小池栄子「ラストシーンの台本を読んで放心状態みたいに…」【鎌倉殿の13人・不定期連載】

大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(NHK)で北条政子を堂々演じた小池栄子さんの取材会は、第43回の「従三位」と嬉しそうな仕草がネットで注目される前に行われた。オンエア後だったらこの話が聞けたのにとちょっと残念だったが、クランクアップした思いを明るくも、しみじみ語ってくれた。

取材・文/木俣冬
写真提供/NHK

きまた・ふゆ●新刊『ネットと朝ドラ』(Real Sound Collection)、その他の著書に『みんなの朝ドラ』(講談社現代新書)、『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』(キネマ旬報社)など。『連続テレビ小説 なつぞら』、『コンフィデンスマンJP』などノベライズも多く執筆。そのほか『蜷川幸雄 身体的物語論』(徳間書店)、『庵野秀明のフタリシバイ』(徳間書店)の構成も手掛ける。WEBサイト「シネマズプラス」で『毎日朝ドラレビュー』連載中。

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小栗からの励ましは『ともかく地獄を見ようが共にがんばろうね』

 

「これまでたくさん描かれてきた政子とはまた違う、三谷幸喜さんの作った新しい政子ができたと思っています。クランクアップした瞬間は、想像以上に北条政子を愛していたことに気づいて、もう一回、はじめから政子を演じ直したいと思うほどでした。それだけこの役に魅了されました」

ラストシーンは、小栗旬のインタビューでも語られたように、義時と政子、ふたりだけのシーンになるという。

 

「家族ではじまった物語だったから家族で終わると思っていたのですが、気づいたら、周りにほんとうに家族しかいないねってことになっていて。家族だけで撮影できる幸せを噛み締めました。1年半、共に演じてきてまるでほんとの家族になれたような気がしました」と小池が感無量になるラストシーンとはいったい――。

 

「予想できなかったラストでした。いまだに思い出すと興奮します。台本を読んでまず、放心状態みたいになって……。これをどう演じたらいいのか怖くなってきて。政子はどういう気持ちなんだろうと、私の思ったこととマネージャーさんとは意見が違ったんですよ。チーフ演出の吉田照幸監督や小栗さんと話しても、やってみないとわからないよね、やってみた瞬間、1年半の答えが出るはずだからどう演じてもいい、と言われてようやく気が楽になりました。でもきっとオンエアしたら賛否両論巻き起こるのではないかと思います」

 

小栗は取材会で、「”政子”はこんなにエグいことがたくさん起こっているにもかかわらず、なんでふつうにしていられるんだろう? 意外と明るくしている、と思う瞬間がいっぱいあった。小池さんが演じているからそこに説得力が出せるのか、どんなことがあっても生きていかないといけないとき、哀しみや苦しみには蓋をしないといけない瞬間があるんだなあと思いました」と言っていた。

小池は政子のそういう心境をどう考えていたのだろうか。

 

「私は政子にとって子を失った哀しみに勝るものはないと思っていました。内輪もめがあって、その間に政(まつりごと)に関わるようになって尼将軍となって前面に立っていくようになりますが、実朝が亡くなった時点(第45回)で一度、死んだと思っています。政子はそこから腹をくくる。彼女が最後に対決することになるのが義時で、北条家のためとはいえ、多くの人たちの命を奪ってきた弟に姉としてどういうふうに向き合うかが課題になっていたと思います」

 

確かに最後まで残って権力の頂きに立つのは、姉と弟である。ドラマがはじまる前、三谷幸喜は「サザエ(政子)とカツオ(義時)が手を組んで、マスオ(頼朝)の死後に、波平(初代執権・時政)を磯野家から追い出す。しかも義時はタラちゃん(3代将軍・源実朝)を滅ぼす」と説明していた。目下、『鎌倉殿』はほんとうにサザエとカツオが生き残っている状態である。

