気弱な税務署員と天才詐欺師が手を組んで、巨額脱税王を嵌めようとチームを結成。かくして壮大な“税金徴収ミッション”が始まった! 騙し、騙され、最後は誰が笑うのか――!? この痛快なクライム・エンターテインメント映画『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』を手掛けたのは、『カメラを止めるな!』の上田慎一郎。原作となった韓国ドラマ『元カレは天才詐欺師~38師機動隊~』から、いかに独自色を効かせてオリジナルに負けない作品へと飛翔させたのか。さらに、豪華キャストがズラリと揃った群像劇でもある本作の現場で、どう奮闘したのか。その笑いと汗と涙(!?)の舞台裏を聞いた。
取材・文/折田千鶴子 撮影/田子芙蓉
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(主人公の)熊沢は、小市民が『オーシャンズ11』の世界に迷い込んだという感じにしたかった
――オリジナル脚本にこだわってきた印象があるので、韓国ドラマ『元カレは天才詐欺師~38師機動隊~』のリメイクと聞いて驚きました。
上田 実は本作のお話をいただいたのが6、7年前、『カメラを止めるな!』の公開前でした。試写で『カメ止め』を観たプロデューサーが、全16話のドラマを2時間の映画にしたい、と。とりあえず観たら、メチャクチャ面白くて(笑)。元々ケイパーもの(強盗・強奪などの犯罪映画)が好きだったので、いつか作ってみたいと思っていたのもあり、オリジナル脚本ではない実写映画に一度はトライしてみようと思って臨みました。
――またも「してやられた!」感たっぷりの痛快さでした。上田監督らしい〝独自の騙しテク〟や味わいをどれくらい盛り込まれたのでしょう?
上田 ドラマは6話ごとに一人の権力者を倒す作りで、本作は最初の6話分をベースにしています。公務員と詐欺師が手を組む設定は同じですが、ドラマファンも未見の方も楽しんでもらえる作品を目指して、最後のトリック的な展開も含めて、かなりオリジナリティをきかせたつもりです。もちろん原作サイドには、プロット段階から〝これぐらい変えます〟と確認しながら進めましたよ。
――資料によると、『スローな武士にしてくれ』(NHK BSプレミアム)を観て、主人公の熊沢役に内野聖陽さんを熱望されたとか。
上田 内野さんは、強い男を演じることが多いイメージですが、『スローな~』ではカッコいい面とカッコ悪い面の両極を素晴らしく演じてらっしゃったんです。その両方を上手く演じてくださる方にお願いしたかったのが一番の理由です。
――脚本が完成してからオファーされたのですか?
上田 共同脚本家の岩下(悠子)さんが書いてくださったベースを僕が引き継いだときに、オファーしました。初めてお会いした時、内野さんから〝撮影前からガッツリ肩を組んでやれるのなら、やりたい〟と言ってくださって。僕はずっと俳優とワークショップ発で作品を作ってきて、今回のような規模の作品で、そんな自分のスタイルを叶えられるのかと不安に思っていたのですが、思いがけず内野さんからおっしゃってくださって。
――それで撮影前からガッツリと?
上田 そこから2人で何度もホン打ち(脚本の打ち合わせ)を重ね、何稿も書き直していきました。内野さんを脚本家としてクレジットしてもいいのでは、というくらいです。脚本家と主演俳優がそんなに打ち合わせするなんて、ないですから(笑)。でも打ち合わせのたびに内野さんが、たっぷりポストイットが貼られた脚本を持ってきて、〝じゃあ、頭から行こう〟と、顔をつき合わせて一語一句確認していく。6回以上はホン打ちをやりましたね。
――引き継いだ脚本から、どんな風に変わっていきましたか?
上田 6稿目以降から14稿まで、あらゆることが変わりました。というのも物語を作り始めたのはコロナ禍前で、オリンピックが日本で開催され、インバウンド需要が増えて日本にカジノが出来て、という世界観で書いていたんです。ところがコロナ禍を機に世界が大きく変わったので、取り巻く環境や世界観を大幅に書き直しました。また、内野さんから〝熊沢という名前は、原作ドラマの主演俳優マ・ドンソクのイメージからきているのか、引っ張られていないか〟と言われ、一度、名前を〝小島〟に変えて書き直したんです。そうしたら自分でも初めての経験でしたが、今まで見えてこなかった要素がキャラクターに足されて、〝名前を変えるだけで、こんなに変わるのか!!〟と驚きました。それを読んだ内野さんから、〝いいじゃないか。じゃあ、名前を熊沢に戻そう〟と。
――天才詐欺師・氷室役の岡田将生さんについても教えてください。
上田 日本で氷室を演じられるのは岡田さんしかいないと、本当に満場一致でした。岡田さんって、善人にも悪人にも見えるというか、不思議なバランスや存在感なんです。掴みどころがなく、本当に信頼していいのか分からない何かが漂っている。且つ、飄々としたチャーミングな演技もできる。ただ、普通に撮ったらカッコ良すぎちゃうので、カッコ良くなり過ぎないように気を付けました。氷室が熊沢にペースを崩されたり、ちょっとアタフタしたりする、そういうチャーミングな面を押さえたいな、と。気を付けたのはそこだけで、言うことがないくらい岡田さんは最初からハマっていました。
――多数の人物が登場して二転三転、話が転がっていく群像劇は監督の十八番でもありますが、今回はオールスターキャストとも呼べる豪華キャストです。それも初挑戦と言えるのでは?
