高橋弘樹のエッセイ「代表取締役ヒラ社員」日記 #4「ロケの神様」

元テレビマンで現YouTuberの高橋弘樹プロデューサーが、動画制作の裏話から、ReHacQABEMAの二足のわらじ生活を赤裸々に語ります。

今回は、人気番組「ReHacQ旅」で富山ロケをした際のとっておき話を。高橋Pが思わず泣いてしまったこととは⁉ 笑いと感動の番組も、これを読むと2倍楽しめます。

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プロフィール

たかはし・ひろき●1981年生まれ。東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業後、2005年にテレビ東京へ入社し、『家、ついて行ってイイですか?』などのヒット作を企画・演出。2021年より登録者数100万人を達成したYouTubeチャンネル「日経テレ東大学」(2023年3月で終了)の企画・制作統括を務め、2023年2月末、テレビ東京を退社。同年3月より自身が代表を務める株式会社tonariにてビジネス動画メディア「ReHacQ(リハック)」(2023年8月現在、登録者数41万人)を立ち上げる。株式会社サイバーエージェントにも所属し、AbemaTVで映像制作も担う。著書に『1秒でつかむ』(ダイヤモンド社)、編著書に『なんで会社辞めたんですか?』(小社)などがある。

【最近のお仕事】ひろゆき&東出昌大の過酷なアフリカ旅がついに最終話を迎えたABEMAの番組「世界の果てに、ひろゆき置いてきた」(※全10話、2023年9月17日22時までは無料視聴可能)をプロデュース。ABEMAバラエティ視聴ランキング1位で話題!

#4 ロケの神様

ヤバいけれど感慨深い

ロケには、「ロケの神様」というものがいると思うことがあります。今回は最近「いるな〜」と感じたロケの神様について記したいと思います。

わたしたちが運営しているビジネス動画メディアReHacQ(リハック)の話。

5月1日と2日に富山でロケをして旅番組を作りました。この番組ははじまる前から感慨深いものがありました。

独立して初めて作る旅番組だったからです。ただ「初めて」というだけならいいのですが、前職のテレビ東京時代とは何もかも違います。

自分たちのReHacQというメディアに載せるために、完全に自分たちの責任で作る番組だということです。責任とかカッコよく言いましたが、はっきり言えば金です。

旅番組を作るにはなんだかんだ数百万円のお金がかかります。テレ東にいたときはテレ東がサクッとそのお金を出してくれましたが、ReHacQで流すとなるとそれを自分で用意しなければなりません。用意というか、用意してペイさせなければなりません。

そして本当にヤバいのは、なんかわからないんですが、そんな感じでヤバいはずなのにあまりヤバいと感じていないことでした。

「ま、どーにかなるっしょ」くらいの気持ちで、はっきりいうとめちゃくちゃ楽しみでした。ロケハンするのにレンタカーを使うのがダメとかいうルールもなく、達成視聴率もなく、予算という概念すらない。「わーい!」という感じです。

 

では何に対して「感慨深い」のかというと、完全なるファイナルカット権を持てたことでした。ファイナルカット権というのは、最終的に映像をどういったものにするかという意思決定権のことです。自分たちのお金で作り、自分たちのメディアに載せるメリットはここにあります。自分たちが思った通りに、思った尺数で配信できる。

ピンとこないかもしれないので補足をしておくと、映像というのは気合を入れて作ったものであればあるほど、自分の分身のようなところがあって、自分の思惑と違う第三者からの修正は、時にメチャクチャ気持ち悪かったりするのです。

経営者としては「ファイナルカット権とかより、この番組での利益率だろ!」と考えるべきところだとは思うんですが、クリエイターのダメな部分全開でロケに臨みました。

結果1泊2日のロケを、あらゆる瞬間集中して、全力で演出しきり、8時間近くの尺を配信しました。テレビなら15分〜60分くらいかと思いますww。さぞかし出演者のひろゆきさん&若新雄純さんは疲れたことでしょう。

 

一泊3万円!?

