【映画好きによる映画のための「ベストバイ」】

モノを必要としないはずの「映画」に関するアイテムで、「買ってよかったもの」を映画好きな人たちに聞いてみたら?

                                 
映画好き3名による「映画のためのお買い物」で一番よかったものを振り返る短期連載企画「映画好きによる映画のためのベストバイ」、締めくくりとなる第3回はデザイナーの大島依提亜が登場。 第1回に登場した映画ライターのSYOとの対談形式でお送りする。

 

また対談の後半では、パンフレットなど映画の「モノ」作りに関わる両者が「映画にまつわるモノ論」についてお互いに考えていることを語った。

 

撮影協力/GALLERY &COFFEE STAND HATOBA
撮影/倉持アユミ   文/SYO

                         

【店舗情報】

GALLERY &COFFEE STAND HATOBA

西荻窪駅北口より徒歩7分。

○東京都杉並区西荻北5丁目7−19 2階
📞03-3397-1791  定休日:月・火
公式サイト

SYO
●映画を主戦場とする物書き。1987年生まれ。東京学芸大学を卒業後、映画雑誌編集プロダクションや映画情報サイト勤務を経て映画ライター/編集者に。インタビュー、レビュー、コラム、イベント出演、推薦コメント寄稿など映画にまつわる執筆を幅広く手がける。「装苑」「CINEMORE」「FRIDAYデジタル」「BRUTUS」「シネマカフェ」「CREA」等に寄稿。

大島依提亜(おおしま いであ)
●栃木県生まれ。映画のグラフィックを中心に、展覧会や書籍のデザインを手がける。最近の仕事に、映画『パターソン』『万引き家族』『ミッドサマー』『ちょっと思い出しただけ』『カモン カモン』展覧会「谷川俊太郎展」「ムーミン展」「ヨシタケシンスケ展かもしれない」、書籍「鳥たち/よしもとばなな」「小箱/小川洋子」など。

 

「90年代の映画くらいから、
音で主観を表す表現がすごく盛んになってきた。」


SYO:「映画にまつわるベストバイ」特集で、僕はポストカードラックを紹介しました。依提亜さんは、「AirPods」をチョイスしてくださったんですよね。 

                          

■映画好きによる映画のための「ベストバイ」特集
第一弾 ▷映画ライター・SYO
第二弾 ▷人間食べ食べカエル
第三弾 ▷大島依提亜×SYO

   

大島:最初にお話をいただいたときに「こんなにど直球でいいのか?」と思ったのですが、AirPodsはここ数年で買って、かなり画期的な再生機器だったんです。 

 

SYO:PCやスマートフォンで映画をご覧になる時に使うんですか? 

 

大島:Apple TVと連動できるので、テレビもですね。AirPodsは最新のもので第3世代になるのですが、全部きっちり持っています。今日全部持ってきたのですが、なぜか4つある(笑)。探して初めて気づいたのですが、買った記憶が全然ない…。 

SYO:AirPods自体は何年くらい使われているんですか?

 

大島:最初に出たのが2016年の末だから、6年いかないくらいですかね。 

 

SYO:結構長い。 

 

大島:映画を観るとき以外でも、普段の生活でめちゃめちゃ使っているんですよ。なんでかというと、僕、仕事をしながら聴く派なんですよ。何かを聴いていないと、仕事ができない。 

 

SYO:音楽とか、ラジオとか。 

 

大島:あと、YouTubeとか。以前は有線のイヤフォンなりヘッドフォンをずっと使っていたんですけど、結構煩わしいじゃないですか。だから無線のものが良いなと思いつつ、イヤフォン・ヘッドフォンオタクの間で「どんなに再生機器のクオリティが高くても、Bluetoothは飛ばす電波の情報量が少ないから音が悪い」と言われていて、なかなか手が出せなかった。

実際、試しにApple以外のワイヤレスイヤフォンを買ってみたんですが「うわ、しょぼい」という感じで。ただ、AirPodsに関しては音質は高性能の有線ヘッドフォンやイヤフォンに比べたら弱いのですが、「意外といいかも」と思えるレベルですし、何より便利度が全然違う。Mac、iPhone、Apple TVを使っているので、互換性のスゴさに屈しましたね。 

