このコラムのサブタイトル「あるいはポップカルチャーレコメンドダイアリー」は、2012年に不幸な事故で急逝された川勝正幸さんが生前発していた“ポップウィルス” “ポップホリック”という概念、及び川勝さんが“ポップ”と感じたありとあらゆる表現者や表現ブツを紹介=レコメンドしてゆくというライフワーク……いや、もはや仕事でもなく、生きてゆくことすなわちレコメンドという姿勢を、僭越ながらも継承するつもりで名付けたのだが、“ダイアリー”の部分は、オレごときが川勝さんのような流麗&エッジー&そこはかとなく漂うユーモアを兼ね備えた長い文章など書けるわけがないので、日記形式の短いレコメンド文ならばなんとか……という消極的な理由で加えたのだと思う。
実際、雑誌時代のブロスの連載初期の頃は日記スタイルで書いていたっけ。なので、今回は原点回帰というわけではないが、川勝さん没後10周年というタイミングも重なったので、1月に浴びたポップなブツを日記形式でお送りします。っていうか川勝さん、もう10年っすよ! さっきから急逝とか生前とか没後とか書いてるけど、10年経っても全然、まったく、川勝さんがいなくなったっていう感覚が無いんですけどねー。
1月4日。
仕事始めだったが、リモート打ち合わせだけだったので、以前から気になってマイリストに入れていたNetflixドラマ『ビリオンダラーコード』全4話を一気見。物語は、Googleアースを開発したのがGoogleではなく、コンピューター黎明期の1990年代に東西統一したばかりのドイツの美大生グループだったという実際の出来事をベースにしていて、開発の途中で「これは世界的発明だ! ぜひ一緒にやろう!!」と共同開発を持ちかけてきたGoogleがその技術だけ丸パクリして、若者たちをぶった斬ったという……そんなの絶対面白いじゃん!! と見始めたら案の定、面白い!!
ストーリー構成は、若者たちがGoogleに裏切られてから30年経ち、世界的巨大企業Googleを特許侵害で訴え、莫大な損害金を得ようとする現在軸と、1990年代に何者でもなかった彼らがコンピューターという武器を手にしてGoogleアースの原型となる“テラ・ビジョン”を発明・開発してゆく青春サクセスストーリーの過去軸がカットバックされるというもので、同じくコンピューター業界のサクセスと裏切りを描いた映画『ソーシャル・ネットワーク』と近い。だが『ソーシャル〜』はマーク・ザッカーバーグVS Facebookを作った仲間たちという構図だったが、本作は名もなき若者たちVS巨大企業というわかりやすい敵対構造になっていて、感情移入がしやすい。
ルックや音楽、編集テンポも『ソーシャル〜』を意識していると思う描写が感じられるが、国が違えば文化も違うということで、前半の見どころは統一直後のカオス状態だったドイツのアンダーグラウンドカルチャーが存分に観られるという点。地下違法クラブ、前衛アートに加えて、当時のドイツから生まれて、やがて世界の音楽シーンを席巻するテクノミュージックがコンピューターアートとも密接な関係にあったことなどまったく知らなかった。クライマックスのGoogleを相手にした裁判シーンは、それまでとは趣を変えた裁判ドラマとしても秀逸な出来で、一本のドラマに中にこれだけ要素があると、どこかで綻びが生じるものだが、ビターなラストに至るまで破綻することなく、見事にまとまっている。大人向けの友情・努力・勝利(かどうかは観て確かめてください)のドラマとしても、満点に近いのではないでしょうか? それにしてもGoogleって怖い!!
1月12日。
エレファントカシマシLIVE@武道館。しばらくソロ活動に専念していた宮本浩次がホームであるバンド、エレカシを再活動……させたのかどうかはわからないが、とにかく久しぶりのライブ。デビュー以来のファンとして、正月の武道館でエレカシを観るのは格別な思いがある。1991年、デビュー3年目にして早くも孤高のバンドとなり、客を罵り、席を立つことも歓声も拒み、CDセールスも芳しくなかった頃になぜか行われた武道館公演は、なんの逆ギレだったのかアリーナ席のみの「3000人限定ライブ」だった。シンプルなステージにガラガラの1階・2階の客席、重く荒々しい演奏に、殺気立った宮本のシャウト、ライブレパートリーも少なく演奏したのはわずか11曲。それでも当時のオレを含めたエレカシファンは、武道館でライブをやったということに興奮した。中でもその頃のエレカシを最もわかりやすく表現した曲「珍奇男」は、3000人全員が「すげえ……」としか言い様のない状態で手が腫れるほど拍手をした。
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