昨今、テレビやラジオ、雑誌などに形容される言葉に「オールドメディア」がある。主としてインターネットを媒介した情報媒体と相対する存在、という意味だ。
TV Bros.がこれまで「ラジオ特集コーナー」で長らく取材してきたラジオのパーソナリティや関係者に「オールドメディア」と自嘲する人は1人もおらず、むしろ、ラジオだからこそできることを常に追求するプロフェッショナルばかりだった。
広島のローカル長寿ワイド番組『ごぜん様さま』(広島・RCCラジオ)で22年以上出演する横山雄二アナウンサーは「愛をもって携わる者こそ、この言葉に噛みつくべき」と話す。
ラジオの魅力とは何か、ラジオの将来はどうなるのかを、横山アナの話から「ラジオ」を見つめ直し、TV Bros.のラジオ特集の総決算としてお届けする。
取材・文/やきそばかおる 撮影/ツダヒロキ

<プロフィール>
横山雄二(よこやま・ゆうじ)●1967年宮崎県生まれ。1989年、RCC中国放送入社。自ら企画立案した番組『KEN-JIN』を1997年よりスタートさせる。同番組は横山と猿岩石(当時)を中心としたバラエティー番組で、アンガールズが地上波初登場するなど、地元では伝説的番組に。さらに番組内で猿岩石と音楽グループ「KEN-JIN BAND」を結成し、吉川晃司プロデュースで音楽デビュー。監督として映画『愚か者のブルース』などを手掛け、小説『ふるさとは本日も晴天なり』(ハルキ文庫)などを上梓するなど、局アナウンサーとしての域を超えた活躍を続けている。爆笑問題・太田光が年始の生放送番組で時折叫ぶ「横山!」はこの人物を指す。
ラジオは心をむき出しにして喋る場
――まずは横山さんとラジオとの出会いを教えてください。
僕は姉の影響で深夜ラジオを聴き始めました。なかでも『ビートたけしのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)の「こんな学校は嫌だ」というコーナーに「宮崎の横山」として、2通出して2通とも読まれました。その時のネタは番組本『ビートたけしの三国一の幸せ者』(扶桑社)にも掲載されています。だから、昔っからラジオっ子でハガキ職人の端くれみたいな中学生でした。
――すごいですね!
そのほかハマったのは『松山千春のオールナイトニッポン』。方言が混ざった独特の喋り方で、話す内容も格好よくて心を掴まれました。『笑福亭鶴光のオールナイトニッポン』(ともにニッポン放送)も聴いていました。特にこの3人のラジオの影響を受けています。
—―当時、ラジオは横山さんにとってどんな存在でしたか?
中学の頃はラジオを聴いていなかったら、学校で話題についていけないほどでした。ラジオを聴いていないと時代遅れという認識。あの頃、ラジオは黄金期だと思っていたけど、今になって考えると先細りは始まっていたのかもしれません。
――時を経て、ラジオの現状をどう見ていらっしゃいますか?
今は線香花火のような状態です。少しずつでもいいから、火の勢いを強くしないといけません。状況が良くなれば、線香花火のほかにもいろいろな花火を打ち上げられると思うんです。逆にいえば、今、大きな花火を上げると目立てるので。
――確かに、面白い番組は話題になりやすいですね。
今は人気が出て有名になっていく番組と、埋もれていく番組の二極化になっています。番組が聴かれないとその前後の番組にも影響が出てきます。多少は時間がかかっても、聴かれる番組にしていかないといけません。なかにはヒット番組にする気がなく「コーナーで埋めればそれでいい」と思っている人もいるんじゃないでしょうか。それではスクープする気がない記者が特ダネを掴めないのと一緒です。
――今のラジオに足りないものは何だと思いますか?
いろいろありますが、そのうちのひとつは「ラジオだから聴ける」という特別感。テレビが“よそ行き”で出る場だとしたら、ラジオは心をむき出しにして喋る場という特別感です。先日、アンジェリーナ1/3の番組『夢は口に出せば叶う!! 』(TBSラジオ)のイベントを配信で観たら、ゲストのパンサーの向井(慧)さんが、好きな女性のマンションに行った時のエピソードを話していて、その内容がとても面白かったです。テレビではそんなことを喋る印象がなかったから「ラジオのイベントだと、ここまで喋るんだ!」と驚きました。ただ、今は個人のYouTubeチャンネルで喋っている人も多くて「ラジオよりも自分の動画のほうが喋りやすい」と思っている人も多い気がします。
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大いなるマンネリのなかに新しい水を汲み続けることが必要

