裏切られた映画たち(仮)【2024年1月号 押井守連載 #6『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』】

“裏切られた映画たち”とは、どんでん返しなどではなく、映画に対する価値観すら変えるかもしれない構造をもった作品のこと。そんな裏切り映画を語り尽くす本連載。今月はキャプテン・アメリカの活躍を描くシリーズ第二弾『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』!
取材・文/渡辺麻紀 撮影/ツダヒロキ

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“わたしはYouTubeという窓を通して、現代社会の在り方がわかるようになった――。”

1951年生まれの監督・押井守がハマったというのがYouTube。
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◆聞き手・構成・文/渡辺麻紀

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映画のなかに政治的な寓意を潜ませる作品が、エンタメの総本山的マーベルから出てくる驚き!

――今回、押井さんがピックアップしたのは大人気シリーズMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の1本、『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(14)です。

麻紀さんはこの映画、どうだった?

――MCUシリーズのなかでも好きな1本ですね。というのも公開のとき監督の(アンソニー&ジョー・)ルッソ兄弟と(ロバート・)レッドフォードが出ていた『コンドル』(75)の話で盛り上がって、ああ、なるほどという感じでした。もうひとつはキャプテン・アメリカとウィンター・ソルジャーことバッキーのブロマンス。腐女子目線でも大変よろしい(笑)。

そうか、腐女子目線でも楽しめるのか……私が着目したのはもうひとつの『コンドル』に関する部分だよ。予告編を観たとき、ウィンターソルジャーのショルダーパットに赤い星がペイントされていてびっくり。その瞬間、匂ったんだよ。ロシアの赤い星にしか見えなかったから。これは何か仕掛けようとしているんじゃないかって。私は政治的な意図を感じたんですよ。しかも、名前がウィンター・ソルジャーなんだからさ!

――どういう意味があるんですか?

ウィンター・ソルジャーの意味は「帰還兵」なんですよ。第一次、第二次世界大戦、朝鮮戦争の帰還兵に対してアメリカで使われていた言葉。当時のアメリカ人にとって帰還兵というのは独特のニュアンスがあった。つまり、違った人間になって戻って来るということ。洗脳されているんじゃないかってことですよ。

――押井さん、それはもうジョン・フランケンハイマーの『影なき狙撃者』(62)じゃないですか!

そうそう。まさにあれも朝鮮戦争の帰還兵が主人公だったし洗脳がテーマだった。“ウィンター・ソルジャー”にはそんなニュアンスがあるので、腕についていた赤い星が匂ったんだよ。あれは明らかにUSSR(Union of Soviet Socialist Republics)の赤い星だってね。私は、このマーベル映画は意外にも政治的な意図を含ませた作品になっているんじゃないかと思い、わざわざ劇場にまで足を運んだんです。

その通りだった。始まってすぐに、ワシントンDCのオベリスクのところをジョギングしているキャプテン・アメリカが「左から失礼」と言ってもうひとりを追い抜く。ということはつまり彼は反時計回りで走っているということで、それは過去に向かって走っているということ。冷戦時代に向かっていることを意味している。冒頭ですでに「この映画は冷戦時代をベースにしている」と暗に伝えているんだよ。その時代のアメリカの価値観で言えば「敵は絶えず内部にいる」ですよ。

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