現下の期待と推察~重要な5つのキーワード【2022年度NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』追跡不定期コラム第1回】

2022年度のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』には、小栗旬や新垣結衣ら豪華な出演者や脚本・三谷幸喜への期待もあり、早くも話題になっています。

そんな期待作を待ち焦がれるあまり、放送前から勢い余って本ドラマを追跡する不定期連載がスタート。テレビコラムニストの木俣冬が、『鎌倉殿の13人』にまつわることならなんでも追いかけ、表も裏もあぶり出し、ドラマの魅力に迫ります。

今回は、初の大規模なロケ後に行われた、制作統括の清水拓哉チーフプロデューサーへの取材から見えてきた「5つのキーワード」から、ドラマの魅力を推察していきます。

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現下の期待と推察~重要な5つのキーワード

文/木俣冬(テレビコラムニスト)

<プロフィール>
きまた・ふゆ●東京都生まれ。著書に「みんなの朝ドラ」、「挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ」など。「連続テレビ小説 なつぞら」、「コンフィデンスマンJP」などノベライズも多く執筆。そのほか「蜷川幸雄 身体的物語論」「庵野秀明のフタリシバイ」の構成も手掛ける。WEBサイト「エキレビ!」で「毎日朝ドラレビュー」連載中。

 

2022年度NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が2021年6月にクランクインし、7月に大規模なロケが行われた。視聴者としては早く見たい! と期待が膨らむばかりだが、あいにくコロナ禍のため取材もなかなかしづらいことが残念。だからというわけではないとは思うが制作統括の清水拓哉チーフプロデューサーのリモート取材には新聞、テレビ誌、ウェブ媒体等、40人近い取材者が殺到した。そのときの取材内容はすでに各媒体で記事にまとめられて公開されているところ。この取材会での応答から筆者が重要に感じた『鎌倉殿の13人』のキーワードは5つあった。

「三谷幸喜」「北条義時」「小栗旬」「新垣結衣」「大河ドラマ」

である。それらから浮かんでくる『鎌倉殿の13人』に期待できることを清水CPの回答を交えながら推察してみる。

 

三谷幸喜〜歴史の勝者を独特の視点で描く

三谷幸喜はこれまで『新選組!』(2004年)、『真田丸』(2016年)と大河ドラマの脚本を手掛けてきた。前2作は時代の敗者を描いたが今回は3作目にして初めての勝者であることがポイントになると清水CP。

「『新選組!』の近藤勇、『真田丸』の真田幸村(信繁)はある瞬間輝きを見せるが結局、闘いに負けて死んでいきます。北条義時は最終的に鎌倉幕府の成立に貢献し、盤石にし、北条家が権力のトップになる土台を作る人物です。とはいえ単なる成功者ではなく、三谷さんらしいペーソスによって、権力者ならではの苦悩が濃密に描かれていくと思います。そういう意味では三谷さんらしいドラマになっていくのではないでしょうか」

鎌倉殿(頼朝)ではなく北条義時を主人公に選んだことも三谷らしさで、誰もがよく知るヒーローではない人物の視点で歴史を描くためではないかと清水CP は推測する。

「三谷さんが群像劇の名手。歴史とは誰かひとりの英雄によって動くのではなくたくさんの人たちが関わり合ってできていく。そのおもしろさを三谷さんなら描いてくださると期待しています」

 

北条義時〜偶然歴史の表舞台に引っ張り出された人物

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北条義時は鎌倉幕府の第二代執権。執権とは当初は将軍の補佐だったが、将軍・頼朝の死後、実権を握り、北条家が世襲した。義時はその発端になる重要人物。だが「基本的には偶然歴史の表舞台に引っ張り出されちゃった人なんです」と清水CPは語る。

「源頼朝が義時の姉・政子と結婚したことがきっかけで頼朝の天下取りに巻き込まれていくんです。自分でなにか最初から大きな何かを成し遂げたいと考えていたわけではない人物が使命を与えられて葛藤したり悩んだりしながら成長していきます」

