高知県にある小さな水族館なのに、とあるサイトでの「好きな水族館ランキング」ではぶっちぎりの1位を獲得するほどの人気を誇る桂浜水族館。
広報担当・マスコットキャラクターのおとどちゃんによる連載が、今月からスタート!
ノリにのりまくりのハマスイには、昨年から新メンバーが立て続けにやってきているのです。勢いがあるとこは違うネ! 新メンバーによって、どんな変化が起きるのか? おなじみの人気者たちとの交流も踏まえつつ、ハマスイの楽しき日々を綴ってもらいます。
まずは改めて、おとどちゃんの自己紹介からよろしくどうぞ!
写真&文/おとどちゃん
編集/西村依莉
桂浜水族館、通称「ハマスイ」は、高知県高知市の名勝「桂浜」の浜辺に建つ小さな水族館だ。日本で二番目に古い歴史を持ち、令和三年の四月で創業九十年を迎えた。そんな老舗水族館の公式マスコットキャラクターである私は、平成二十八年生まれのハマスイ五年生だ。当時はまだ副館長であった七代目館長とトドをモチーフにデザインされた女の子で、名前は「おとど」という。ビビッドなピンク色の体に水色の半そでTシャツと黄色いスカートを纏っていて、今村夏子が「むらさきのスカートの女」を題材にしたのなら、私は「きいろのスカートの女」とでもいっておこうか。外斜視の双眸に猪のような鼻、刺々しい隙っ歯を剥き出しにしている口は、まるで万人受けしそうにない。そのくせ謎に恵体で、天然もののFカップがふたつくっついている。これは自慢すべきものらしい。いるか? その設定--。
およそ水族館の、それも博物館指定された施設のキャラクターとは思えない身形だが、持って生まれたものは仕方がない。これがお前の手札だと言われたからには、それを素直に受け入れて勝負しよう。
私は今日も無駄にたわわな胸と黄色いスカートを揺らして生きる。
私が生まれる少し前にここで起きた事件は、全国ニュースにもなり、随分とSNSや掲示板で話題となった。次々と新しく綺麗な施設ができる中で、昭和時代さながらの外観に覆い被さった負のイメージは、「高知の恥」として地元民から嫌われる十分な理由となり、年間来館者数が二十一万人を超えていたかつての栄光はどこへやら、すっかり客足が遠のいてしまった。
平成二十七年頃からこのままではいけないと奮起し、創業八十五周年を迎えた折に「なんか変わるで、桂浜水族館」とモットーを掲げ、改革を本格化した。私が生まれたのもこの改革の一環で、あれから五年の月日が経ち、見事闇の帳を取っ払った桂浜水族館は、今や日本一人気の水族館として愛されるようになった。
この五年間のことを振り返れば、毎日が苦心と苦悶の繰り返しだったが、ではその苦労話をしろと言われても、私は館長と顔を見合わせて「苦労なんかしたっけ?」と笑うだろう。結局のところその「苦労」とやらも、良くも悪くも揉まれ続けた社会の荒波のおかげで心地よく感じるようになったのだ。「なんか最近つまらなくない?」と館長が言うのも納得で、毎日のように袋叩きに遭いながら、刺激的すぎる日々を送ってきたおかげで、大抵のことには動じなくなってしまった。守るべきものが増えたのも、角が取れた理由のひとつだろう。「おとどちゃん、以前に比べて毒がなくなった」と言われたことがある。素直な転び方を忘れてしまうと、怪我をせずにどこまでも行けるようになる。
あの傷だらけで生きていた日々が恋しい。芸術家や道化師を続けるのは、思っていたよりも難しいようだ。
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