――そんな中、『ごぜん様さま』は番組の影響力が大きくて、特に横山さんが興味のある人や作品について喋ることで、リスナーの皆さんも興味を持つ流れができていますよね。
そのために大事なのはパーソナリティが熱を持って語ること。たとえば、YMOや佐野元春が出てきて衝撃を受けたのが40年以上前ですが、時代は変わってもパーソナリティが熱を持って魅力を語れば、現代でも当時のことを知らない人を惹きつけることができます。心の倉庫に収納してある思い出を皆さんと共有することで、みんなで楽しめるんです。情報を伝えただけでは興味を持ってもらえないんです。パッションを伝えることが重要です。
――横山さんのエピソードは笑ったり感心したりすることが多いですが、ラジオで話す時の心得はありますか?
エピソードを話す時は「こういうふうに話せば絶対に面白くなる」という自分なりのセオリーはあります。こんな言い方をするのはおこがましいけど、ホームランを打った瞬間の大谷翔平の“確信歩き”のような確信はあります。あとは聴いている人が「へぇ〜」と思うような話を入れることですね。
――横山さんはメールを紹介する時に、話の内容を膨らませる場合と、逆にダメ出しをすることがありますよね。いつも「このメールに対して、横山さんはどんなリアクションをするんだろう」と想像しながら聴いています。聴いている側としては、その緊張感がいいと思うんです。
同じ内容のエピソードでも書き方で印象が変わってくるから、例えば「バラをプレゼントしました」と書くのと「大量のバラをプレゼントしました」では印象が違います。後者なら「『俺はこんなに買ったんだ』という、ただの自慢話になってる!」「そもそも“大量”って何本買ったんだよ!」とイジれます(笑)。メールを送った本人とパーソナリティの感想だけで話が完結してしまうと、聴いているだけの人は興味を持てないんです。リスナーのメールとのやりとりはある意味でプロレスだから、メールを送った人以外の大勢のリスナーを意識して喋っています。
――では、楽しい企画とは、どんな企画だと思いますか?
安定感のなかに不安定感がある企画。例えば「子ども電話相談」のような企画は、昔から型は決まっているけど、子どもの疑問に対して「そんなことを思うのか!」という発見があります。『ごぜん様さま』でいえば「僕の作文・私の作文」に少し面白い小学生が出てくると、心が踊る瞬間があります。大いなるマンネリのなかに新しい水を汲み続けることが必要で、それを怠っているとリスナーに「ほかと同じような番組だな」と思われてしまうのではないでしょうか。
――確かにそうですね。
あとは、大掛かりな企画ではなくても楽しめるのもラジオの醍醐味です。『ごぜん様さま』では毎週水曜日に中根(夕希)とじゃんけんをする「ユッキー・ラッキーじゃんけんタイム」という企画があります。5555回記念の放送ではRCCの玄関に遊びにきたリスナーと、5時間ひたすらじゃんけんをする企画をしました。すると、平日にもかかわらず大勢の人が遊びに来て、313人とじゃんけんをしたんです。じゃんけんをするだけなのに盛り上がれるなんて、ウチの番組もリスナーも変わってるでしょ(笑)?

ラジオやテレビは「オールドメディア」と言われているけど「職業差別じゃないの?」
――横山さんが思う、理想のスタッフはどんな人ですか?
やっぱり、番組に対して愛がある人。自分の番組を愛していれば、仕事ができない新人でも絶対に伸びます。いつも番組のことを考えていて、ふとアイデアを出してくれたり、パーソナリティが喜びそうな情報を教えてくれたり。なかには既に知っていることもあるけど、日頃から考えてくれていることが嬉しいんです。先日、『サンドウィッチマンのザ・ラジオショー』(ニッポン放送)で、僕が120回以上開催している「東日本大震災復興支援チャリティライブ『ヨコヤマ☆ナイト』」を通じて宮城県の雄勝の皆さんと長い間交流を続けていることをサンドウィッチマンのおふたりが話してくれて、ディレクターの馬越がradikoのリンクを僕に送ってくれたんだけど、僕が該当箇所をすぐに聴けるように頭出しして送ってくれたんです。こういうところに愛を感じます。
――『ごぜん様さま』の皆さんは番組を面白くすることに余念がないですよね。
そうなんです。ワイド番組を、時間を埋める感覚でやらないこと。お弁当に例えると、きちんと売れるおかずを入れることを考えること。なんとなく安上がりなおかずを入れると特徴のないお弁当になってしまいます。でも、なんとなく埋めちゃっている番組が多い気がします。
――今年は日本でラジオの放送が始まって100年です。ラジオに携わっていて思うことを教えてください。
このところ、ラジオやテレビは「オールドメディア」と言われているけど「職業差別じゃないの?」と思うところがあります。それは「ここの青果店は古い野菜を売ってる」と言われているようなもの。クラシック音楽のように、良い意味での「オールド」というのならまだ分かるけど、大抵はマイナスのイメージで使われていますよね。メディア側の人間のなかにも「オールドメディア」と言っている人がいるけど、受け入れるんじゃなくて、噛みつかないといけないんじゃないでしょうか。そうした呼称があるとしても、そんな中でも、愛をもって番組に携わって、熱をもってリスナーに思いを届けること、それがラジオに関わる者が持つべき矜持であり、ラジオの将来を左右するポイントだと思います。

<お知らせ>
横山アナが出演する『ごぜん様さま』の有観客イベントのリポートや泉水はる佳・河村綾奈両OGの対談、横山アナのラジオ論を特集として掲載した「TV Bros.2024年12月号龍が如く特集号」が発売中。広島では完売店も多発。ぜひご覧ください。



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