上田 本当に大変でした(笑)! みなさん誠実で妥協のない作り方をされる方々なので、現場でたくさん意見を出してくださる。それがまた、百戦錬磨の猛者の方々なのでクオリティが高い! でも時間が限られているので、瞬時に取捨選択しなければならず本当に大変でした。また悔しさを感じたりして……。なぜ監督として自分が面白いアイディアを思いつけなかったのか、と。
――そういう意味でも新境地ですね。
上田 というよりは、やって来たことのスケールアップ版かな。人物が多数登場するシーンは、撮影の難易度もぐっと上がるんです。誰かが話している間、他の人はどうしているかも含め、いろんな意見が出てくる。何か一つを変えると、連鎖して細かな設定や動きが変わり続けてしまうので、本当にタフな現場でした。
――演技の方向性としては、リアルよりは少しケレン味を効かせ気味でしたか?
上田 もちろんエンターテインメント映画を観る醍醐味を出すために、ケレン味も欲しい。でも同時に実存感も欲しい。だから、〝ちょっとやり過ぎかもしれないです。もう少し抑えましょう〟という微調整は現場で結構しました。特に熊沢は、小市民が『オーシャンズ11』の世界に迷い込んでしまった、という感じにしたかったので、しっかり実存感が欲しかった。それ以外は、ケレン味の出力を上げてもいいと思っていましたね。
――〝そんな風に撮ったの?〟という面白エピソードがあれば、教えてください。
上田 ビリヤードのシーンでは、内野さんに本当に相当な練習をしてもらいました。入った風に撮るのではなく、本当にボールを入れないといけない、と思っていたので。とあるスーパーショットがあるのですが、内野さんが役を演じるために必死で練習したのと、熊沢として橘(小澤征悦)を騙すために練習をした、その2つを重ねたかったんです。〝嘘だったものが本当になる〟ということを、劇中でも劇外でも叶えたかった。だからあのシーンは、カットを割らずに撮影しました。
――かなりのプレッシャーですね(笑)。
上田 最初に熊沢のショットが見事に決まって仲間たちが喜ぶカットを撮ったのですが、その時は内野さんが見事にバンバン入れていたんです。ところが、いざ熊沢が打つショットを撮り始めたら、いきなり全然入らない(笑)。プロデューサーからもカットを割ったほうがいいと言われましたが、粘り続けたら、時間ギリギリで見事に入ったんです! CGでもなく本物です。熊沢のあのガッツポーズは、本物の喜びが込められたガッツポーズです(笑)。
――非常にスピード感が良くてノセられました。編集も相当に力を入れましたか?
上田 僕史上、初めてのことですが、実は最初に編集したものは110分前後だったんですが、最終的に120分まで逆に(カットを)足したんです。最初に色々と削り過ぎて、ちょっと軽くなり過ぎてしまい、削った部分を戻していった感じです。ずっとテンポが速いままだと、見ていてボーッとしてくるんですよね。緩急の〝緩〟が足らないと、機微も削がれてしまう。だから〝緩〟を戻して。尺を伸ばすことによって、逆にテンポよく見せられるんだ、というのは今回の発見でしたね。
上田慎一郎(監督)
うえだ・しんいちろう●1984年、4月7日生まれ、滋賀県出身。2009年に映画製作団体を結成。2018年に初の劇場用長編『カメラを止めるな!』が2館から350館へ上映拡大する異例の大ヒットを記録。近作にアニメーション映画『100日間生きたワニ』、『DIVOC-12』(ともに21)、『ポプラン』(22)など。2023年「#TikTokShortFilmコンペティション」にて、短編『レンタル部下』がグランプリを受賞した。
『アングリースクワッド 公務員と7人の詐欺師』
●税務署に勤める真面目な公務員・熊沢二郎は、天才詐欺師・氷室マコトの詐欺に引っかかり大金を騙し取られる。刑事である親友の助けで氷室を突き止めた熊沢だったが、氷室から「おじさんが追っている権力者を詐欺にかけ、脱税した10億円を徴収してあげる。だから見逃して」と持ち掛けられ、犯罪の片棒を担ぐことに戸惑いながらも“ある復讐”のため、氷室と組むことを決意。クセ者ぞろいのメンバーによる詐欺師集団「アングリースクワッド」を結成し、壮大な税金徴収ミッションに挑む。
監督/上田慎一郎 脚本/上田慎一郎 岩下悠子 出演/内野聖陽 岡田将生 川栄李奈 森川葵 後藤剛範 上川周作 鈴木聖奈 真矢ミキ 皆川猿時 神野三鈴 吹越満 小澤征悦 ほか
(120分/2024年日本)
11月22日㊎新宿ピカデリーほか全国公開
配給:NAKACHIKA PICTURES JR西日本コミュニケーションズ
©2024アングリースクワッド製作委員会
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