今春、長らく続いた学生生活を終え、社会人アイドルラッパーとしての第一歩を踏み出したlyrical schoolメンバー・hime。13歳からアイドルを始めて今年で10年目。アーティストとしても、1人の大人としても、ぐんぐん成長中の彼女が、TV Bros.WEBで連載をスタート。今回は、himeのこれまでのアイドル人生やいま抱える思いについてインタビュー!
取材&文/高木“JET”晋一郎 撮影/佐野円香
hime、社会人アイドルラッパー1年目がんばってます!
――まず改めまして、大学ご卒業おめでとうございます。
イェーイ!
――ノリが若い(笑)。himeさんは今年でアイドル活動10周年なんですね。
あ! そうなんですか!? 気づいてなかった(笑)。
――アニバーサリーなのに(笑)。その間はずっと学生とアイドルの両立をされてきたわけですね。
部活の延長みたいな感覚で中1からアイドルを始めたので、学校と芸能活動を両立するのは当たり前になっていて。学生生活の途中からアイドル始めたりしてれば他の生活と比較できると思うんだけど、その両立しか知らないから、普通の学生生活と比べたり、それがどれぐらい大変だったのかが比較出来ないんですよね。でもいまから振り返ると、よく続けられたなっていうのは思います。
――その意味でも決して楽な道ではなかったのでは?
私は10代前半で入った他のグループでの活動を経て、17歳で(前体制の)リリスクに入ったんですけど、加入当初はメンバーで私だけ未成年だったんですよ。だから例えばMV撮影のときも休憩中は勉強してたし、ライブ後の打ち上げでもみんなはお酒飲んでるけど、私はこっそり膝の上に単語帳置いて暗記したりもしてましたね。宿題もやって、新曲や振り付けも覚えて……だから本当によく頑張った!って(笑)。でも、そのくらい頑張らないと、アイドルを続けられなかったんですよ。
――それはなぜ?
高校が原則芸能活動禁止で。だから成績上位ならいいけど、落ちたら学校辞めてもらいます、みたいな。
――好成績を修めているならお目こぼしするけどって……リリスクの「リボンをきゅっと」のインスパイア元になった安達哲のマンガ「キラキラ」でそういうシーンがありました(笑)。
学年トップは取れなかったけど、クラス1位はキープしていて。でもクラスの子に「勉強する時間はあるんだね」とかいじられたりして、それも結構辛かったですね。いじられるのが嫌だったっていうより、理解してもらえないとか、本当の気持ちを伝えられないのが辛い。部活の大変さはみんな共有できるけど、アイドルと学校の両立の大変さって、やっぱり学生アイドルじゃないと分からないし、友達に「アイドル活動でこういうことがあって」って相談したくても、それを自慢っぽく捉えられたら嫌だな、とか思っちゃって、あんまり言葉にも出来なくて。
――ネガティブにとらえると、「あの子、アイドルぶってるね」みたいな?
そうそう。土日はほとんどライブだから、テスト前の土日にみんなで集まって勉強会とか本当に一回も参加したことないし、そういうのがすごく羨ましくて。でもそういう思いって、いま学生とアイドルを両立してる子も抱えてると思うんです。
経験者として、学生とアイドルの両立生活している子の話を聞いてあげたい
――そういった「学生アイドルの日常」という構造自体は以前もいまもあまり変わらないだろうし、himeさんが両立してたときに感じた悩みを、現在進行系で感じてるアイドルの子もいるでしょうね。
そう思うんです。だから大きなアイドルフェスとかだと、マッサージルームがあったりするんですけど、そういうスペースのメンタルケア版みたいなのをやりたいんですよ。
――カウンセリングじゃないけど、himeさんが吐き出せなかったような悩みを相談できる場所というか。
カウンセリングルームっていうと大袈裟だから、ネイル部屋とかを作って、ネイルをしてあげる間、話を聞いてあげるとかでもいいんですけどね。やっぱり同じ経験をしたアイドルじゃないと、そういう悩みを共感したり、相談したり出来ないと思うんですよね。だってスタッフさんやカウンセラーさんで、アイドルの経験がある人って、絶対少ないじゃないですか。テスト前はどういう風に勉強した、時間を調整したかとか、両立で困ってることって、完全に解決するのは難しいかも知れないけど、話をするだけ、相談するだけでも変わると思うので。
