小籔千豊が人生で初めて才能のなさを痛感したものとは?

YouTubeを騒がす「フォートナイト下手くそおじさん」の正体をご存じだろうか。その正体は小籔千豊さん。子どもの影響で『FORTNITE』をプレイし始め、2020年から名前を隠してYouTubeでプレイ映像の配信を続けている。その総プレイ時間は4000時間以上。そこまで彼を突き動かすものは何なのか。ゲームへの愛と目標を語っていただいた。

編集=竹村真奈
取材・文=志田英邦
撮影=TOWA

 

——著書『ゲーム反対派の僕が2年で4000時間もゲームをするようになった理由』で、小籔さんが『FORTNITE』にハマっている模様を拝読しました。今の小籔さんの『FORTNITE』の目標は何ですか?

FNCS(フォートナイト世界大会)アジア大会の決勝に行くことが目標です。ただ道のりは……ぶっちゃけこれまで人生で経験したものの中で一番難しいですね。お笑いよりも難しい。

——お笑いよりも!

僕がこれまでやってきたもので、みんなよりもできないってものがほとんどないんですよ。勉強もそれほど苦手じゃなかったし、芸人になったときも面白いネタを考えるということに関してはあまり苦労したことがない。ジェニーハイというバンドでドラムを叩くことになったときも自分の中ではセンスないなとは思っていたけど、それでも何とかなった。でも『FORTNITE』はそれを大きく超えて、自分の才能のなさに直面してます。なんでこんなにできへんねんと。自分に対してすごくもどかしくなりますね。

——どんなときにご自身の才能のなさを感じるんですか。

自分は脳みその処理速度が遅いんです。『FORTNITE』はゲーム中の視野を広くもって、たくさんのことをマルチタスクですごく早いスピードでこなさないといけない。若い子ほど実力を発揮するゲームなんですよ。プロゲーマーも20歳くらいで引退していきますから。子どものような、新しい脳みそが欲しいですね。

——そんな難しいゲームに、49歳の小籔さんはどのように挑んでいるのでしょう。

練習ですね。いまは課題があって。それをずっとやってます。こんなん書いてもわからないと思うんですけど、ピースコントロールとライトハンドピークです。

——ピースコントロールは建築ピースを操るテクニック、ライトハンドピークは障害物の右側で敵を捉えるテクニックですね。小籔さんのYouTube『フォートナイト下手くそおじさん』の配信を観ると、海外のプレイヤーのテクニックなども参考にされているようですけど。

そういう時期もありました。でも今はもうそういうことには興味がないですね。海外の情報って新しい参考書みたいなものだと思うんですよ。でも、僕には家にまだ全部解き終わってないドリルが何冊もある。まずは残っているドリルを全部終わらせてからじゃないと、次のステップには進めないんです。

——YouTubeでも練習風景をライブ配信してますね。

YouTubeもくわしい人に言わせると、生配信はあまり収益化には向いてないらしいんですよ。編集した動画のほうが収益的にはいいらしい。でも、僕の目的はそこ(収益)じゃないから。本気で『FORTNITE』に打ち込んでいるところを観ていただいて、みなさんに認めていただきたいからなんです。だから、とにかく練習風景を観てもらおうと思っているんです。

——それで4000時間も打ち込まれているわけですね。

テレビでスポーツ番組をやらせてもらっているときに、いろいろなすごい選手にインタビューをしていたんですが、それで自分の考え方が変わったところがありましたね。みんな同じことを言うんです。コツコツとやるしかない、と。

——コツコツとやるしかない。

たとえば、吉田沙保里さんは運動神経の塊みたいな人で小さい頃から運動は何でもできたらしいんですけど、毎日練習は欠かさなかったと言うんです。才能がある人がコツコツやっていて金メダルまでたどり着くんですよね。サッカーの中澤(佑二)さん、卓球の伊藤美誠ちゃん……みんな時間をかけてコツコツやっているんです。僕にとって『FORTNITE』は、これまでで一番難しいものなんだから、今まで以上にコツコツやらないと上達しない。くじけそうなときも吉田さん、中澤さん、伊藤美誠ちゃん、いろいろな人の顔を思い浮かべてコツコツしているんです。

——小籔さんが50歳を前にして、人生で一番高い壁にぶち当たった。それを乗り越えるにはコツコツしかない、と。

上手くできない自分にめっちゃ腹が立つんですけど(笑)、なんか同時に、生きているなって感じがします。YouTubeで『FORTNITE』のプレイを配信するようになって2年経ちますけど、しばらくぶりに僕のYouTubeを観てくれた人が、あんだけ下手だったヤツがちょっと上手くなってるって思ってもらいたいですね。何で上手くなったんだろう……ああ、それはこれだけ時間をかけて練習したからだ、って気づいてくれたらもっといいなと思うんです。どんなことでもコツコツやったら成長するんだと。こういう大事なことって言葉で言っても伝わらないと思うんですよ。僕も小さいときから、そういう大事なことをお祖母ちゃんや母親からたくさん聞きました。でも、ひとつも覚えてない(笑)。やっぱり言葉だと伝わらないものがある。YouTubeで僕がコツコツやっている姿を観せることで、みんなが大事なことに気づいてもらえればいいなって思いますね。

——小籔さんの今後の『FORTNITE』の活動、そしてFNCS出場も楽しみにしています!

人ってだんだん歳を取ってくると、ルーティンで仕事をこなすようになったり、若い人に教える側に回ったりして、自分のことを研鑽しなくなっていくことが多くなっていくと思うんです。だいたいのことがこなせるようになってくるし、新しく学ぶことも減ってくる。でも、そういう人に、できないことをできないままで死んでいくつもりですか、と言いたいですね。できないことをあえてやってみるというのも楽しいですよ、と。僕にとっては、それがドラムであり、『FORTNITE』だった。落ち込んだり、悩んだりして、ようやくできるようになったときの喜びって、人生ではなかなか味わえないものなんですよ。そういう経験ができたら、きっとあとから振り返ったときに、味が濃い人生だったなって感じるんじゃないかと思うんですよね。


小籔千豊
1973年9月11日生まれ、大阪府出身。2006年『上方お笑い大賞』話題賞受賞。同年、『BGO上方笑演芸大賞』脚本賞受賞。2020年YouTubeチャンネル『フォートナイト下手くそおじさん』開設。2022年11月『ゲーム反対派の僕が2年で4000時間もゲームをするようになった理由』(辰巳出版)発売中!!

 

投稿者プロフィール

TV Bros.編集部
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