これは何の広告?
姫センのユニークなHP事例
兵庫県姫路市に位置し、サファリパーク・遊園地・プール・アイススケート場を併設する複合型レジャー施設「姫路セントラルパーク」。「姫セン」の愛称で親しまれている同園の公式サイトのページが「自虐的でおもしろい」と、笑いと注目を集めているのをご存知だろうか。
取材・文/成澤さおり(アドバンスワークス)
たとえば、一躍その名を有名にした、「日本一心の距離が遠いサファリパーク」のCMと“自虐サイト”ページ。
「日本一心の距離が遠い」というキャッチコピーと、雲海の中の山頂に動物や観覧車がそびえ立つビジュアルは、一見すると動物園らしくない。「何だこれは?」と、強烈なインパクトで人を惹きつける。
すぐに内容を見たい欲求にかられるが、ページに入るには、まず大阪―姫セン間の所要時間を入力しなくてはならない。その数値に応じて隠しコマンドが設定されており、近すぎると「お世辞はいらない!姫路の遠さを舐めないでください!」と怒られ、遠すぎると「あなたの中では姫センはそんなに遠い存在なのですね」と、拗ねたように画像が小さく表示される。まるで人格を持ったような反応が返ってくるため、「めんどくさい彼女みたい」と、Twitter等で話題に上った。
ユーザーのストレスとか離脱率とかって何だっけと、WEB設計の定石がちらりと頭をよぎるが、リアクションが予想の斜め上すぎて理論はどうでも良くなってくる。
同様の自虐サイトページは、2022年3月時点で4つ存在。それぞれ別々の隠しコマンドがあり、ユーザーの入力次第で違った反応を楽しめる。
ようやくページ内に入ると、中はさらにカオスだった。
プールの認知度の低さを表現する
「日本一心の距離が遠いプールサイト」
突如現れる植物の画像(10%や3%など、同じ認知率の植物を例示)。
「日本一過小評価されている
サファリパークサイト」
責任者である園長の顔写真をやたらと無駄遣いする。
コツメカワウソの赤ちゃんのかわいさを
マスコミに届けるページ
マスコミにあまり取り上げられなかったことを自虐するサイト。おめでたいニュースなのに、ボタンをクリックすると物哀しいピアノ曲のBGMが流れる。視覚のみならず聴覚も刺激。
園内に掲示されたポスター
無関係なのに巻き込まれる鳥取県。
もはやPRでなくなっているキャッチコピー。
補足すると、園内にはかわいい赤ちゃん動物が多数いるし、夏季は数種類ものプール・スライダーを楽しめる。自家用車やバスから動物たちを間近で観察できる「ドライブスルーサファリ」、入園客であれば無料で利用できるゴンドラ「スカイサファリ」など、見所が多数存在する。それにも関わらず、圧倒的に“自虐調”のPRが目立つ。
なぜ、ここまでエッジの効いた“自虐PR”を始めてしまったのか。企画広報課の幸崎さんに話を聞いてみた。
自虐サイト誕生秘話 〜実は自慢サイト〜
まずはこうした「隠しコマンド」や自虐PRに至るまでの経緯、発想に迫ってみた。
「35周年を迎えた2019年に、どんなテレビCMを作ろうか年間コンセプトを考えた時、大阪の人々に知られていない部分を埋めよう、という考えから始まりました。商圏エリアのひとつが大阪なのですが、実際より相当遠くに思われていて……。よく『岡山の辺りでしょ』と言われます。姫センまで約1時間で行けるのに、3時間かかると思われていたり」
大阪府民は、大阪から姫路や広島までほぼ同じ距離、という不思議な感覚を共有しているらしい。国宝の姫路城があるにも関わらず、扱いがひどく気の毒に思える。
「『なんで姫路(の距離感)はこんなに分からないんだろう』と皆で話し合う中で、距離は近いのに、認知されていないから、心の距離が遠いんだと。その分かってもらえない現状を表現しようと「日本一心の距離が遠い」というキャッチコピーが決まりました。
結果的に“自虐”と言われますが、『遠く感じるけど実は近いですよ』とか『遊ぶところが色々あるんですよ』とか、自慢だったんです(笑)。関西特有の悪ノリで「知らないの?」「答えられないの?」と作った結果、こんなサイトページになりました。
隠しコマンドも、『さすがにこの答えは出てこないだろう』と思うようなところまで細かく設定しています。なかなか気づかれない仕掛けも結構あります」
“50万人いれば小田原城を攻め落とせる”など、日頃なかなか思いつかない(であろう)比喩や発想はどこから生まれるのだろうか。
「園内のスタッフや広告代理店の方と一緒に、うちの来場者数50万人は多いかな、少ないかなと皆でディスカッションをしました。50万人は多いという意見のもと、50万人いたらこんなことができる、合致する数字が何かないかなと考えたり。どう表現したら伝わるだろうと、皆で悪ノリして探したらエスカレートしていきました」
園内に掲示するポスターも、毎回必ず複数パターンを制作。キャッチコピーやテキスト、画像のバリエーションからは、並々ならぬこだわりを感じる。
「毎回決められないくらい案がたくさん出ているので、悪ノリの産物です」
賛否両論あったものの、結果は大成功
あまりにも斬新な発想に、園内では当初、反対の声は上がらなかったのだろうか。
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