                 

SYO:確かに、再生機器に合わせていちいち付け替えるのは面倒ですもんね。 

 

大島:映画を観ていて電話が鳴ったら、そのまま電話の方に切り替えれますしね。 

あとは、僕は音楽以外も結構聴くんですよ。ラジオもそうだし、YouTubeの古い番組とか、ちょっと下卑た感じのものを聴きながら仕事をするのが大好きで。仕事中に何かが鳴っていないと、不安になるんです。そういうような使い方をしている以上、「あんなくだらない内容のものを高音質のイヤフォンで聴いても意味ないな」って(笑)。 

 

SYO:(笑)。それで、AirPods。 

 

大島:だから、肌身離さずな感じです。あとはやっぱり、家で映画を観るときにすごい開放感があって。もともと家で映画を観るときもヘッドフォンを使っていたのですが、見やすい距離にテレビとの間隔を空けると延長ケーブルが必要になる。 

ただそうすると取り回しが相当みっともない感じになって、「コーヒーを飲もう」って席を立つと、ズルズルズル……ってケーブルが付いてくる(笑)。とても映画を見る環境じゃないなと思っていたのが、ワイヤレスになったことで一気に解消して。あれは快感でした。 

 

SYO:なるほど! 面白いなと思ったのは、ご自宅でも外でもAirPodsを使用されていることです。僕は、外に出る時はヘッドフォンで、家だとなるべくスピーカーを良くしようみたいな感じだから。 

 

大島:僕が家でもイヤフォン・ヘッドフォンを使う理由は、そもそも自宅で映画を1人で観る派だから。相方と映画を観るときもあるんですが、基本は1人で夜中に観ることが多い。そうすると、音が鳴っていると邪魔しちゃうんですよね。だからさっき言った取り回しの悪さはずっと課題だったんです。それがワイヤレスになったことで解決して。 

あと、映画をヘッドフォンやイヤフォンで観るという鑑賞体験って、劇場で観るのとは違った面白さがあって。映画館を包み込むようなハンス・ジマーの音楽を“浴びる”のも希有な体験なのですが、耳で直に聴くと作品の受け取り方が違ってくる。最初に衝撃を受けたのは、小津安二郎のサイレント映画『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』をイヤフォンで観ていたとき。観終わった後にサイレントだったと気づいてギョッとしました。音があると錯覚していたんです。 

これがもし劇場空間で観ていたら、劇場の環境音がうっすら流れていたりして完全な無音は作れないから、ここまで入り込んで観ることはできなかったなと。 

 

SYO:外音をシャットアウトすることで、ゾーンに入っていたわけですね。 

 

大島:あと、1人称と3人称の使い分けですよね。主観と客観の“視点”の使い分けって、POV(主観映像)を使ってもなかなか難しいところってあるじゃないですか。でも、『プライベート・ライアン』くらいからかな、90年代の映画くらいから、音で主観を表す表現がすごく盛んになってきた。巨大な爆発に巻き込まれた後、主人公の耳がキーンとなってくぐもっちゃうような演出ですね。 

 

SYO:最近の作品だと『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』もそうでしたね。 

 

大島:そうそう。耳鳴りの演出ひとつとっても、音って一気に個人主観にできるものなんだなと思ったんです。ただ、劇場だとその場所自体の音は聴こえるから、ある種リアリティから外れちゃうんですよね。ただ、AirPodsの第2世代だとノイズキャンセリングが付いているから、完全に無音状態になる。これで観ると、ヤバいんです。『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』なんか、まさにそう。イヤフォンないしヘッドフォンで観る環境というのが、映画的な仕掛けが1番映える観賞方法じゃないかなという気がします。 

 

SYO:Amazonが買い取って配信もありましたしね。解像度が上がるというか、AirPods映えする映画ですね。

  