――言葉にするだけでも悩みを整理できるだろうし。
やっぱりアイドルって弱音は吐きにくいんですよ。例えば土日に遠征して、月曜1限のテストとか本当に大変だったんだけど、昔の自分のツイートを見ると「どこどこでみんなに会えてうれしかった。月曜からも頑張ってね」みたいに、ファンやツイートを見る方を応援してて、ちゃんとアイドルやってるな~って(笑)。
――いわゆるアイドルらしいツイートですね。
そのみんなを応援する気持ちは嘘じゃないんですよ。でも「月曜のテスト超大変」みたいなツイートをしたり、人前でアイドルは弱音を吐けないっていうのも事実で。だからそういう気持ちを整理できる場所があればなって思いますね。
――一方で最近のhimeさんのSNSは誰かを分かりやすく勇気づけることもなく(笑)。
アハハ! 間違いない(笑)。私はSNS無精なんで、日常的に自撮りをアップして、リプも返信もしてっていうタイプじゃないんですよね。裏アカを作る気力なんてまったくない(笑)。でもヒップホップの話題をアップしたり、積極的に話したことで、それがリリスクの活動にも繋がっていったのは嬉しかったです。
――ヒップホップが好きなことは以前から話してたけど、その「深度」はSNSを通じて認知された部分が強いですよね。hinakoさんのディズニーだったり、yuuさんの映画も然り。
ヒップホップ関係のお話もそれまで以上にいただくようになったし、私のツイートがリリスクの活動にも影響を与えられることが分かったから、その部分は押し出してもいいんだなって。前体制は活動のアプローチ自体がもっとアイドル寄りだったから、もしかしたらそういう発信をしても、リリスクとしてのアピールには繋がりにくかったかも知れないし、私もあまり積極的に発言はしなくて。でもいまの体制のリリスクはヒップホップ寄りになったから、そういった話題を出しても変なバランスにならないし、見てくれる人も喜んでくれると思うんですね。だから積極的に言ってこうと思ってます。
両立が当たり前の環境だったけど今考えると「よくやった、私!」って思います
――では大学生活とアイドルの両立はどうでしたか?
4年生になったらリリスクの活動も続けつつ、例えば海外見聞みたいなこともしたいと思ってたんですよ。だから1~2年生のときに単位を取りまくって、4年生ではゼミに出れば大丈夫ぐらいのスケジュールにしてたんですけど、いざ4年になったらコロナ禍に……。誰も悪くないので責められないことだけど、報われないな……とは思いますね。ただ、大学は卒業したので、学生とアイドルの両立から、アイドル1本に絞ってやってみようって。
――そのとおり、今春大学を卒業して、現在はラップアイドル1本になりました。
ラップはとにかくずっと続けていきたいっていう気持ちは強いですね。正直、アイドルと学生生活の両立に挫けそうになったことはあるけど、どんなに大変なときでもラップを止めようと思ったことはなくて。それは中学生の頃からです。一生の仕事にするかどうかは分からないけど、「ラップをする」ことは止めないと思います。
――そのモチベーションは?
自分がずっとトキメキを感じるのがラップなんです、すごく単純なんですけど。それにいまのラップのスタイルってすごく広いじゃないですか。だから「ラップが好き」って一言でいっても、ものすごくたくさんの情報やジャンルがあるから、聴き飽きることがなくて。好きになる対象やパターンも変わるし、スタイルもアーティストもどんどん新しくなっていって。それを追いかけるのに疲れたら、昔から聴いていたヒップホップに戻ったり。そういう風に、ずっと循環出来るし、飽きている暇がないのがラップなんですよ。
――プロのラッパーも、音楽1本でやっている人ももちろんいるけど、ダークな世界に身を置く人もいるし(笑)、サラリーマンをしながら、農業しながら、介護職や医者、職人、あらゆる職業と兼業してる人がほとんどで。それはいまhimeさんが話したようなラップの幅広さにも通じるかと。
はい。そういう色んな方にお会いしてお話を伺ってみたいです。
いろんな職業の方にお会いしてみたい! 崎陽軒のお弁当を発明した方とか!
――例えばラップ1本で会社を立ち上げた、「Produce 101 Japan」シーズン2のトレーナーでも話題だったKEN THE 390とか?
