1999年1月4日、新日本プロレスの東京ドーム大会で行われた「橋本真也VS小川直也」戦は、プロレス史に残る“事件”となった。小川の常軌を逸した攻撃に、なすすべもない橋本が終始防戦。結果、収拾がつかないまま没収試合となったが、セコンド陣の乱入や不穏な試合展開に、会場は騒然。小川の猛攻や橋本の無残な姿、当時の現場監督・長州力の激高、大仁田厚の同大会参戦、黒幕とされたアントニオ猪木の存在……さまざまな事象が複雑に絡み合って起きたであろうこの事件は、関係者の間接的な証言はあっても当事者の証言がないため、22年経った今も「1.4事変」として、ファンの間で長らく解明が望まれていた。
そんな中、当事者である小川がテレビ番組『こやぶるSPORTS超』(カンテレ)に出演して、突如この事件に関して初めての証言を行い、界隈に激震が走った。
暴走王・小川直也が初激白!「1.4事変」の真実&「人生を変えた銀メダル」と悲願の金メダルを託した子供たちへの熱き想いとは―(【こやぶるSPORTS超】チャンネル カンテレ公式)
このたび、緊急コラム企画として、22年にわたってこの事件の解明に努めたプロレス識者3名に、自身にとっての「1.4事変」とは何だったか、今回の証言に際しての思いを綴ってもらった。
最後となる3日目は、作曲にもプロレスの影響を受けているという掟ポルシェ。「普通ではないプロレス」を偏愛する掟が、貴重な生観戦の思い出とともに、事変を振り返った。
<プロフィール>
掟ポルシェ(おきて・ぽるしぇ)●1968年北海道生。1997年、男気啓蒙ニューウェイヴバンド『ロマンポルシェ。』のVo.&説教担当としてデビュー、これまで『盗んだバイクで天城越え』他、8枚のCDをリリース。音楽活動の他に男の曲がった価値観を力業で文章化したコラムも多数執筆。著書に『男の!ヤバすぎバイト列伝』『豪傑っぽいの好き』『出し逃げ』『説教番長 どなりつけハンター』『男道コーチ屋稼業』等がある。その他、俳優、声優、DJ、アイドルイベント司会等、活動は多岐に渡る。
「プロレスが壊れた瞬間のプロレス」にしか興味がなかった自分が見た1.4事変
文/掟ポルシェ
ロマンポルシェ。『暴力大将』のイントロが小川直也のデビュー戦の入場BGMと同じくシンセサイザーで作った風の音である程度にはプロレスに夢中だったあの頃。もちろん俺が言う「プロレス」とは全日本の四天王プロレスみたいな純粋なものではまったくなく、ポイズン澤田が衣装ケースに入ってるマムシ(に見える毒のないヘビ)に自分の体を無理やり噛ませて「死にたくねえよぉ!」とマイクアピールしながら救急車呼んで運ばれて行くやつとか、関綾子がデモンストレーションとしてバスを引っ張ってデビュー戦で秒殺勝利の後「お前なんかとやるから腹が減っちゃったじゃねえかよ!」と言いながらオリジン弁当をガツガツ食うところを見せたりとか、駅からすげえ遠い屋台村に高野拳磁VS宇宙パワーの試合を観に行ったら「今日は中止なんですよ。高野さんが会場使用料長いこと滞納してたらここの鍵開けてもらえなくて」と何故か屋台村の前に座っていた杉作J太郎先生に言われて試合も観てないのに(すげえ! このデタラメさこそ高野拳磁だ!)と感動してニヤニヤしながら帰路についたりとか、そういうちゃんとしていないもののことである。ちなみにマイフェイバリットプロレスラーは中牧昭二。あんな油掛地蔵みたいな見た目のエースは後にも先にも中牧だけだろう。
「プロレスというにはあまりにも杜撰すぎる酷いもの」、「普通のプロレスじゃない方のプロレス」、「プロレスが壊れた瞬間のプロレス」にしか興味がなかった。お前はプロレスファンかと問われれば胸を張って「違う」と答え、カウント2.99の攻防には目もくれず、新横浜駅と横浜アリーナを結ぶ長い歩道橋の真ん中で売られているシュートマッチの海賊版ビデオを仲間と共同購入してそれだけ繰り返し見ていた。何事も本筋には一切興味がなく、本筋から外れて周辺に溢れ出たものだけを偏愛するのは、対象が何であれ自分の中で一貫している。
そんな中での99.1.4。この頃プロレスは何人かの仲間と一緒に観ていた。その中にプロレスが壊れる瞬間に事前に気付く能力のあるすごいやつがいて、「今回、なんかヤバいことありそうな気がすんだよな」と言うんで、すぐさま闘魂ショップのバイトの友人に頼んでいい席をキープしてもらった(その友人は「チケット買うのに●●さんの奥さんから××新聞3ヶ月取ることを約束させられんだよね」と言われていたそう)。UFOを旗揚げから観ている(またしてもその友人が佐山のタニマチの浄水器販売会社の社員が会社命令で家族全員分のチケットを持たされているという情報をキャッチ。その場で交渉して「誰か観に行かなきゃいけないんですよね? だったら僕たちそれ引き取りますよ」と言って無事1枚千円で購入して)我々は、もう遠足気分で観に行った。そしたら、思ってた以上にとんでもないことになっていた。
99.1.4の小川×橋本戦が凄惨なものになった背景は、かかわった方々の証言も出揃い色々わかって来ている。「大仁田参戦で話題をかっさらわれることを異常なまでに嫌った猪木が、小川に興奮剤を打たせた上でシュートで橋本を襲わせて、大仁田参戦を遥かに上回るインパクトで潰そうとした」とか、はたまた「プロレスをぶっ壊す試合を新日のリングで見せて、そんな蛮行をやってしまえる小川直也がエースの団体UFOに集客するためだった」とか(1.4で観た小川の狂犬ぶりに興奮してUFO観に行ったら、試合が盛り上がりそうになる度にレフリーのドリーファンクJrが「ピッ!」と笛を吹いてガッツリ流れを止めてしまい、試合よりドリーの笛が面白くなってしまう異常なものを見せられる等。あれは猛烈にズッコケた)、諸説あるものの、どれが真実かはわかっていない。だがあの日、真実などどうでもいいほどの興奮を味わえたことだけは確かだ。
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