大島:あとは『レッド・ドラゴン』で、オーケストラを聴いているレクター博士がフルート奏者のミストーンに気づくシーンがありますが、これも劇場では気づかなかったけどイヤフォンやヘッドフォンで聴くとわかる。すごく繊細な演出をしていたんだなって。 

『コーダ あいのうた』や『エターナルズ』といったようにろうあ者の方を描いている作品の中でも、主観的な音の演出が施されていますしね。劇場で観る体験の面白さと同時に、家で観返す時に、もう1つ違うフェーズで映画と接せるっていう意味では、結構イヤフォン・ヘッドフォンは、おすすめです。 

 

SYO:映画との距離感がグッと近づきますね。『ビール・ストリートの恋人たち』なんかもいいかもしれないし、『her/世界でひとつの彼女』をイヤフォンで観たら主人公の疑似体験ができる。『ブラックパンサー』や『TENET/テネット』なんかもまた違った感じ方になるかもしれないし。 

 

大島:音のそれぞれの位置関係や粒立ちに注目して観るなら、耳で直に聴くのは、すごく良いです。 

 

SYO:なるほどなぁ……。先ほどお話に挙がったワイヤレスの取り回しの良さでいうと、僕も仕事部屋ではSONYのサウンドバー(HT-X8500)を使っていて。コード周りがスッキリしましたね。あと最近、YouTube Premiumに入ったら戻れなくなりました。月額1000円くらいするのでちょっと高いのですが、広告がなくなるし音量が安定する感じがあって、Spotifyみたいな感じで最新の曲をすぐ聴けるのがまぁ便利で。 

 

大島:それでいうと、イヤフォンやヘッドフォンで聴いていると顕著なんですが、YouTubeって音量がバラバラなんですよね。YouTubeですごく小さい音量の動画を再生していて、いきなり超でかく設定された広告が流れたりすると、耳がやられちゃう。それ良いな、入ろうかな……。 

 

SYO:僕も、ずっと音を流しながらじゃないと作業できない人で。低音が効いていればいるほどいいので(笑)、ゆくゆくはサウンドバーから物理的な7.1chみたいにスピーカーに囲まれる環境にしたいですね。 

 

大島:基本、音楽を聴く感じですか? 

 

SYO:そうですね。Podcastとか、番組とかは聴けないです。言葉が入ると、原稿を書く時に引っ張られるんですよね。

  

大島:あぁ、わかる。僕もたまに書く仕事をやるときは、全くダメです。不思議なんですが、音楽すらダメで。でも人によっては、ラジオを聴きながら執筆する人もいるじゃないですか。すごいですよね。 

 

SYO:ある種ゾーンに入っちゃっているというか、閉じているんでしょうね。もしくは、そこからインスピレーションを受けているのか。 

 

大島:回路が別なんでしょうね。 

 

SYO:一回映画を流しながら原稿を書いてみたら、気づいたら映画のセリフを打ち込んでいて(笑)。同時進行とか、絶対無理ですね。何を書いているのか分からなくなっちゃう。 

 

大島:言葉を扱っているときに別の言葉が耳に入ってくるのは僕も無理なんですが、じゃあデザインの仕事をしている時に全然平気なのはなんで?って思ったら、相当集中してないんだなって思ったんですよ(笑)。 

 

SYO:(笑)。 

 

大島:慣れている仕事だと、ずっと仕事をしているのに「暇だ」みたいな感じになっちゃってる。だって、客観視したらずっと椅子に座っているだけだから。そりゃ、かなり暇な状態だろうって(笑)。 

 

SYO:執筆もそうですが、視覚的にはめちゃくちゃ地味ですからね……(笑)。 

実際に何を聴きながら、或いは流しながら作業しているかというところだと、僕は結構同じ曲とかアルバムをループで流していることが多いです。そのとき自分の中で流行っている曲とか、最近だと『カモン カモン』『怒り』『ドライブ・マイ・カー』『流浪の月』みたいに、サントラもよく聴きますね。映画以外にも、『僕のヒーローアカデミア』『ハイキュー!!』『呪術廻戦』『バブル』のようなアニメのサントラも聴きます。 

 

大島:環境音楽みたいな感じ? 