そんなこんなのReHacQ旅ですが、いろんなロケの神がやってきました。

軽いものだと、1日目のロケ終了時です。出演者はともかく、スタッフ全員が停まる宿がまさかの1人3万円くらいの宿だったのです。

「え?」。

値段を聞いて軽く笑いました。人間恐怖すぎると「驚き」より「笑い」が出るようです。

ロケ隊はなんだかんだで10名ほどいます。「終わったー」と思いました。やけに素敵な宿のはずです。そこまで宿で取材する予定もなく、そして到着も23時を過ぎていて宿を堪能することもできません。

そもそもテレ東時代から地方ロケでは激安宿に泊まる事にしていました。もちろん制作費を少しでも浮かして、より良いものを作る・・・ためではありません。制作費とかは関係なく、出張に対してホテル代支給額が規定で決まっていたため、なるべく安い宿に泊まって合法的に差額で小遣いを稼ごうとしていたのです。

 

たとえば大阪でロケの場合、スケジュールに余裕があれば西成に泊まることもありました。一泊900円とかの宿があるのです。そうすれば1万円以上の小遣いゲットだぜ、です。

「ドンドンドン」。

ロケが夜中に終わって時間貸し駐車場に着くと、レンタカーの窓を叩かれます。どうやら覚醒剤の売人と私を勘違いしているようでした。

じっと車の中でやり過ごし、それでもなぜか自転車で追っかけてくる謎のおじさんをまいて、予約した1畳ほどの宿に転がり込み、熟睡しては翌日、なぜか体が痒くなったものです。

テレ東時代ですら、そんな節約っぷり(私利私欲のため)だったのに・・・。

 

「すごい気持ちいいです。こんな宿泊まったことないです。すごいです!」

零細企業の経営者となったいま、ロケ先の宿でADの向山くんは、露天風呂でメチャクチャテンション上がってます。

たしかに石造りで広い、最高の露天風呂でした。まあ、宿もめんどくさいから確認してなかったし、全力で風呂を楽しもうと思い、じっくり半身浴をしてやりました。

しかしこれが1つ目の、軽い「ロケの神様」でした。

 

「倒産する。絶対倒産する」。

風呂を上がった後、ひろゆきさん、若新雄純さんと軽く飲みながら雑談したのですが、零細企業のクセに、全員で高級温泉旅館に泊まっている状況を見て大爆笑。

わたしが代表を務める株式会社tonariの行く末をガチで心配しながら、会話が大いに盛り上がり、深夜2時過ぎまで会話が弾みました。

もちろんすべてをREC。2時間近い撮れ高がありました。

ロケの神様は、案外こうした「ミス」が起きた時に訪れます。

 

富山のひろゆきさん

翌日現れたロケの神様もそうでした。

2日目の早朝、富山は前日の1人3万円の衝撃など吹き飛ばすほど、清々しい快晴でした。なぜ早朝だったかというと、前日に突然追加でロケが入ったためです。

ReHacQ旅は、SNSを使ってロケ予定地を明かしながら、現地の人と交流を楽しむスタイルの旅番組です。

ギリギリになって連絡をくれた「ひろゆきさん」という方がいました。

少し紛らわしいのですが、出演者であるパリ在住の西村博之さんの方ではなく、「富山のひろゆき」と名乗る方でした。

「ご一緒はできないかもですが、住んでいる井波に来てほしい。いい街だから」と連絡をいただいのです。ギリギリだったので、難しいかもしれないと思いつつ、少し違和感を覚えてこうお聞きしました。

「スケジュールが埋まってしまい難しいかもしれませんが、2日の早朝だったら大丈夫です。もしやる場合は一緒に行きませんか?」。

しかし、話を聞いて初めのメールの意味を理解しました。

富山のひろゆきさんは、寝たきりだったのです。

 

そもそも時間もない中厳しいかもと思っていましたが、地ビールを渡したいということだったので、1日の夜、これから愕然とするはずの高級旅館へ向かう前に、富山のひろゆきさんの家に、ビールだけでも取りに行こうと思い、ご自宅へお邪魔しました。

その時、パリのひろゆきさんはタクシーの中で寝てしまっていたので、私が1人でご自宅に入りました。

「こんばんは、わざわざすみません」。

ちょうどお母さんが介護中でしたので、それが終わるのを少し待って、富山のひろゆきさんとお話しをしました。

聞けば今年で42歳になるが、17歳の時にプールに飛び込み、それで首より下が動かなくなってしまったこと、いまは地元を盛り上げるためにフェスなどを企画したりしてること、そんなこともあってReHacQ旅が、富山に来ることをSNS経由で知ってメールしたことを聞きました。

寝返りもままならない、富山のひろゆきさんの、それでも過疎化の進む地元・富山の井波を盛り上げようと挑むその強さに心打たれましたが、さらに因縁めいたものを感じたのは、そのフェスを始めた時の思いでした。

 

「今年は8月だが、フェスは毎年7月7日にやっていた。私がプールに飛び込み、体が動かなくなったのは17歳の7月7日だった。だが、友人に7月7日が誕生日の人がいた。毎年、その日が来るたびに暗い顔をするのが、嫌だった。だから7月7日を明るい記憶に塗り替えようと思って・・・」。

そこまで聞き、わたしはつられる形で泣いてしまいました。

わたしも7月7日が誕生日だったのです。そして同い年。

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