日常を切り取ったようなシーンが、実は心に残っている『ロッキー』馬越嘉彦 第3回【連載 アニメ人、オレの映画3本】

大人気アニメーター、馬越嘉彦さんに選んでいただく3本。『チャイニーズ・オデッセイ』『ジョーズ』、そして今回は最後の3本目。どんな作品を選んでくれるのか!?

取材・文/渡辺麻紀

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<プロフィール>
馬越嘉彦(うまこし・よしひこ)●1968年7月30日生まれ。愛媛県出身。アニメーター、キャラクターデザイナー、作画監督。
おもなテレビシリーズの参加作品に、キャラクターデザインを手掛けた『ママレード・ボーイ』(1994~1995年)、『ご近所物語』(1995~1996年)、『花より男子』(1996~1997年)、『おジャ魔女どれみ』シリーズ(1999~2003年)〈すべてテレビ朝日系〉や、キャラクターデザイン、総作画監督を務めた『蟲師』(2005~2006年/フジテレビ系)、キャラクターデザイン、作画監督、原画を担当し、東京国際アニメフェア2011・第10回東京アニメアワード個人部門キャラクターデザイン賞を受賞した『ハートキャッチプリキュア!』(2010~2011年/テレビ朝日系)など。映画の参加作品には『魔女見習いをさがして』(2020年、キャラクターデザイン・総作画監督・原画)などがある。
現在、キャラクターデザインなどを務める『僕のヒーローアカデミア(第6期)』(2022年~/読売テレビ・日本テレビ系)が放送中。

 

あのポーズ、フィラデルフィアに行ったら同じ場所で絶対にやってみたい(笑)

――馬越さん、3本目の作品をお願いします!

馬越 3本目は、もしかしたら一番繰り返し観たかもしれない作品にしてみました。『ロッキー』(1976年)です。

――『ロッキー』のファンって本当に多いですよね。このコーナーでもよく名前があがる作品のひとつ。現在は、スピンオフとも言っていい『クリード』(『クリード チャンプを継ぐ男』〈2015年〉)がシリーズ化されているくらいだから、本当にみんな大好き。

馬越 サメ映画かゾンビ映画かロッキー映画かというくらい、ですか?(笑)。

――そうそう(笑)。

馬越 女子にはあまり受けないけど、男子は確かに大好き。間違いなく僕もそのひとりです。

――私は、随分あとになって観たんですが、ボクシングシーンが少ないのにびっくりしました。もっとスポーツ映画、アクション映画していると思っていたんですが、どちらかというと人間ドラマですよね。

馬越 そうです。僕の認識でも『ロッキー』はボクシング映画じゃない。最後のアポロとの試合に至るまでのほうが好きなくらい。ロッキーとエイドリアン、ぶきっちょなふたりが育んでいく愛もいいですが、ふたりを取り巻くフィラデルフィアの人たちが魅力的なんですよ。エイドリアンの兄さんや、ロッキーを借金の取り立て係として雇っている金貸しのおっさん。彼らがどんな人間かがちゃんと伝わってきて、ロッキーとの交流が面白い。街を歩くロッキーにみんなが声をかけたり、不良っぽいティーンの女の子をロッキーが諭したりする。僕は、そういうひとつひとつのエピソードが好きなんです。そういうのって『クリード』でもちゃんと再現されていて嬉しかったですね。

――同じ街が舞台になってますし。

馬越 ロッキーの元トレーナーのじいさん(バージェス・メレディス)が「お前はダメだ」と言って破門するんだけど、そのあとアポロと闘うと言うのでトレーナーを志願に行くじゃないですか。ロッキーは「オレを一度見捨てたくせに」とかいろいろ言って彼を追い出しつつ、そのあと追いかけて行く。ロッキーの家を出てからはずっとロングで撮っているので、ふたりの会話は聞こえないんだけど、何を喋っているかはちゃんと伝わってくる。僕はこのシーンが大好きなんです。この映画は、そういう日常を切り取ったようなシーンのほうが心に残っている。

――じゃあ、ロッキーがランニングのあとバンザイするシーンは?

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