<文/太田光>
ウサギの刃
「グヘヘヘ! 何をしてもムダなのだ! せいぜいジタバタするがいいさ!」
球体のあちこちからイガイガが飛び出ている。なんだかわからない物体が都会に入り込み暴れている。
「うーん…こいつは今まで見たことニャイニャ。今までの鬼とは違うニャ。きっと新しい形。そうだ、新型。新型コロニャだニャ。油断は出来ニャイぞ」
ヘンテコリンな動物が言った。耳が長くてウサギのようだが顔は完全にネコのウサギネコだ。茶色と白の市松模様の半纏を着て、猫じゃらしを持ってウィルスと対峙している。
「おまえの好きニャようにはさせニャイニャ! 全集中! いちのかただニャ!」
「ほざくな! こわっぱ! こうしてくれるわ!」ウィルスが暴れ出した。
「フニャ、これは?…こいつが分散することによって世界中が混乱におちいってるニャ。外国から不安の声が届いて、この国はニャにも対策が出来てニャイとテレビで専門家が叫んでて、その専門家をいい加減ニャこというニャと批判する人達も出てきてるニャ! 人々の間に恐怖が広がってるんだニャ…全集中! にのかただニャ!」
ウサギネコは猫じゃらしを構えた。
「ガハハハ! 苦しむがよい! 次がこれだ!」
「フニャぁ! これは?…人が人と会えニャくニャって距離がどんどんはニャれていくニャ! 人を信じにくくニャって、疑心暗鬼が広がっているニャ! これはマズいニャ…全集中! さんのかたニャ!」
ウサギネコは猫じゃらしを揺らす。
ウィルスは更に分散する。
「どんどん苦しむがよい! まだまだ続くぞ! ほらぁ!」
「ニャニャニャ! これは? 歩き回る若者達が責められて、高齢者達は、恐怖に包まれてるニャ。世代間の分断を誘ってるんだニャ! とんでもニャイ攻撃だニャ。このままではみんニャが仲悪くニャってしまうニャ! よーし! 全集中! しのかただニャ!」
ウサギネコは猫じゃらしを上に構えた。
「まだまだだぁ!」とウィルス。「これでも喰らえぇぇー!」
「ニャぁんと! これは!…夜の街の人達がみんニャに責められてるニャ! それに、公園に集まってるお母さん達も批判されてるニャ! それからマスクをするかしニャイかで揉めてる人がたくさんいるニャ! 都会の人と地方の人もケンカしてる! 家の玄関前に帰ってくるニャって貼り紙をしたり、貼り紙した人を見つけだして責めてる人もいるニャ! しかもお店をやってる人はお客さんが来ニャイと苦しんでて、お店を再開しようとするとまた感染が増えるんじゃニャイかと怖がってる人もいるニャ! リモートが出来ニャくて会社に怖い思いで出かける人もいるし、リモートが出来ニャイ会社を責める人もいるニャ! 家でひとりぼっちで不安にニャってる人もいるし、対策が出来てニャイ職場で不安になってる人もいる!…これは恐ろしい攻撃だニャ! みんニャが罵りあって先が見えない不安ニャ状態にニャってるニャ!」
「うるせえ!」と、ウィルスがウサギネコに叫んだ。
「お前さっきから能書きばっかり言って、俺に対して何も攻撃してこねえじゃねえか!」
「全集中!」
「やめろ! 何が全集中だ! 口ばっかりなんだよ! 何だお前は? その手に持ってるものは何だ?」
「…ふニャ?」とウサギネコは手に持ってるものを見つめて言った。