沖田修一監督『さかなのこ』インタビュー 多くの俳優が絶賛する沖田組「撮影現場の雰囲気づくり」で意識していること

「ギョギョギョー!」のフレーズで知られるお魚博士・さかなクンの半生を、のん主演で映画化した『さかなのこ』が現在公開中。今作のメガホンをとった沖田修一監督にインタビューした。

取材・文/編集部
撮影/倉持アユミ

今作は、さかなクンの半生を描いた自叙伝『さかなクンの一魚一会 〜まいにち夢中な人生!〜』(講談社)を原作とし、のん演じるミー坊が、さかなクンに成長するまでの過程を描く。今作の脚本を沖田とともに務めたのは、前田司郎。沖田と前田のタッグは、名作『横道世之介』以来となる。

                    

多くの俳優や制作スタッフが絶賛する沖田組の撮影現場。近年、映画業界内でのハラスメント問題の改善が求められる中で、俳優がのびのびと演じられる現場を作るために沖田監督が考えていることとは。インタビューでは、今作の裏話やさかなクンへのリスペクトのほか、撮影現場の雰囲気作り、好きな映画として挙げている『家族ゲーム』の影響について語ってくれた。

【Profile】
沖田修一(おきたしゅういち)
●1977年、埼玉県生まれ。2001年、日本大学芸術学部映画学科卒業。数本の短編映画の自主制作を経て、2002年、短編『鍋と友達』が第7回水戸短編映像祭にてグランプリを受賞。2006年、初の長編となる『このすばらしきせかい』を発表。2009年、『南極料理人』が全国で劇場公開されヒット、国内外で高い評価を受ける。2012年公開の『キツツキと雨』が第24回東京国際映画祭にて審査員特別賞を受賞し、第8回ドバイ国際映画祭で日本映画初の3冠受賞を達成。2013年『横道世之介』で56回ブルーリボン賞最優秀作品賞などを受賞。近作の作品に映画『滝を見にいく』(14)、『モヒカン故郷に帰る』(16)、『モリのいる場所』(18)、『おらおらでひとりいぐも』(20)、『子供はわかってあげない』(21)、『おーい!どんちゃん』(22)などがある。

 

 さかなクンのシンプルな生き方は「そうだよな、それでいいんだよな」と思わせる


──今作を鑑賞して、沖田監督のさかなクンへのリスペクトを感じました。

沖田:お会いする前からさかなクンをメディアで見ていて、興味があったんですよね。「この人、どんな人なんだろう…。本当にお魚が好きなだけなのかな?」みたいな。

──確かに見慣れないうちはテレビタレントとしてのキャラクターを演じているかのように思う方もいるかもしれませんが、さかなクンは間違いなく「素」の感じがしますよね。

沖田:そうなんですよ。僕が最初にお会いした時も、テレビで見るような「THE・さかなクン」のままで。普通にお待ちしていたんですけど、いつもの白衣を着ていて「ギョギョー!」って言って現れて(笑)。「普段から全然変わらないんだ!」と驚きました。

さかなクンを見ていると、自分が好きなものに囲まれて好きなことを仕事にしている、という憧れがあって。それと同時に、ただ羨ましいというだけではなく、それなりに大変なこともきっとあるんだろうな、とか色んなことを感じるんですよ。

──しかし沖田さんの経歴を見ると、さかなクンの好きなものに突き詰めていく生き様と似ていると感じていて。高校時代に映画監督になりたいと思ったものの「手に職をつけなければ」という想いで日本大学芸術学部の撮影コースに入学後、やはり監督をやりたくなって自主映画を作り出して、結果として今では注目を集める映画監督になっている…。ご自身では、さかなクンにシンパシーを感じましたか?

沖田:感じていたような気もします。その一方で、僕の映画に向ける情熱が、さかなクンのお魚に向ける情熱と同じくらいあったかと聞かれたら、さかなクンを見ている限り、そんな自信はないですね(笑)。でも、さかなクンみたいな真っ直ぐ自分の好きなものに突き進んでいく生き方を見ていると「分かる」と思えるようなことがあって。さかなクンのシンプルな生き方を見ていると「そうだよな、それでいいんだよな」と思えるんですよね。

 多くの俳優たちが絶賛する
沖田組の撮影現場


のんさんが沖田監督について「役者がのびのびと演技ができる空気を作ってくださる方で、私も監督のときにはこんな風に映画作りをしたいなあと思いました」とお話しされていて。映画業界のハラスメント問題について議論が進む中で、沖田監督は撮影現場の雰囲気づくりについて、どんなことを意識されているんですか?

沖田:僕にとっての「映画作り」は、高校生ぐらいの時の友達何人かで集まって、ビデオカメラで遊んでいたのがいわゆる出発点でした。結局、僕は「ビデオ遊び」からこの業界に入っているから、今でもその続きでやり続けているような気持ちがあって。悪く言えば、今までそれでやってきちゃった部分もあるっていうか(笑)。

(C)2022「さかなのこ」製作委員会

「遊びの延長」が仕事になっているような?

