おとどちゃん連載・20「スイミー、暁を覚えず」

創業92周年! 高知県桂浜にある小さな水族館から大きな声で、いきものたちの毎日を発信中!

広報担当・マスコットキャラクターのおとどちゃんが綴る好評連載第20回は、出会いと別れの季節、春の思い出! 恐縮です! ラストには生まれたてほやほや、コツメカワウソ&リクガメのベイビー写真で和ませてくれます♡

以前のお話はこちらから。

 

 

 映画館が好きだ。劇場でしか味わえない雰囲気、大きなスクリーン、赤いシート、ほのかに漂うポップコーンの香り、面と向かって共有するわけではないくせに生まれる独特な一体感。ほぼ密室の空間で、約二時間、赤の他人同士が、「問題を起こしてくれるなよ」と水面下で牽制し合う。シリアスな場面で、野蛮にポップコーンを貪ったり、音を立ててジュースを啜ろうものならば、犯罪者と見なされても仕方がない。上映中は、紙コップの中で転がる氷の音すらも鮮やかな騒音となる。

 私は、映画の醍醐味はエンドロールだと思っている。エンドロールは、監督や脚本家をはじめ、俳優だけでなく、その作品に関わった人たちのオールスター感謝祭だ。全員が主役の、傍役のいない物語が流れる数分間。本編よりも前のめりになって見入ってしまうのは、いつか私も、ここで、本編を超える壮大な物語を描いてやろうとひそかに企んでいるからだ。

 そうして、一本の映画が終わり、劇場がぼんやりと明るくなる。誰かが席を立つまでの妙にそわそわとした歯痒さも、たまらなく好きだ。

 冬の寒さも随分と和らいで、ニュース番組で桜の開花予想日が報された。

 この春、桂浜水族館と私は、またひとつ年を重ねる。ここで起こるドラマを一本の映像作品にする時は、ジャンルを「超ロマンティック・ラブコメディ爆笑スペクタクル青春群像劇」としよう。

 思い返せば四年前、突如発生した新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい出し、桂浜水族館もその影響を受けて、休館を余儀なくされた。

 全盛期は、年間来館者数が二十万人を超えるほどの人気を誇っていたものの、重なった事故と事件は、地元民の信頼を失うには十分だった。そうして来館者が激減し、浜辺の小さな水族館は厳しい経営難に陥った。このままではいけないと、現館長が再起をかけて企業改革を始め、「マイナスをプラスに」というスタンスで攻めの姿勢を貫いた。何事も臆さずとにかくやってみる。そのがむしゃらな精神が次第に注目を集めだし、メディアへの露出をきっかけにファンが生まれた。話題にこと欠かず勢いがついた桂浜水族館は、令和元年、ついに年間来館者数十万人超えを記録した。

 未知のウイルスの魔の手が伸びたのは、「めざせ、十五万人!」と意気込んだ矢先の出来事だった。

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