主人公は北条義時だが、タイトルに「13人」とあるように群像劇の色が濃くなる。

「13人はあくまで象徴としての数字で、もっとたくさんの人物たちがそれぞれの役割を少しずつ果たすことで大きな物語になっていきます。誰かがヘンなことをするとドミノ形式でヘンなことになったり、逆にみんなが力を合わせて大きなパワーを生み出し、大きな出来事を成し遂げる。それが三谷さんの群像劇の魅力と思います」

 

小栗旬〜スケール感と繊細な芝居

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たくさんの人たちに揉まれながら物語の中心になっていく北条義時。巻き込まれたとは言え最終的に帝王になっていく、そういう人物を演じるうえで、スケール感と繊細な演技力を併せ持つ小栗旬がふさわしいと清水CPは期待を寄せる。

「大河ドラマに何作も出演してくれていて“大河”とは何かをご存知の方ですし、世界的なスケール感もあり、シェイクスピア劇も何作もやっているから、歴史劇をやらせたら間違いないというところですかね。また、会見で三谷さんが『心で演じてくださる』とおっしゃっていましたが、そのとおりで人物の心情をしっかり表現してくれます」

 

要するに、ヒーローらしくないヒーローがひょんなことから歴史の重大事に巻き込まれ、陰謀渦巻く群像を見つめながら最終的には歴史のセンターに躍り出ていく。三谷幸喜と小栗旬の組み合わせで最高に面白い大河ドラマになり得るということであろう。

 

新垣結衣〜ミステリアスな前妻

『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)のヒットと共演者の星野源との結婚と注目の的の新垣結衣が初大河ドラマ出演とあって、彼女はどういう役を演じるのか世間は興味津々。新垣が演じる八重は頼朝の前妻であり、義時の初恋の人物として描かれる。

「頼朝と北条政子が有名カップルですが、その前の妻・八重は謎めいた存在でドラマチックなんです。歴史の影にひっそりと埋もれていった八重を魅力的に演じてもらう俳優は誰かと考えたとき、ミステリアスな感じがある新垣結衣さんが浮かびました」と清水CP。確かに新垣は『逃げ恥』が大ヒットした後、露出度が少なかった。演技を披露する機会のみならず、SNSなどでプライベートを公開することもあまりなかった分、大河で重要な役で登場することには国宝が数年に一回公開されるようなありがたさがある。

 

大河ドラマ〜最先端で最後尾

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1963年からはじまった大河ドラマ。『鎌倉殿の13人』で61作目となるご長寿シリーズ。初期から見ている根強いファンがいるため、毎作ごとに「大河」というブランドにふさわしいかどうか賛否両論となる。昭和、平成、令和と時代も変わり、作り手たちは時代に合った新しさを取り入れようと試行錯誤している。清水CPは今回の題材を「クラシックで面白いと思っている」と手応えを語った。

「元ネタになっている『平家物語』や『吾妻鏡』は日本人が何百年も楽しみ、愛してきたものです。三谷さん流のセリフまわしは現代的とはいえ、内容は正しく日本人が面白がり涙する物語になっていると思います」

ベースはクラシックながら映像は、昨今増えている配信作品と並べるハイクオリティーを目指していると言う清水CP。「最先端というのか最後尾というのか」と表現に悩んでいたが、大河ドラマ59年の歴史を踏まえた最後尾であり、新たな挑戦も行っている最先端ということであろう。

大河に限ったことではないが、新しい視聴者を求めるあまり、これまで支えてきた高齢層のことを忘れてしまうことは悲しいことだと番組を見て感じることが筆者にはある。ほんとうに面白いものは見る人を選ばない。『鎌倉殿の13人』が老いも若きも楽しめるエンターテインメントに育っていくことを願っている。

清水CPは大河ドラマでは『風林火山』(2007年)で演出を25話の1話のみ手掛け、『真田丸』ではスタジオなどのリソース管理とPR映像やCG関連を担当するプロデューサー、『いだてん〜東京オリムピック噺』(2019年)では制作統括のひとりとして関わってきた。2000年代の大河ドラマの歴史を体験している人物なので間違いはないだろう。古くて新しい大河ドラマの理想を創り出してほしい。

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