これまで多くの映画人が挑戦し、誰ひとりとして成功させたことのないフランク・ハーバートの壮大なるSF叙事詩『デューン 砂の惑星』。その映画界の不可能に挑戦し、見事成功したのが今回の『DUNE/デューン 砂の惑星』だ。監督は『メッセージ』、『ブレードランナー2049』を手掛け、「もっとも信頼のおける監督」のひとりになったドゥニ・ヴィルヌーヴ。そして、ヴィルヌーヴをして「彼がいなければ映画化出来なかった」とまで言わしめた逸材がティモシー・シャラメ。『君の名前で僕を呼んで』でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされ、ハリウッドの若手ナンバーワンに躍り出た25歳の美青年が、伯爵家の跡取りにして宇宙の命運を担う主人公、ポール・アトレイデス役に抜擢されたのだ。
今回は、演技力も美貌も兼ね備えた、日本でもブレイク必至のティモシーくんの声、お届けしますよ!
取材・文/渡辺麻紀
『DUNE/デューン 砂の惑星』
監督・脚本/ドゥニ・ヴィルヌーヴ 脚本/ジョン・スパイツ エリック・ロス 原作/フランク・ハーバート 出演/ティモシー・シャラメ レベッカ・ファーガソン オスカー・アイザック ジョシュ・ブローリン ステラン・スカルスガルド ジェイソン・モモア ハビエル・バルデムほか
(2021年/アメリカ/155分)
人類が地球以外の惑星に移住するようになり、厳格な身分制度が敷かれる西暦10190年。レト・アトレイデス公爵は香料メランジを唯一生産する通称デューンと呼ばれる惑星アラキスを治めることになる。しかし、彼には莫大な利益をもたらすメランジの採掘権をもつハルコンネン家と皇帝の陰謀が待ち受けていた。10/15(金)全国公開
©2020 Legendary and Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved
配給/ワーナー・ブラザース映画
宗教による植民地化、アラキスのメランジ(香料)摂取…
今の世界の環境問題と重なり合う部分を改めて意識した役作り
――そもそもドゥニ・ヴィルヌーヴの大ファンだったそうですね。
そうなんだよ。ドゥニの作品はすべて複数回観ているし、“絶対一緒に仕事をしたい監督リスト”のナンバーワンと言えるくらい大好きなんだ。だから、実は無謀にも『プリズナー』のオーディションを受けたことさえある。
――どの役で? ジェイク・ギレンホールが演じた刑事ですか?
いや、それがヒュー・ジャックマンが演じた父親役だったんだ。ありえないよね(笑)。もちろん、そのときドゥニには「君には無理だ」って言われたよ。でも、今回、そのことを話したら、ドゥニはまったく憶えていなかったけどね(笑)。
今回の作品に関しては、いまから3年前のカンヌ映画祭のときにドゥニと会い『デューン』の話を聞いて、是非とも出演したいと思っていた……って、実はこのときすでにドゥニが『デューン』を撮ることは知っていた。ネットで、ついに彼が子供の頃からの愛読書を映画化するというニュースを読み、いつか彼に連絡を取りたいと思っていて、偶然にもそのチャンスが来たという感じだったんだ。
ニュースを読むまで『デューン』のことは何も知らなくて、周囲の人たちに聞いたら、そのほとんどが「大好きだ」「リスペクトしている」「大きな影響を受けた」と言う。これは凄いと思って、ちゃんとリサーチしておいたんだ(笑)。
――あなたにとっては初の大作、しかも主人公です。大きな挑戦になったのではないですか?
もちろんだよ。撮影期間だけで6カ月くらいだったから、まるでマラソンランナーのようだった。そういうなかで大変だったのは、テンションをずっとキープすること。僕が演じたポールにはいろんな側面がある。まず、ティーンエイジャーということもあって思春期らしい戸惑いや心の揺れがあり、公爵家の跡取りだからこその重責や、そんな人生に対する反発もある。そして、もしかしたら自分が惑星アラキスことデューンの命運を握り、さらには宇宙の未来をも変える存在かもしれないという畏れ。そういった、あらゆる葛藤をずっと抱えておかなきゃいけなかったからだ。これはかなりチャレンジングであり、やりがいがあったと思っている。
――どんな準備をしたのでしょう?
幸いなことに、撮影までたっぷりの時間をもらうことができたので、かなり入念な準備が出来たと思う。原作にもっと寄り添うために読み直し、ドゥニのトーンやリズムを知るために、彼のこれまでの作品を再度観直し、アクションシーンのためにトレーニングもした。そんななか、もっとも気を配ったのは、この50年以上も前の小説と現在の世界の関連性だ。宗教による植民地化、アラキスのメランジ(香料)摂取のくだりは今の世界の環境問題と重なり合う。そういう部分を改めて意識して役作りをしていったんだ。これは『デューン』の作品世界を理解する上で、とても役立ったと思う。
――役作りをする上で、デビッド・リンチの作品等、過去の『デューン』は参考にしましたか?
リンチ版の『デューン』を観たのは撮影開始の2か月くらい前だった。ポールを演じたカイル・マクラクランの演技には大きな敬意を抱いたけど、影響を受けたわけじゃない。なぜかと言えば、僕はドゥニ・ヴィルヌーヴという監督にオファーされてこの映画に出演し、彼の考える『デューン』を一緒に作って行かなければいけない。だから、過去の作品等はすべて忘れ、ドゥニの思うポールを演じるのがベストだと考えた。つまり、そういう影響は一切受けていないんだよ。
――なるほど! では、監督も本作を制作するのは恐怖だったと語っています。あなたはいかがでしたか? もし恐怖を感じたなら、それとどう闘いましたか?
撮影初日、これから始まる6カ月を考えて震えてみたり、素晴らしい映画をたくさん作っている、僕の憧れの監督であるドゥニ・ヴィルヌーヴの映画で主役をはるというプレッシャーを感じたり、やがて宇宙を統べることになるポール・アトレイデスを演じる恐ろしさを痛感したり。そんな恐怖はたくさんあった。が、それらから逃れることは出来ず、自ら通り抜けるしかない……まさにこの映画で、ポールが気づかされることだ。僕もポールにならって、どうにか乗り越えたと言っておこうかな(笑)。
結果的には、そんな恐怖よりも悦びのほうが断然大きかった。僕の人生を変えるような経験であり作品になったからだ。そんなチャンスを与えてくれたドゥニには感謝しかない。
<プロフィール>
ティモシー・シャラメ●1995年アメリカ生まれ。『君の名前で僕を呼んで』(2017年)でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされる。ほかの出演作に『インターステラー』(2014年)、『レディ・バード』(2017年)、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019年)などがある。
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