最近では、菅田将暉の「ラストシーン」やナインティナインの矢部浩之のデビュー曲「スタンドバイミー」など多くの楽曲を手掛け、多方面で注目を集めているシンガーソングライター・石崎ひゅーい。そんな彼が5年ぶりとなるフルアルバム『ダイヤモンド』を完成させた。
コロナ禍で混沌とした現状が続く中、制作を止めることなく音楽と向き合ったからこそ生まれた本作。収録される全11曲は、アルバムタイトルの通りダイヤモンドのように光を放ち音楽を届けたいという石崎の思いが反映されているように思える。
今回は待望のフルアルバムを完成させた石崎に、2021年の活動の振り返り、そしてアルバムについて話を聞いた。
取材&文/笹谷淳介 撮影/佐野円香
――状況がよくなってきてはいますが、2021年もコロナ禍に悩まされた1年だったと思います。他のアーティストさんからは曲を作れなくなったという話も聞くのですが、石崎さんはいかがでしたか?
最初は僕もそうでした。どうしようかと悩んだこともあったんですが、このアルバムで言うと「アヤメ」という曲ができた瞬間に「ああ違ったんだな」って思ったんですよね。環境のせいにしているだけというか、いつどんな状況でもそれを音楽にしないといけないんじゃないかなと途中から思い始めて、そこから気持ちが楽になりました。気持ちが吹っ切れてからは、逆に見つけられることがいっぱいあったりもして。
例えば、今だったら若い世代のバンドやアーティストの音楽を掘ってみたりとか。普段できないことをいろいろとやって吸収していく時間に繋がったので、考え方の問題だなって思いますね。環境に左右されていてはダメだなというか、精神が悪い方に持っていかれるというのは分かるんだけど、ポジティブな方面で考えれるようになりましたね。
――ちなみにどなたを聴いていたんですか?
崎山蒼志くんとか映秀。くんとかは聴いていましたね。あとは、Vaundyくんのライブを観に行ったりもしました。これまであまり世代の離れた人たちの音楽に触れることがなかったんですけど、この期間がそうさせてくれたのかなって思っていて。すごく吸収しています。
――若い世代のどんなところから刺激を受けるのでしょうか。
細かい話ですけど、ライブの演出とか。こういう照明を使うのかと勉強にもなりますし、表情を見せるというより空間を見せるライブをするんだなと感心したり。若い世代のライブを観て、逆に時代の流れみたいなものを勉強する感じですね。映秀。くんに関しては僕の地元の後輩と繋がりがあったりして、そこからお話を聞いて彼のYouTubeにたどり着いたんですけど、あっという間にCDデビューしていて! 彼も音楽の構成やメロディの付け方、取り方がすごく緻密で完成度が高くて、そういうところに刺激を受けます。自分がその年代のときのことを考えたら、全然だったなって(笑)。
――音楽を掘る以外で、今年やられたことはありますか? 例えば、今年観た作品だったり。
「イカゲーム」は観ましたよ! すぐ観終わっちゃいました。僕ね、非現実すぎる作品が好きなんですよ。ただ、非現実すぎるくせに人間臭さがあるものが好みで。例えば、麻薬製造ものだったり、戦争ものの作品とか。「ナルコス」や「ブレイキング・バッド」が好きですね。
あと気になっているのは、「地獄が呼んでいる」。でもいまはライブに集中しなきゃいけないから、観てはダメだなって思って我慢したりしていました(笑)。
――なるほど。少し話が外れましたが、石崎さんの最近の活動を振り返ると菅田将暉さんの「ラストシーン」、矢部浩之さんの「スタンドバイミー」など楽曲提供のお仕事も並行してされていますよね。
そうですね。「ラストシーン」は始まる前にこれはかなり大きな山だな、ということは菅田くんと話していて。その前の「虹」でもそうだったんですけど制作はいつも不安から始まるんですよ。「大丈夫かな? 乗り切れるかな?」というところから模索しながら作っていくという感じで、これだというものがあって突き進んでいるわけではなくめちゃくちゃ試行錯誤して頭を掻きむしりながら作ってるみたいな感覚。
たまに音楽を作るのに疲れちゃったから、2人で「ラーメンでも作るか」って言ってラーメンを作って食べたりして、そのままラーメンの曲を書いちゃったり(笑)。お互いにそれじゃないことは分かっているんだけど、そんなことをしながら曲を作ってるんです。「ラストシーン」も難産だったけど、だからこそ菅田くんとの制作はいつも満足感と達成感があるんですよね。
――不安からのスタートというのは、求められている題材が大きいから?
