第40回 マンガから教わり間違えた者だけが到達できる場所とは?

さて、この連載コラムでも何度も言い続けていることですが、マンガ好きの人生の密度とは、「大切なことは全部マンガに教わった」ではなく、いかにその教えを解釈違いし続けるか。もうちょっと分かりやすく言うと「マンガに描かれている、マネするべきではない事をいかにマネするか」に直結しています。そして『バキ』シリーズといえば危険なマネ元の宝庫ですが、その中で最もマネしたくない要素で構成されているキャラクター、柴千春のスピンオフ『バキ外伝 花のチハル』が発売されました!

監修/板垣恵介 漫画/尾松知和 『バキ外伝 花のチハル(1)』(秋田書店)

 最終根性状態と書いて“ラストスパート”と読む、そういう極限の無茶だけが紡がれていく予感100パーセントの作品なので、作中で気になった根性行為の一つくらい(ほぼすべてが自分の弱部で相手の強部を受け止めて骨を意地で粉砕する行為)は試してみてください。自分もプロキックボクサー時代、最大トーナメント1回戦で千春が折られた腕を更に自分で破壊した上で勝利した回を読んで「折れてても勝てる」ということを知っていたので、1ラウド目に拳が折れてもそのまま殴り続けることができました。その結果、右手の薬指と小指が真っ直ぐに治らずにペンと箸がマトモに持てなくなったので、これは「マンガから何かを教わって大きなものを失った」悪い例と言えるでしょう。

 この巻には収録されていませんが、次巻以降の展開では、まさかの龍書文が登場し、「武術として完成されたハンドポケット VS ヤンキーのハンドポケット」の対決をしてくれるのではないかと予想します。作中に登場する花山の眼が武蔵に斬られたあとの状態なので、時系列的にも本家『刃牙らへん』(作/板垣恵介)と同時期の「地続き外伝」になっている可能性があり、ここが繋がる可能性にも大期待の一作。作画を担当する尾松知和先生の筆致は今作でもえげつない外連味に溢れており、シルエットだけでかっこいい独歩と猪狩は冗談抜きの100点満点。

 そして100点満点のスピンオフと言えば、『聖闘士星矢 海皇再起』も100点満点と言わざるを得ない。まさかの「ハーデス戦後にポセイドン & 海将軍大復活!」の本作品、作画を担当する須田綱艦先生の何のストレスもなく「車田作品!」として脳に入ってくる画風、初戦を飾るのがクリュサオルのクリシュナという「大人になった我々に向いてくれている」感、リュムナデスのカーサの「そう、お前はこういう温度で軽口叩く奴だよな!」のど真ん中、仲間同士での口の悪い雑談のちょうどいい加減に大歓喜。星矢のマネといえば小学生の頃、車田正美作品によく出てくる「笑止」というセリフを日常に取り込もうと必死に機会を探っていましたが、今に至るまで 一度もそんな機会に巡り合えていないので、いいトスを上げてくれる「我こそは屁理屈とハッタリの権化!」という方がいらっしゃいましたらご連絡ください。

原作/車田正美 漫画/須田綱鑑 『聖闘士星矢 海皇再起 RERISE OF POSEIDON(1)』(秋田書店)

 話は根性の話に戻りますが、『スーパースターを唄って。』主人公の雪人くんの肉体的痛みへの耐性は尋常ではないものがあり、その圧倒的耐久性と性根の優しさの間にたまった言葉が1巻ラストでついに着火。こんなかっこいい1巻の締め方は中々見られるものではないので必読といえるでしょう。

薄場圭 『スーパースターを唄って。(1)』(小学館)

 何かと何かの間にたまっていくものがスーパースターへの道に繋がらない「ザ・人間の澱」なのが『令和元年のえずくろしい』。みんな大好き「何の価値もないプライドが邪魔をして最悪の選択肢を選び続ける人間模様」は最高。

原案/上梨裕奨 漫画/大山海 『令和元年のえずくろしい』(リイド社)

剛力さん家はシュラバラバンババン』については、ジェントルメン中村先生がこれまでのキャリアで磨きに磨いてきた「第一話の最初の一コマで面白さを保証する技術」がまた見られます。何を言ってるのか分からないかもしれませんが、 氏の過去作『プロレスメン』と『ようこそ!アマゾネス☆ポケット編集部へ』を本棚から引っ張り出して連続で読んでください。そういうことです。

ジェントルメン中村 『剛力さん家はシュラバラバンババン』(竹書房)

  

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