すごく的確なアドバイスをいただけそう。女性だと、リリスクにも歌詞を提供していただいたvalkneeさんとかも社会人しながらいまの活動されてますもんね。それからずっと大ファンのHilcrhymeのTOCさん。一度対談させていただいたんですけど、完全に頭が真っ白になっちゃって、ちゃんとお話し出来なかったので改めてお会いする機会があれば……(笑)。音楽だけじゃなくて、アパレルやサングラスをプロデュースしたり、そういうマルチな部分についての経営哲学みたいなのも伺ってみたい。私自身、大学で経営学をやっていたので(笑)。
――同世代とかも面白そうですね。
近い歳だと、同じ川崎出身で、一回就職したけどいまは音楽1本で活動してるdodoさんにも会ってみたいです。私がパーソナリティをやっていたラジオで曲をかけさせてもらうときに、許諾の連絡をスタッフがしたら、すごく丁寧な応対をしていただいて。そういう部分でもすごく尊敬しているので人間性についても聞いてみたい。それから年下だったらLEXくんとかONLY Uくん、Linobuくんとか会ってみたいな……。それからCHICO CARLITOさん! でも普通にファンだから緊張しちゃいそう(笑)。
――音楽以外で会ってみたい人は?
あ! 崎陽軒のシウマイ弁当を発明した方! あんなにテンションが上がるお弁当はないんで(笑)。
――himeさんのインスタには定期的に崎陽軒関係が上がりますね(笑)。他には?
誰でもいいですか?じゃあお笑いのインディアンスさん。めちゃくちゃテンション上がりそう。それからマルセイユ、祇園、オズワルド……。
――しゃべくり漫才好きなことが判明しました(笑)。
ハナコさんも大好き。それからAマッソの加納さんの本(「イルカも泳ぐわい。」)も面白かったしな~。作家さんだと、中山可穂さんや田口ランディさん……やば、無限に出てきちゃう(笑)。他にやりたいことは……来る途中に電動キックボード見たんですけど、あれに乗ってみたい。
――それはもうご自身で勝手にやってください(笑)。
そういうことじゃないか(笑)。
――ちなみに、子供の頃に憧れてた職業は?
先生かな。教職課程も取ろうかと思ったんですけど、7限8限まで授業が入ることになっちゃうから、そうなるとリリスクの活動にも支障が出ちゃうってことで諦めちゃったんですけど、でも先生には憧れてました。
――バイトをしたことは?
高校生のときに一瞬だけ唐揚げ屋さんでバイトしてたんですけど、ホントに一瞬で、長期のバイトはないですね。でも大学のときはコンサートの設営のバイトを短期でやりました。
――めちゃくちゃ体力勝負な職種をあえて選んだ理由は?
この前の豊洲 PITでのワンマンライブ「lyrical school oneman tour 2021」みたいに、出演者が入るよりもっと早くから現場でステージを建て込んで、ライブが終わって私達が帰っても、残って夜遅くまで会場をバラす作業に携わって下さる、運営や設営のスタッフの方たちがいらっしゃるじゃないですか。でもそういう方たちに挨拶をする機会ってほとんど無いし、感謝を伝えるのも難しくて。だからこそ、それがどういう仕事なのかを知りたくて。中学の頃からステージに立つ側だったので、ステージを支えてくれる人はどんな仕事をしてるのかを知るために、イベントスタッフの仕事してみようって。傲慢な気持ちでステージに立たないように自分を戒めるためにも、という気持ちもありました。
――自分たちのステージは、どう成り立つのかを知りたかったと。
そうですね。ステージの建て込みは男性スタッフの仕事だったんで、私はチケットのモギリとか、お客さんの誘導の仕事をしてました。ももいろクローバーZさんの東京ドームのときも、会場案内の仕事で車椅子の方をゾーンまで誘導したり。そういう仕事をするまでは、演者が一番大変だと思ってたんですけど、いやいや、こういう方たちが支えて下さるからこそ、私達はステージで歌えるんだなって改めて感じたし、感謝してステージに立つようになりました。本当にいい経験になりました。
――素晴らしい職業体験だったんじゃないでしょうか。そんなわけで今月から毎回himeさんの人生の指針をTV Bros.WEBで見つけていければと思っております!
よろしくおねがいします!
hime●5人組ガールズラップユニット・lyrical schoolのメンバー。無類のヒップホップ好きとしても知られる。
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