「『日本沈没』? えーー!?」ってところから始まるというか……。「虹」のときも、「『ドラえもん』? ずっと観てきたあの『ドラえもん』でしょ?!」みたいな(笑)。いつも俺らで大丈夫なのか、みたいなところから始まるんですけど、だからこそいいのかなって。本当によくやってるなって思いますね、大変な制作を何回も一緒に。
――一方で「スタンドバイミー」はナインティナインの軌跡に寄り添った楽曲です。
「スタンドバイミー」はいまでもなんか信じられないというか。僕、37歳なんですけどナイナイ世代なんですよ、本当に! だから生活の中に当たり前にめちゃイケがあった。だからこそ、おふたりのストーリーをたくさん知ってるじゃないですか。ずっと観てきたから、なんとなく全部知ってる感覚というか。だからナイナイさんのどの物語を題材にするかをすごく悩みましたね。
――実際に矢部さんが歌われたものを聴かれていかがでした?
いやあ、最高ですよ。特に最近のJ-POPって洗練されているものが多いから、「スタンドバイミー」のような人間らしい歌と言いますか、そういう曲を聴けるチャンスもなかなか減ってきているなって思っていて。あの歌い方は矢部さんにしかできないし、そういう曲を一緒に作れたのはすごく意義があるんじゃないかなって。
――そして、5年ぶりとなるフルアルバム『ダイヤモンド』が完成しました。今回は、サウンドのアプローチまで踏み込んで制作されたということですが、アルバムを通してこだわった部分はどこになるのでしょう。
雑食でいたいなと思っていて。いつでもいろんなところに行ける状態にしておきたい。例えば、「ジャンプ」という曲はEDMとフォークロック、カントリー、アイリッシュみたいなものを混ぜたものをJ-POPに落とし込んで、それがチャートで流れていたら面白いんじゃないかなという考えが先にあったし。「パラサイト」ならこのアルバムに足りない要素というか、危うい歌詞みたいな曲を入れた方がバランスがいいなと考えて作ったり。
たぶん自分に飽きないようにというか、面白いことをしていたいという考えがあるんだと思います。だからそのためにも凝り固まらないようにしたいし、一辺倒にならないようにしたい。言っても楽曲って人が作るものだし、人は歪な方が面白いと思っているので嘘もつくし、悪いこともやっちゃうし、でもいいこともするし、温かいところもある。そういったいろいろな面を音楽で表現したいなって。
――石崎さんが制作を止めることなく歩み続けたからこそ生まれた楽曲が多く収録されていると思うんです。コロナ禍という状況の中でも音楽を作り続ける意味や意義を石崎さんはどのように考えられているのでしょう。
ここ1〜2年はいつもとは違った環境というか、目まぐるしく変化していく中で、そういった生活や音楽との関わりみたいなものに慣れていっている自分がいるなって思ったんです。例えば、家の中にいてもご飯はデリバリーできるし、誰かと繋がりたいと思えばオンラインで飲み会でもなんでもできる。世の中的にもそれが普通で、僕自身もそこに甘えてしまっているなと。でもそういう状況に危機感を覚えたんです。このままこの環境に慣れて生活することは本当に怖いことだって。危機感を抱いたことで自分は人が持っている温かさみたいなものにちゃんと焦点を当てていないと音楽が作れないんだと再確認したというか。逆にそれを音楽にしていこうって思えたんですよ。生身の人間の温かさを求めている自分がいましたしね。なので、そういった思いが強かったです。
――そういった感情を抱きながら制作を続け、フルアルバムが完成したんですね。『ダイヤモンド』には具体的なコンセプトはあるんですか?
特には設けてなかったんですけど、タイトルの「ダイヤモンド」というワードは2019年くらいからなんとなく僕の中にあって。チームのメンバーも「ダイヤモンドってタイトルいいね」と話していたんです。人の輝きみたいなものを歌にしてきたからマッチする言葉だと思ったんですけど、当時はまだタイミングではないかなって。そこからコロナ禍になり、人とは密になれないけど、音楽とは密になれるようになって気づいたんですよ。音楽がどんなときも側にあって、苦楽をともにするということに。音楽と結婚してるようなものなんだなって思ったんですよね。そう考えられたときに、「ダイヤモンド」っていう言葉がめちゃくちゃ当てはまったというか、このタイトルを付けるなら今だなと思ったんです。
――「スワンソング」の歌詞にも「ダイヤモンド」というワードが出てきますよね。
そうそう! 生活感もあっていい言葉だなと思ったんですよね。あとは、5年も待たせてしまっているので、申し訳なさと、最高の輝きみたいなものをプレゼントしてあげたいなって。そういう気持ちからこのアルバムは完成したと思います。
――個人的には、「スノーマン」の切ない歌詞とエレクトロなサウンドがすごく印象的でした。
ありがとうございます! 「スノーマン」はクリスマスソングを作ろうと思って始まってるんですけど、これはサウンド重視というか制作を共にするトオミさん(トオミヨウ)が昔、ソロで音源を出されていて。すごくエレクトロというかジェイムス・ブレイクのような世界観の曲があるんですけどそれがものすごく好きだったんです。だからトオミさんにあんな感じで作ってくださいとお願いして、上がってきたアレンジに歌を寄せていったという感じなんです。
――男性の恋愛に対する弱さを歌った歌詞だと思いますが、歌詞はどのように考えられたんですか?