 

SYO:「感情」なのかもしれません。ずっと同じ感情でいるために、同じ曲を流し続ける。 

多分これは自分の書き方なんですが、どっか演技をしながら書くみたいなところがあるんです。インタビュー記事だったら多少整える際に「この人が使いそうな言葉」を出しやすいように。レビューを書くときなども、作品の雰囲気に合った音楽を選ぶことが多いですね。入り込みやすくなって、文のチョイスが寄り添っていくというか。 

 

大島:俺は真逆ですね。最初はやっている仕事の内容に合わせたものとか好きな音楽を聴いていたんですが、ずっと椅子に座っていると暇になっちゃうから、ある時期から変化を求め始めて。 

そうすると、今やっている仕事とまったく逆のものが良いかもってなってきて。いまや酷いですよ。例えばラジオの人生相談とかのかなり下世話な回などを聞きながら『カモン カモン』の美しいビジュアルを扱っている(笑)。あと、10年とか20年前くらいの金にまつわる番組とかあるじゃないですか。 

 

SYO:『マネーの虎』みたいな? 

 

大島:まさしく。ああいう古いやつを見ながらやっているんですよ。 

 

SYO:そうだったのか……(笑)。じゃあ、依提亜さんは息抜きみたいな感じで使っているのかもしれないですね。 

 

大島:そう。仕事をしながら息抜きしている感じですね。緊張感を緩和しながらやるために、あえて違うやつを聴いている。 

 

SYO:デザインって、差し戻しもあるから結構かかる時間が長いですもんね。僕は1本の原稿を書くのに大体4時間とかだから。 

 

大島:早い。 

 

SYO:ただ、トイレに行けない4時間ではある(笑)。集中力的にはギリギリですよね。 

あと、ライター業だと1回入稿して、赤字が来て対応して終わりといったことが多いので、息抜きをせずともなんとかやっていけるのかもしれません。 

 

大島:自慢じゃないけど、集中力がむちゃむちゃないんですよ。本当に。5分に1回くらい椅子から離れて、ぶらぶらしたりする(笑)。ノッてきたぞ、よーしって言うと、椅子から離れるんですよ。興奮して。 

 

SYO:(笑)。 

 

大島:それくらい、本当酷くて。だから集中する瞬間っていうのは、1日の内でものすごく限られている。だから「このラジオを聴きたいから椅子にずっと座っている」とか、強制的に椅子に座る環境を作るのもあるかも。 

 

SYO:AirPodsだったら、他のものが入って遮断されることがないですね。 

 

大島:それ重要かも。有線だと、5分に1回集中力が途切れた時に、必ずはずすじゃないですか。でも、AirPodsだと椅子に立つこともできるし、コーヒーを飲みにも行ける。 

 

SYO:常にオンっていうことですもんね。 

 

大島:そう。そこは、すごく便利かも。 

 

SYO:集中力は、僕も全然ないです。レビューとかはまだいいんですが、インタビューをひたすらまとめる作業って、結構しんどくて(笑)。手元に最後まで粗い文字起こしをしたものがあるから、あと何ページぶん整えなきゃいけないか見えている。僕はその粗い文字起こしをしたものをベースに、音声を聞き返しながら作っていくのですが、すごい頑張ったと思っていても、5分ぶんしか原稿に仕上げられていなかったりする。 

 

大島:「うわ、まだまだあるじゃん」って。 

 

SYO:そうそう。大体30分弱のインタビューを、4時間とかもっとかけて作っていくと、やっぱり集中力は切れちゃいますね。インタビュー原稿だと音楽を聴きながら作れないし。 

 

大島:それは共通してる。 

 

SYO:共通しています。すぐマンガを読み出すんですよ(笑)。そういう意味では、カフェだったり、外でやった方が楽っちゃ楽かもしれません。娯楽が周りに何もないから。そう考えると、娯楽を耳で入れながら同時に作業できるのは、効率的ですね。 

                                

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