電気グルーヴを撮り続けるということ【大根仁 9月号 連載】

2015年に公開されたドキュメンタリー映画『DENKI GROOVE THE MOVIE? 〜石野卓球とピエール瀧〜』(以下、DGTM)を作った時、オレは「もう2度とこんな作品を作ることは無い、いや作りたくない!」と思った。ブロス読者ならばご存知過ぎると思うが、電気の2人に関わるということが、いかに精神を疲弊させることか!! しかも当初考案したDGTMの構成は、【過去25年の活動を振り返るヒストリー的な要素と、現在の彼らを追うドキュメンタリー要素をシャッフルする】というものだったので、それはもう大変だった。300時間にも及ぶ過去の資料映像をすべて観て、同時に現在の二人の日常やバックステージも撮影し、しかもそれらのほとんどが悪ふざけと悪質なジョークという。「こんなもん、どうやって映画にしろっていうんだよ!!」編集作業は煮詰まり、スケジュールは大幅にオーバー、公開日は延期、それでもどうにか完成させることができたのは、2014年のフジロックフェスティバル(以下、FRF)の電気グルーヴのライブを観て、それを映画の軸にすることを思いついたからだ。

キャリアの長いバンドのドキュメンタリーを作る時、いちばん簡単なのは過去のピークやヒット曲を軸に据えることだ。具体例は避けるが、大概のバンドはデビューしてから数年でブレイク、その後メンバー同士のイザコザが起きたり、解散したり、再結成したりと紆余曲折&エモーショナルな物語があるものだが、電気グルーヴの場合はそれが無い。いやまあ、それらしいエピソードがあるにはあるが、それらのドキュメンタリーとして“おいしい”ドラマチックな部分が、すべてジョークと悪ふざけに包まれてしまうのだ。そして楽曲やライブは、過去よりも現在の方が断然クオリティが高く、常に進化し続けている。それを象徴していたのがFRF’14のステージだった。その年のFRFは、ヘッドライナークラスがすべて海外のバンドやミュージシャンだったのだが、電気グルーヴだけが唯一日本人アーティストとしてライブを行った。そしてどの海外バンドやミュージシャンよりも観客を沸かせた。しかも過去のヒット曲と最新曲が同じくらい、いや最新曲の方が盛り上がるのだ。こんなのは電気グルーヴしかありえない。

「過去も良いけど、今の電気がいちばんカッコ良い」映画のコンセプトやテーマを語るのは監督として恥ずべきことと思うが、DGTMはそれを伝えたかった。出来上がった映画は好評で劇場は連日満席、期間限定だった公開も延長、遠回しだったが卓球さんも瀧さんも映画を褒めてくれた。嬉しいことは嬉しかったが、それよりも肩の荷がやっと降りたという気持ちの方が大きかった。いや、戦場から傷だらけで生還した兵士のような……くらい言わせてくれよ!本当に大変だったんだから!!

それからは元の電気グルーヴファンに戻って楽曲を聴いたり、ライブに行ったり、たまに卓球さんのTwitterで弄られたりと、平穏な日々を過ごしていた。DGTMの企画を立ち上げた電気のマネージャーから冗談で「大根さん、パート2はいつ作りましょうか?」と言われても、真顔で「作るわけねえだろ! あんな大変なもん! 二度とやるか!」と言い返していたが、2019年の2月に例の事件が起きた。瀧さんが逮捕されたのだ。その時、瀧さんが出演していたNHK大河ドラマ『いだてん』に演出で参加していたオレは、逮捕の翌日に行われた局内会議にも参加していた。議題はもちろん瀧さんの降板・現場対応・スケジュール調整・代役などなどで、会議の空気は重く、皆深刻な表情を浮かべ、シビアな意見が飛び交っていたが、オレはまったく別のことを考えていた。「映画のパート2、作らなきゃ……」

瀧さんの逮捕を受けて、過去の音源の販売や配信は停止、レコード会社と事務所は瀧さんとの契約を解除することを通達し、卓球さんも自ら事務所を辞めた。ニュースやワイドショーは連日、瀧さんの事件を報じて、ネットも大騒ぎ、出演する予定だったFRF’19はキャンセル……でもこれはDGTMを作った時に、オレが欲していたドラマチックな展開ではないか。二人の関係性を考えれば電気グルーヴが解散するわけがない。いずれ復活する時、とんでもなくエモーショナルなことが起きるはずだし、その復活の場は、キャンセルせざるをえなかったFRFのステージに違いない。そこに至るまでのドキュメンタリーを撮り、復活のFRFライブをピークに構成すれば絶対に映画として成立するはずだ。2週間ほど経って、やや状況が落ち着いてきた頃、オレは卓球さんに電話をした。「ちょっと話したいことがあるんですけど」「いいよ、会おうよ」数日後、指定された店で会った卓球さんは、来るなり開口一番言った。

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