僕、こういう曲はいくらでも書けるんですよ(笑)。得意分野というか。確かこの歌詞は、2番の〈厚手のダウンジャケット/君がこぼしたシミがついている〉という描写がひとつ浮かんだときに全てが出てきました。
本当に家に厚手のダウンジャケットがあるんですけど、シミがついているんです。ただそれは自分でつけたシミかもしれないんですけど(笑)。でもそれをストーリーに置き換えることができれば曲は簡単にできてしまう。特にこういう喪失みたいなものを描くというのは、実はあまり難しくないんです。その逆が、僕にとっては難しいんですよね。
――では、逆に今回のアルバムの中で難しかった楽曲は?
「アヤメ」ですかね。これは本当に頑張ったなという感じです。とにかくシンプルに言葉を届けたいという思いがあって。これまでそういう曲の書き方にトライしようと思ってこなかったので自分の中では挑戦だったんです。
――なぜ、挑戦しようと思われたんですか?
シンプルで純朴な言葉が人の深いところまで到達しやすいんじゃないかなと思ったんです。だからこそ「アヤメ」はシンプルな曲の作りをすごく意識してるんですけど、この作り方は本当に難しい……。シンプルが故にひとつ間違えると稚拙な感じになっちゃうんです。そのバランスがめっちゃ難しくて何回も歌詞を考え直したのが「アヤメ」ですね。
――あと、個人的に気になるのが「ジュノ」。こちらはモデルになった方がいるんですか?
これは2018年くらいにできていた曲なんですけど、夢で作ったんですよ、これ。
――夢ですか?!
当時、すごくうるさい家に住んでいたんですよ! 深夜でも車通りが多いところに間違えて住んじゃって……。トラックなんかが通ると家が少し揺れるくらいの感じで、毎日、「うわーー、やめてくれ!!」って思ってて(笑)。本当におかしくなりそうだったんです。でもすぐには引っ越せないし、1年くらいそこに住んでいたんですけど、もうね、うるさくて夜は寝られないわけですよ(笑)。
普段はあまり見ない夢を、その家ではずっと見ていて。ただけっこういい夢を見るなって思ってたんですよね。夢の中のことを言葉にしたら面白いなって。それである日、見た夢を起きた瞬間にバーッとノートに書いて、そのまま歌にしたのが「ジュノ」です。
――そんなことってあるんですね!
うん、だから自分でもよくわからないというか、深層心理みたいな感じで作ってる曲なんですよ。でもね、この曲はほとんど直してない。手垢の付いていない曲です。譜割りもおかしいんですよね(笑)。AメロBメロもなんだかよくわからないというか、面白い作り方をしたなという曲です。
――夢の中で音も鳴っていた?
少し鳴ってたんですよ! ガレージパンクのようなサウンドが! 音楽を長くやっているとたまにあるんですよね、そういうことが(笑)。こういうエピソードも含めてアルバムを楽しんでもらえたら嬉しいです。
――石崎さんは来年でデビュー10周年を迎えます。今後についてはどう考えていますか?
とにかく10周年なので、盛り上げたいなって思っています! やっぱり楽曲には力を入れていきたいなって。聴いてくれるみんなに対してもそうだし、新しく僕を知ってくれるかもしれない人たちに対して、ちゃんと届けたいなって思います。あとは、もっとみんなに会える場所をたくさん作りたいなと純粋に思っています。
石崎ひゅーい●1984年生まれ、茨城県出身。2017年ミニアルバム「第三惑星交響曲」でメジャーデビュー。ナインティナインの矢部浩之の歌手デビュー曲「スタンドバイミー」の楽曲提供でも話題に。
「ダイヤモンド」
NOW ON SALE(EPICレコード)
CDのみ¥3,000+税
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