【2024年9月号 爆笑問題 連載】『どうの河野言っても月末には決まる』『総裁』天下御免の向こう見ず

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※本記事はTV Bros.10月号あいみょん特集号掲載時のものです

<紙粘土・田中裕二>
どうの河野言っても月末には決まる

自民党の総裁選がいよいよ告示。9月27日には次の総裁が決まります。小石河やコバホーク、女性候補など話題は事欠かないが、誰になるかはわからない。紙粘土はその中で一番作りやすそうだった河野太郎デジタル大臣。

<文・太田光>
都知事選

「我が党が変わることを示す最もわかりやすい最初の一歩は私が身を引くことであります。私は来る総裁選には出馬しません。総裁選を通じて選ばれた新たなリーダーを一兵卒として支えていくことに徹してまいります」
 総理の一言は、驚きを持って報じられた。
 とはいえ、国民の間では遅かれ早かれこういうことになるのではないか、という予感はあった。
 宗教団体との関係の問題。政治とカネの問題……。国民が納得いく答えがないまま、支持率は低いまま、総裁選間近まできた。
 会見の直後から、世の中の話題はポスト総理が誰になるかの一色になっている。

 総理は官邸の執務室で、部屋の整理をしながら、自分の会見をもう一度見直している。
「新しい資本主義」という自らが掲げた政策目標に関しては、ある程度成果を出したという自負はあるが、やはり無念さは残る。
 これほどの不祥事が連続しなければ、おそらく自分はもっと評価されたはずだという思いが募るが、タイミングと運が悪かった。ここ数年の状況では引かざるを得ない。ここで潔く引くことによって、後年、歴史は自分を真っ当に評価するだろう。そんな思いも心の片隅にはあった。
「ケケケ」
 どこからかヘンテコリンな声が聞こえた。
 総理は不審に思い、声のした方を見る。
 そこにいたのは、白い小さな生き物だった。耳はウサギのように長いが、顔は完全にネコのウサギネコだ。
 総理は咄嗟に外していたメガネをかけようとデスクの上を探したがメガネは見当たらない。
「フギャぁ。目が回るニャ」
 ウサギネコはメガネをかけていた。
「お前こんニャ状態で地球を見ていたのか。これじゃあ見えニャイはずだニャ。ケケケ」
「何だと? お前、何者だ?」
「おれはウサギだニャ」
「ウサギ?」
「ケケケ、ニャるほど、お前、聞く力はあったのかもしれニャイけど、見る力はニャかったようだニャ」
「何?」
 ウサギネコは、総理に近づきながら言った。
「視力のことじゃニャイニャ。世界を見る力だニャ」
 総理はメガネを取り戻そうと手をのばすが、ウサギネコはヒョイとすり抜ける。
「ま、待て!」
「ケケケ、お前には俺はつかまえられニャイニャ。絶対に」
「何だと?」
「ケケケ、党が変わるってニャンのことだニャ?」
 総理はウサギネコを追いかけるが、ウサギネコはヒョイヒョイ跳んで逃げる。
「よくあんニャことを国民に向かって言うニャぁ。国民はお前をこの国の総理として見てた。党のことニャンて知らニャイニャ。どこの誰に向かって話してるんだニャ?」
 デスクの上のモニターではまた会見の映像が流れている。画面の中の総理は言う。
「……残されたのは党のトップとしての責任であります。もとより所属議員が起こした重大な事態について、組織の長として責任を取ることに、いささかの躊躇もありません……」
「ケケケ、全然格好良くニャイニャ。組織の長ってニャンだニャ? お前は一言も総理として話してニャイ。お前はただの総裁だニャ。いささかの躊躇もニャイ? ケケケ、躊躇しろよ、総理として。この中途半端な状態で、国民を投げ出すことに」
 モニターの中の演説は続いている。
「……今回の事案が発生していた当初から思い定め、心に期してきたところであります。当面の外交日程が一区切りついたこの時点で、私が身を引くことでけじめをつけ、総裁選に向かって行きたい」
「一区切り? ニャにが一区切りだニャ? 世界で起きてる大きニャ二つの戦争は、まだまだニャンの区切りもついてニャイニャ。お前は先進国のリーダーじゃニャイのか? 戦争を止める為にニャにをした? この地球の状態で、ニャにが一区切りニャンだニャ?」
「うるさい!」
 総理は何度もウサギネコをつかまえようとするが、その度にウサギネコはヒョイっとすり抜ける。
「ケケケ、だから言ってるだろ、お前に俺はつかまえられニャイよ」
 モニターの中の総理が言う。
「私の政治人生、政治生命をかけて一兵卒として引き続きこうした課題に取り組んでいくつもりです」
「ケケケ、党員人生、党員生命と言えニャ。もう一度言ってやるニャ。お前は総理じゃニャイ。ただの総裁だニャ。お前が話してる相手が全員お前の党の党員だとでも思ってるのかニャ? ほとんどの国民は、お前の党の党員じゃニャイ。一兵卒ってどこの一兵卒だニャ? 国じゃニャくて党だろ。そんニャこと知ったこっちゃニャイニャ。お前の言葉は誰の耳にも心にも届いてニャイニャ。お前には言う力もニャイ」
「黙れ、私は一国の総理だ!」
 モニターの中の総理が言う。
「……いわば政治家としての意地を示した上で、これから先を考えた場合、党の信頼回復の為に身を引かなければならないと決断しました」
「ふニャ? 党の信頼回復の為に、総理を辞めるんだニャ?」
「それは屁理屈だ! 私は総理として世界から評価されている」
 総理は、総裁選に立候補しない意向を表明した直後、大国の大統領が、自分を評した言葉を噛みしめていた。
「総理のリーダーシップにより、我が国との同盟の未来はかつてなく強固で、明るいものになった。その勇気あるリーダーシップはこれから何十年もの間、両国の記憶に残るだろう」
「ケケケ、お前は平和主義者じゃニャイのか?」
「何を言う! もちろん私は平和主義者だ!」
 彼にとってウサギネコの言葉は一番の侮辱だった。彼は根っからの平和主義者だ。

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