【2024年12月号 爆笑問題 連載】『アレよさらば』『党首討論』天下御免の向こう見ず

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※本記事はTV Bros.12月号龍が如く特集号掲載時のものです

<紙粘土・田中裕二>
アレよさらば

阪神の岡田監督が今季で退任する。去年は「アレ」が流行語にもなり、日本一にも輝いた。おつかれさまでした。
昔、矢沢永吉主演の『アリよさらば』というドラマがあったなぁと思い出した。

<文・太田光>
党首討論

 安心、安全、成長、賃上げ、救済、環境を守る、人を守る、補助、新技術、格差を無くす、女性、子供、人々を笑顔に……。
 テレビの党首討論は、いつものように、淡々と進んでいった。
番組終盤、司会者が言う。
「それでは各党党首の皆さん、最後に一言ずつ、国民の皆様に訴えたいことを一分でお願いします」
「えー我が党は皆さんの生活、そして未来を守ります。政治への信頼を回復させ、もう一度、この国を世界で誇れる国にしてみせます。どうぞよろしくお願いします」
 カメラが次の党首を映す。
「この国を救えるのは私達の党しかいません。他の党では絶対出来ないことを達成させてみせます。是非、よく考えて我が党へ一票をお願いします」
「私達が政権を担えば、必ず皆さんの所得を倍増させてみせます。安心して働け、安心して子育てが出来る社会を作れるのは私達だけです。どうぞよろしくお願いします」
「今のこの国、この政権に失望している皆さん、今こそこの国を変えるチャンスです。私達には自信があります。お任せください」
 次々と、各党党首がカメラに向かってアピールする。
 次の瞬間、画面にアップになったのは、今まで見たことのない、奇っ怪で白い小さな動物だった。耳が長くてウサギのようだが、顔は完全にネコのウサギネコだ。机の上のプレートには“ウサギ党”と書いてあり、下の名前の部分には“おれ”とある。
ウサギネコにニヤリと笑った、
「ケケケ、今までの連中の言ってること、ニャにが違うのかわからニャイニャ」
 各党首の顔が一瞬で引きつる。
 サブではプロデューサーがモニターを見て凍り付いた。
「おい! こんなやつ、今までいなかったろう。誰だこいつ!」
「……わ、わかりません。いつの間に……」
 他のスタッフも慌て出す。
「わかりませんじゃねえよ! いいからカメラ切り換えろ!」
「ダメです! スイッチング出来ません、故障かもしれません」
スイッチャーがいくらボタンを押しても画面はウサギネコのアップのまま変わらない。
 ウサギネコはカメラ目線でニヤニヤして言う。
「ケケケ、みんニャ言ってること同じだニャ。経済を発展させて、暮らしをよくして、国民を笑顔にする。同じ目的ニャら、ニャにも党が分かれることニャイニャ。みんニャで一緒にやればいいニャ。討論会も選挙も必要ニャイニャ」
 他の党首達が騒ぎ出した。
「おい、これは何の冗談だ」
「放送法でこんなことが許されるのか?」
「どういうことだ!」
 サブではプロデューサーがマイクに向かって怒鳴っている。
「おい! その変な生き物が喋るのをやめさせろ!」
 その怒鳴り声は、イヤフォンを通して司会者の耳にガンガン響いている。
 司会者が口を開き、なんともマヌケな質問をした。
「あの、すみませんが、あなたはどなたですか?」
 ウサギネコが憮然として言った。
「ふニャ?……おれは、ウサギ党のおれだニャ」
 党首達が騒ぎだす。
「おい! いくら演出だからって、こんなことしていいと思っているのか! ふざけたことするな!」
 フロアにいたディレクターがカンペを出す。スケッチブックには「演出ではありません!」と書いてある。
 しかし党首達はおさまらない。
「おい! これはただのおふざけでしたじゃすまないぞ! 完全なる選挙妨害だ!」
「早くあのネコをつまみだせ!」
 ウサギネコはムッとした。
「おれはネコじゃニャイ、ウサギだニャ!」
 サブではプロデューサーが怒鳴る。
「おい! あいつのマイクを絞れ!」
「ダメです。さっきから絞ってるんですが、まったく音が下がらなくて……」
「どういうことだ?」
「わかりません!」
「とにかくそのネコを何とか連れ出せ!」
 指示を受けたフロアディレクターがウサギネコの腕をつかむ。
 プロデューサーが叫ぶ。
「ちょっと待て! 乱暴はするなよ。わかってるな、生放送だ。動物虐待に見えないように丁重にお引き取りいただくんだ!」
「はっ」と答えてフロアディレクターがウサギネコの耳元で言う。
「……どうか、こちらの方へ」
「嫌だニャ。おれはまだ言うことがあるニャ」
 フロアディレクターは丁寧に見えるようにしながら、そっとウサギネコを掴んだ手に力を入れる。
「いたたたたた! 痛いニャ! ニャにするんだニャ! 虐待だニャ!」
 大げさに叫ぶウサギネコ。
「やめろ! その動物から手をはなせ!」
 イヤフォンからプロデューサーの声がする。
「乱暴するな! ネットが騒いでる!」
 既にネットは大荒れの状態になっていた。
 ……なんだあの動物?……可愛いじゃん……何かの演出?……報道番組でこんなふざけちゃダメだろ……何にしろこれ動物虐待じゃね?……政治家より面白そうだから話させろ……完全なる放送事故www……これだから、テレビはオワコン、もう見ません……この国オワタ……。
 党首達が騒ぐ。
「責任者出せ! これは電波停止どころじゃ済まないぞ!」
「どうなってるんだ! 説明しろ!」
 ウサギネコは笑う。
「ケケケ、うるさいニャぁ。おれは主権者としておまえ達に言いたいことがあるんだニャ」
「主権者だと? 何だか知らないが、お前は動物だろ! 選挙権持ってるのか?」
「ふニャ? 選挙権?……ああ、確かにそんニャもんニャイニャ……じゃあ、この星に住んでる生き物として言いたいことを言うニャ」
 サブにはテレビ局の社長、会長、役員クラスが集まって大騒ぎになっていた。
「なんとかしろ!」
「とりあえずテロップ出せ!」
「何て出しましょう?」
「……なっ……何でもいいから、これは番組の意図ではないということを伝えろ!」
「待て! そんなテロップ出したらますます視聴者を逆撫でするぞ!」
「スポンサーから苦情の電話が入ってます!」
「対処してると言え!」
「画面変えろ! しばらくお待ちくださいの画面にしろ!」
「さっきからやってるんですが、切り替わりません!」
「どうなってるんだ?」
 スタジオでは司会者がウサギネコに聞く。
「あの……あなたは、何を訴えたいのでしょうか?」
 ウサギネコは、一つ咳払いをして話し出した。

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