あのとき感じた、「間違いなくこれから売れるオーラ」【大根仁 4月号 連載】

おおね・ひとし●ドラマ『エルピス―希望、あるいは災い―』、Netflix、Hulu、U-NEXT等にて全話配信中。監督・脚本を務める映画『しん次元!クレヨンしんちゃんTHE MOVIE』が、8月4日公開予定。

  

気づけば30年以上、映像制作の仕事をしているが、関わったすべての作品を覚えているわけではなく、記憶の彼方に消えてしまったものも沢山ある。特に深夜ドラマを撮り始める前の、ありとあらゆるジャンルのドブ板仕事をやっていた20代の仕事の記憶はほとんどない。

先日、某芸人との打ち合わせで渋谷のヨシモト∞ホールに行った時のことだ。その芸人が待つ地下フロアにある楽屋に向かう階段を降りている時に「あれ? ここ仕事で来たことがあるな……」とデジャブ的な感覚を覚えた。打ち合わせをしながら、思い出そうとしたが、さっぱりわからず、その後近所の喫茶店でタバコを吸っている時に、ある映像が頭に浮かんだ。それは若い男が2人で、小銭がパンパンに詰まったビニール袋を掲げて笑っている姿だった。

「あ、フォークダンスDE成子坂……」

1991年か1992年、記憶が曖昧だが、半分AD半分ディレクターだったオレは、これまた曖昧だが、どこかのCS局から「まだそれほどテレビに出ていない東京の若手芸人の大会」という、いかにも当時のCS局らしい番組の収録ディレクターの仕事を受けた。場所はヨシモト∞ホールの前身の渋谷BEAMホール、10組ほどの若手芸人がネタで競い、優勝者に100人のお客さんが払った入場料300円=計3万円をすべて総取りするというなんともざっくりした内容だった。

単なる請負仕事としてサクッと終わらせるつもりだったが、迎えた本番当日、ほとんど10代の女子中高生で埋まった満席のホールを観てちょっと驚いた。まだ本番前にもかかわらず、客席が妙な熱気を帯びていて、これから登場する芸人たちをキラキラした表情で待ち侘びているのだ。当時、テレビではダウンタウン、ウッチャンナンチャン、とんねるずが全盛で、若手芸人が活躍するテレビ番組は少なく、「とぶくすり」も「ボキャブラ天国」もまだ始まっていなかった。オレが知らないだけで、東京お笑いインディーズシーンのようなものがあるのか?

本番が始まり、最初に登場したのはフローレンスという男の二人組で、舞台に現れるや、客席から歓声が上がった。ネタはなんとも掴み所のないシュールな漫才だかコントだかわからないようなものだったが、二人とも妙にチャーミングで、ストリートファッションもセンスがあった。二人が後のネプチューン原田泰造と堀内健になることは、当たり前だがまったくわからなかったが、モニターに映る二人のネタに大笑いする女子中高生たちの顔を観ながら、何か新しいムーブメントが起きていることは直感した。

そして次々に登場した若手芸人たち……オアシズ、ジュンカッツ、松本ハウス、Uターン、MANZAI-C、フォークダンスDE成子坂(あと二組くらいいたような気がするが失念)を観て直感は確信に変わった。オアシズの光浦靖子と大久保佳代子はまだ女子大生だったが、とんでもなくネタの完成度が高かった。ジュンカッツはこれまた後のネプチューンになる名倉潤が組んでいたコンビ。松本ハウスはとにかくハウス加賀谷の見た目がヤバ過ぎて女子中高生たちも引いていたが、それでもウケていた。Uターンは土田晃之がピンになる前に組んでいたコンビで、当時は相方の対馬の方が華があった。MANZAI-Cはとにかく達者で若手とは思えぬ安定感があった。そしてフォークダンスDE成子坂は、もう圧倒的だった。ネタ、センス、テンポ感、見た目のオーラ、お笑い反射神経、どれもが既に完成されていた。何よりもボケの桶田とツッコミの村田がどちらも天才性に溢れていて、立ち並んだ姿がめちゃくちゃカッコ良かった。当然会場の笑いも彼らがダントツだった。

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