沖田:そうですね。でも映画作りはお金も絡んでいるし大人もたくさん関わるから、それが「仕事」になっているわけで。僕はその大人の一員であるかのようなフリをして「頑張ります!」という感じでやっているけど、根っこのところでは「大人が集まって嘘の話を作ってるだけだから、そんな大したもんじゃないから」みたいに思っているところがあって。

だから仲間が集まって作り話を作っているのにピリピリすることはない、というか。そんな現場は嫌だな、という気持ちがあります。僕のそんな考えが現場作りに自然とつながっているんじゃないかな、と思います。まあ、そういう気持ちで映画作りをしているっていうのは、良くも悪くもというかね(笑)。

──のんさんに限らず、多くの俳優の方々が沖田組での撮影現場の雰囲気の良さについてお話しされているのを聞くので、間違いなく良いことだと思います。

沖田:でも、ずっとふざけてやっているような感じがあるから、たまに周りの大人の目が気になるときもあるんですよね(笑)。後ろにいる大人たちがいる方の様子が気になって、チラチラと振り返っているみたいな(笑)。

──あえてピリッとした感じも出した方がいいのかな、とか思ったり(笑)?

沖田:そうそう(笑)。でも、これからも僕のスタンスは基本的には変わらないんじゃないかなと思いますね。        

 森田芳光監督
『家族ゲーム』の影響


──沖田監督は好きな映画の一つとして『家族ゲーム』を度々挙げられていますね。引きで撮影された食卓のラストシーンが有名ですが、沖田作品も『南極料理人』のトイレのシーンや『キツツキと雨』の温泉のシーンなど、引きで撮られた画面内でのそれぞれのキャラクターの動きがコミカルで目が離せません。監督として映画を作る中で『家族ゲーム』の影響は大きいですか?

沖田:そうですね。「これは笑っていいのだろうか?」と感じるような、あんなシーンが撮れたらいいな、と今でも思うんですよね。遠くの方で何か起きていたりするような画づくりに惹かれるところがあります。そういうシーンを撮る意図としては、半分は遊び心で、もう半分はシニカルな目線がきっとあると思うんですよね。でも作る方はニヤニヤしながら作っていると思うんですけど(笑)。

僕は少しでもあのシーンに近づきたいなと思っていて。特に『家族ゲーム』のあのラストシーンなんか「どうやって撮っているんだろう? 現場はどんな感じだったんだろう?」と思って、今でもたまに見返すと「俺、こういうのがやりたかったんだよな」と思うんですよね。やはり森田監督に憧れはあります。

──今作でもミー坊のお父さん(演:三宅 弘城)がタコをとんでもない方法でしめるシーンやミー坊とヤンキーたちとのやりとりのシーンなど引きで撮影された場面でのキャラクターたちの動きや表情が本当に面白くて(笑)。画面の小さいところでも動きが面白いから色んなところを見てしまうんですよね。

沖田:やっぱりそういうのって、いいんですよね。エミール・クストリッツァの映画『黒猫 白猫』で、男が肥溜めに落ちるんですけど、その後にその辺にいる白鳥で汚れた身体を拭くシーンがあって。それが画面の超遠くの方でやっているんですよね(笑)。すごく笑っちゃいました。

──そんな衝撃的な映像なのに引きだから画面ではすごく小さいんですね(笑)。

沖田:そういう絶対におもしろいと思っていることが画面の遠くの方で起きているのが、画として面白いですよね。ジャック・タチもそうですが、画の構図が面白いコメディを作りたいな、といつも思っています。

──最後に今作をご覧になる方にメッセージをお願いします。

沖田:さかなクンのことが好きな人はもちろん、さかなクンにあまり興味がない人が見ても、大人が見ても、子供が見ても楽しい映画です。作っている時も、さかなクンのことを全く知らない人が観ても楽しめる映画にしよう、と思っていたので、この映画を純粋に楽しんでいただきたいですね。


【映画情報】

©2022「さかなのこ」製作委員会

映画『さかなのこ』

2022年9月1日(木)より、大ヒット上映中! 

映画『さかなのこ』
主演:のん 柳楽優弥 夏帆 磯村勇斗 岡山天音
さかなクン 三宅弘城 井川 遥
原作:さかなクン「さかなクンの一魚一会 〜まいにち夢中な人生!〜」(講談社刊)
監督・脚本:沖田修一
脚本:前田司郎
音楽:パスカルズ
主題歌:CHAI「夢のはなし」
製作:『さかなのこ』製作委員会
制作・配給:東京テアトル
(C)2022「さかなのこ」製作委員会

【予告動画】

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