<文/太田光>
多様性
一斉にフラッシュがたかれ、シャッター音がする。会見場に現れたのは奇っ怪で白い小さな動物だった。耳が長くてウサギのようだが、顔は完全にネコのウサギネコだ。
ウサギネコはマイクの前に立つと深々と頭を下げた。
司会のタヌキが話す。
「ポン。まずは先日の発言についてご本人から一言どうぞだポン」
ウサギネコはムスッとした表情で言った。
「謝罪するニャ」
再び頭を下げる。また一斉にフラッシュがたかれる。
「ポン。それでは質問のあるかたは、手を上げてくださいポン」
動物記者達が一斉に手をあげる。
「ポン。それではそちらのかた、社名とご自分の名前をポンしてから質問してくださいだポン」
指されたものがマイクの前に立つ。
「えー、ワンワン新聞の秋田犬太郎と申すワン。……あなたの先日の発言。『ウサギのフンはコロコロしてる』という発言について、“ウサギ蔑視”だワン、という批判があがっているが、どう思うんだワン?」
「その発言に関しては不適切ニャ表現だったニャぁ、と思うニャ。撤回してお詫びするニャ」
「もともとあなたの中にそういう意識があったということなのかワン?」
「違うニャ。そういう意識はニャイニャ」
「ではなぜだワン?」
「そういう話を聞いたんだニャ。でもそれは不適切だったニャ」
「ワン? 聞いた? 誰から聞いたんだワン?」
「それはお答え出来ニャイ」
「ワン? ホワイ? ワン?」
すかさず司会のタヌキが言う。
「ポン! 質問はお一人一問でお願いするだポン! 次、はい、あなた」
「ウキキ、週刊バナナの猿田と申します。ウッキッキー! ウキウキ! キッキー!」
サルはその場で何度もバク転をしている。
「ポン! 早く質問してください! ポン!」
「ウキー! あなたは反省してるのかウキ?」
「当然だニャ。だから最初に撤回すると言ってるニャ」
「なるほど。ウキキ。ウキッキ! キキー!」
またバク転を始めた。
「ポン! 次のかた! ハイ、あなた! ポン!」
「モー。…デイリー牛歩の…牛山乳だモー。ええと…モー、あなたの『ウサギは餅をつくのがうまい』という発言に関しては、ちゃんとしたデータがあって言ったのかモー?」
「そういう話を聞いたことがあるニャ」
「モー! データは?」
「データはニャイ」
「モーモーモー!」
「ポン! ハイ次! ポンポコ! アナタ!」
「ピョン! かの山新聞の脱兎です。あなたはウサギを差別してるんですかピョン!」
「してるわけニャイ、おれもウサギだニャ」
「うそピョン! あなたはネコでしょ?」
「失礼ニャ。おれはウサギだニャ」
「失礼? ニャンでネコだと失礼ニャンだニャー?」
野次が飛んだ。ドラネコ新聞のノラ記者からだ。
「ネコだと失礼ってどういうことだニャ? ネコに失礼だニャ!」
「別にネコを下に見てるわけはニャイけど、おれはウサギだからウサギって言っただけだニャ」
「ピョン! ちょっとまってピョン! あなたがウサギなら、ウサギのフンがコロコロしてるかどうかわかるでピョン? 自分のフンはどうなのピョン?」
「お、おれのは…日によって違うニャ」
「ピョン! ピョン! ピョン!」
「ポン! 質問終わりだポン!」
「ピョン! ピョン! ピョン!」
「ポン! ポン! ポン!」
「ちょっとまってピョン! まだ質問があるピョン! あなたはウサギをどう数えるピョン?」
「一羽二羽だニャ」
「わ、わ、わ! 羽? ピキじゃないのピョン? なんでウサギだけピキじゃなくてワなのピョン? トリと一緒にするのピョン? 多様性は? ピョン! ウサギ差別ピョン!」
「コココ、コケー! トリと一緒じゃ嫌だって言うのかケッコー!」
トサカニュースの記者が文句を言う。
「コココケッコー! ケコケコケコ!」
「ピョン! ウサギが餅つきがうまいっていつの時代の感覚なのピョン?」
「うるさいなぁ……ポン」
タヌキがボソッと呟いた。
「ピョン? うるさい? うるさいってどういうことピョン?」