映画『ロストケア』の主題歌「さもありなん」を配信リリースした森山直太朗。弾き語りによる自身“初”のベストアルバム『原画I』にも収録されている同曲は、どのように生まれたのか?「TV Bros.WEB」の連載と、雑誌「TV Bros.」でも、新曲について語ってもらった。【不定期連載『心のままに』】第4回。
構成・取材・文/かわむらあみり 撮影/junko
曲をスケッチした時期とオファーの時期が引き合った
――2023年3月1日に配信リリースされたシングル「さもありなん」は、3月24日に公開される松山ケンイチさん主演・長澤まさみさん共演の映画『ロストケア』の主題歌ですね。いつ頃オファーがあったのですか?
2022年の4月頃です。ちょうど自分の中で「さもありなん」をスケッチしていた時にお話をいただきました。それから脚本を読んで、編集前の映画の一部分を観た時に「この曲だ」と思ったんです。むしろ曲が呼び込んだとさえ感じるような不思議な感覚でした。監督の前田さんからも「映画の最後に一縷の光、希望や救いのようなものを感じられる曲をお願いします」と言われていて、この曲の中に漂っている決して否定することのない世界を包み隠さずそのまま提案しました。
――前田監督は「森山さんは映画のテーマを深いところで感じとられ、私が思い描いていたものからさらに飛躍させた素晴らしいアイデアを提案してくれました」とコメントされています。
脚本を読み、前田監督と制作の皆さんともお話しさせていただきました。監督がどんな思いで映画を作られているのか、スタッフの皆さんがどんなことにご苦労されたかなど語ってくださり、まだ編集も途中段階でしたが、皆さんが自分の不透明な部分をコミュニケーションで埋めてくれました。まだカット割りもしていないワンカットのシーンを観せていただいたりして、それが、とにかくすごい熱演で。演者さんはもちろん、関わる皆さんそれぞれが、自分の身を削って作っていることがひしひしと伝わってきました。
――直太朗さんのチャレンジ作でもあるんですね。映画の世界観をとても大事にされて作っていかれたことが伝わります。
すごく好きな昔の映画に『フィラデルフィア』(1993年公開)という人の生き死にを描いたヒューマンストーリーの作品があるんです。映画の最後にニール・ヤングの「フィラデルフィア」という曲が流れるんですが、その空気感がきっと僕の根っこの部分にあって、今回、映画の主題歌を作る時のモチーフになっていたんじゃないかなと。
『フィラデルフィア』では映像と音楽の境がないんです。エンディングの映像が流れて、続いてここで曲が流れました、という区切りがあるわけではなく、気づいたら曲も情報として入ってくるような印象。そんな風に物語の余韻を消さずに、自然に音楽に入っていければいいなという理想がありました。
――『フィラデルフィア』を観ましたが確かに映像と音楽の境がなく、『ロストケア』における「さもありなん」も映像と音楽が一体になって心に届きました。『原画I』に収録された「さもありなん」はピアノの弾き語りをされていて、配信リリースされた今作はアコースティックギターやエレキギター、アレイムビラ、ピアノなどで構成されていますが、意図は何ですか。
先ほど話したエンディングの浮遊感や幻想的な世界観に、少ない楽器でどれだけ奥行きを作り出せるかを考えて落とし込みたかったという狙いが一つあります。ギターで弾き語るだけだと少し土臭いイメージに寄ってしまうので、ギターリストの田中庸介君と一緒にアンビエントな世界を作っていきました。一方『原画』では、曲が生まれた原風景を大事にしながら、ピアノで録音していて。YouTubeチャンネル「にっぽん百歌」では、ギターの弾き語りでやってみたりと、その時々によって様々な型で歌っています。
【YouTube】森山直太朗 – さもありなん / にっぽん百歌【旧相川拘置支所 】
――最終的に、完成された映画『ロストケア』はご覧になりましたか。
もちろん。この曲を作った当事者として100%客観的には観られなかったんですが、それでも作品を通して、最後に「さもありなん」が流れた時に、この物語に同化できたのかな、という気持ちになれました。最初はどんな感じに曲が流れるのか、ちょっと緊張しました。
ミュージックビデオの撮影時に空に虹が架かる
――今回、映画の主題歌のオファーをいただいて曲を完成させる際、「さもありなん」は手元にあったものだったというお話をされていましたね?
この記事の続きは有料会員限定です。有料会員登録いただけますと続きをお読みいただけます。今なら、初回登録1ヶ月無料もしくは、初回登録30日間は無料キャンペーン実施中!会員登録はコチラ