本連載のクライマックスとも言える、押井さんがYouTubeを語るシリーズも第5回。推しに推す『Fラン大学就職チャンネル』のナカイド氏についてなどを徹底考察。「YouTubeの力は最終的に言葉の力」と語る、押井さんの真意とは。
取材・構成/渡辺麻紀
<新刊情報>
加筆&楽しい挿絵をプラスして待望の書籍化!
『押井守のサブぃカルチャー70年』
当連載がついに書籍化します。昭和の白黒テレビから令和のYouTubeまで、押井守がエンタメ人生70年を語りつくす1冊。カバーイラスト・挿絵は『A KITE』(1998年)などを手掛けた梅津泰臣さんが担当し、巻末では押井×梅津対談も収録。ぜひお手に取ってみてください。
押井守/著
『押井守のサブぃカルチャー70年』
発売日:5月2日(月)※一部地域を除く
発行:東京ニュース通信社
発売:講談社
カバーイラスト・挿絵:梅津泰臣
文・構成:渡辺麻紀
全国の書店、ネット書店にてご予約、ご購入いただけます。
みんな簡単にユーチューバーになれると思っているようだけど、私に言わせれば映画監督になるより難しい
――押井さんご贔屓のユーチューバー、ナカイドさんのお話をお伺いしています。前回は、ナカイドさんのゲームの辛口チャンネルが大炎上して、ナカイドさん自身、心が折れちゃったというお話でしたね、押井さん!
ナカイドくんは100万人もの登録者がいるようなユーチューバーにはなれないんですよ。
――なぜ、そう言い切れるんですか?
なぜなら自分のポリシーがあるから。それを絶対に曲げたくないと思っているから。自分のやりたいことだけをやりたい。自分の褒めたいものだけを褒めたい。迎合はしない。ナカイドくんはゲームを尊敬しているからこそ、そういうポリシーをもっているんです。ゲームの価値を認めているし、いいゲームが生まれて欲しいと真剣に思っている。だから、その反対のダメなゲームは叩きたい。そこに彼の信念があるんです。
――かっこいいじゃないですか。まるで芯の通ったインディペンデント系の監督さんのようですよ。
そうだよ。ちゃんと自分でプレイして、その感想を加味し、リサーチにも手抜きはなく、データもちゃんと取っている。さらに、その動画も、まず結論があり、そのあとに理由が3つあり、総論があって、最後にまとめがある。あっという間に終わるけど、ちゃんと時間をかけて作っている。この構成からもナカイドくんは努力の人だということがわかるんです。
ゲームに対する愛情が深く、努力家でもある。でも、そう思って彼のチャンネルを観ている人はいなかったんだよ。彼がダメなゲームを叩くのが面白くて観ていただけ。現に、叩けば叩くほど再生回数が伸びて行ったからね。
――ナカイドさんの心が折れたのは、ファンだと思っていた人に叩かれちゃったから?
YouTubeを観ている人はそういう折れた人を容赦しない。とことん叩く。それまで「毎週楽しみにしてます」と言っていたのに「辛いんで1カ月お休みします」になった途端、半分以上がボロクソ。すごーくイヤなコメントがダーッと並ぶんですよ……私、コメント欄は基本、見ないんだけど、ナカイドくんは気になってチラ見しちゃったんだよね。チラっと見ただけでスゴかったら、そりゃあ折れるよなあって。
――「がんばれ! オレがついてる」みたいな人はいないの?
いるけど少ない。全体の10~15%くらいじゃない?
基本的にみんな面白がりたいだけで、その場が楽しければいい。ネット民と言われる人たちの民度は明らかに低いと言える理由のひとつだよね。そういう人間だからネットにぶら下がっているんです。
とはいえ、それだけだったら、こうやって話してませんよ。やはり可能性を秘めているし、新しい才能があり、面白い言葉が転がっている。
――押井さん、YouTubeの話では必ず「言葉」のことをおっしゃいますよね。動画のサイトなのに、やっぱり重要なのは「言葉」だということですね。
そうです。YouTubeの力は最終的に言葉の力だと、私は思っている。これから紹介したいと思っているチャンネルのほとんどは、独特の言葉遣いがあるし、そういう言葉を彼らが創り出している。
実のところ、YouTubeの動画を見るようになって、改めて言葉の力がいかに大きいかを知ったくらいだからね。
最終的には言葉。ナカイドくんもそう。語りが面白いからみんな食いついたし、私も注目した。
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