ほのぼのしてない、ひりひりした姉弟関係で、政子は義時をどう見てきたのか。

「義時が変わっていく様子、何かあるたびに苦しんでいる様子は見ていて自分のことのように苦しかったと思います。セリフにも『頼朝と一緒になったことがきっかけで北条家がおかしくなっていった』というようなものがありますが、大好きな弟を巻き込んでこんなことにしてしまったと政子はずっと責任を感じてはいたんです。振り返ると、第25回、ちょうど全体の中間くらいのとき、義時に餅をもっていってキャッキャやっていたときは、まだ彼は昔の彼が残っているという安心感があったのではないでしょうか。いまはもうあの頃の笑顔は引き出せないですよね。あれが北条家にとって引き返せるギリギリのラインだったのかなあと、ふとしたときに思い出すシーンです」

 

このとき、頼朝が頼家に鎌倉殿を託して大御所になると決めた矢先、亡くなる。ここからが、鎌倉殿の座を巡って無惨な裏工作が行われていくから、確かにこの時点でなんとかならなかったのかというところであろう。

そんな辛い芝居をやり続けた小池と小栗。俳優としてはどんなふうに現場で過ごしていたのか。

 

「小栗さんは素直なので辛いときは辛いと言葉や態度にしていて、そういうとき、同じ役者として支えてあげられたらいいのにと思いながら『がんばってね』としか言えなくて……。小栗さんから『ともかく地獄を見ようが共にがんばろうね』と逆に励まされることもありました」

 

1年半、共演して本当の家族のようになれたという北条家。その中心はやはり小栗だった。

 

「小栗さんが作りあげた現場のあたたかさが心地よかったです」

 

振り返ってみると、頼家役の金子大地のインタビューでも小栗の気遣いが語られたように、とりわけ若い俳優たちがリラックスして現場に臨めたようだった。義時と小栗はベクトルが違うが、同じくらいのエネルギーで物事がうまく進むように努力していたのだろう。義時は哀しい方向に能力を注いでしまったとしか思えない。

 

「だめな親だったな」という気持ちに

 

さて、政子の子を失くした哀しみについて語った小池に、北条家の愛しい子どもたちについて聞いた。

「子供がどういう人間に育つかは親の影響が大きいと感じます。頼家はカリスマな父・頼朝の反動で屈折していて、実朝は過保護に育て過ぎたせいで内向的で……。どちらも悲しい運命をたどってしまった。乳母が育てているから、母の目の届くところにいないとはいえ、だめな親だったなと。ふたりとも生きていたらきっとぶつかることもたくさんあったでしょうね。政子に限らず、男の子を育てるお母さんは大変なご苦労があるのだろうなと思いました」

 

子供や親戚や関わった者たちなどの多くの犠牲のうえに鎌倉幕府が成り立っていって、最後に、政子と義時は何を思うのか。ただ、退場していった者たちも皆、とても鮮烈な印象を残してきた。

 

「たいていの作品は、主役とヒロインが際立つものですが、『鎌倉殿〜』では誰かひとりが際立つことがなく、みんなが圧倒的な存在感を残して去っていきました。三谷幸喜さんの脚本のすばらしさはワンシーンしか出ない役でも輝くような描写をされ、いわゆる“死に役”が存在しないこと。誰が欠けても物語が成立しないように描いていらっしゃいますよね。人間性をいろんな角度から深掘りして、そこに笑いを入れるのが三谷さんならではの技だと思います」

 

最終回まであと3回。

 

「早く見てほしいけれど、どんな反応があるか、怖くもあります。そんな最終回をパブリックビューイングして、私もその鎌倉会場に登壇するんですよね。怖いですよ(笑)」

 

最後に政子を演じ終わって、2023年の小池栄子はどうなる?

 

「『鎌倉殿〜』をやったことでたくさん私の芝居の課題が見つかりました。大河ドラマのいいところのひとつは、たくさんの方と共演できることで、ベテランの方々のお芝居を見て、長年研鑽を積んできた仕草や台詞回しに触れて、やはり気持ちだけでは生き残れない仕事であって、10年後に残るためには鍛錬しないといけないと痛感しました。これから精進して来年以降“ニュー栄子”をお見せしたいと思います」

 

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