lyrical schoolのメンバーhimeの連載「社会人でびゅ〜!」。長きにわたる学生とアイドルの両立生活を経て、晴れてアイドルラッパーとして社会人デビューを果たした彼女が、立派な社会人アーティストになるべく奮闘します! 今回は初の同年代・ラッパーのRin音さんをお迎えして、同い年だからこそ共有できる思いやエピソードをざっくばらんにおしゃべりしました。4月20日にリリースされるRin音さんの2nd Album『cloud achoo』のお話も!
取材&文/吉田可奈 撮影/佐野円香
目次
●街中で「snow jam」が流れてくるとひとまず逃げます(笑)【Rin音】
――お2人は今日改めてお会いするまで、お互いにどんな印象がありましたか?
hime 大学のときの友だちが、Rin音くんの楽曲を聴いている子たちばかりだったので、日常的にRin音くんの音楽はそばにある感覚があったんです。TVに出演している姿も見ていたので、勝手に親近感を感じていました(笑)。
Rin音 うれしいです。でも、僕自身は、たくさんの人に聴いてもらっている自覚がないんですよ。一度洋服屋さんに入ったときに、「snow jam」が流れていたんですが、あまりにも恥ずかしくて出てきちゃいました(笑)。
hime 出ちゃうんですね(笑)⁉
Rin音 僕だってバレることはまずないんですが、でも万が一バレたときに、“セールになってる服ばっか買ってたよ”とかって言われたらイヤじゃないですか!
hime めっちゃおもしろい(笑)。
Rin音 なので、街中で聴こえてきたときはまず逃げます(笑)。
hime あはは。
Rin音 僕はlyrical schoolさんがJinmenusagiさんから楽曲提供を受けたのを知って聴いていたので、すごいなって思っていて。
hime ありがとうございます。同じ年なので、きっと影響を受けたラッパーも一緒ですよね。
Rin音 電波少女さんなどもがっつり聴いていたので、一緒のイベントに出たりしているのを見て “リリスク、すごいな”って思っていたんです。
hime うれしい~。
――同世代、同じルーツだからこそ、聞きたいことがたくさんあると思うので、hime さん、なんでも聞いてみて下さい!
hime 今日はたくさんメモをしてきたんです! まずは、なぜ今も上京せず、福岡在住で活動をしているのかなと思っていたのですが…。
Rin音 福岡にいても、作業するのに困らないんですよ。どこの県でもそうですが、音楽をするのには東京じゃなくてもできるんです。それに、東京があまり得意ではなくて…。
hime 住んだことがあるんですか?
Rin音 はい。去年の初夏に1カ月くらい住んだんですが、やっぱり合わなくて! まず、夜に普通に外を人が出歩いていることにビックリしちゃって(笑)。なので、いまは仕事で東京に来るくらいがちょうどいいですね。
hime レコーディングも福岡でされているんですか?
Rin音 家でやっています。マイクとシールド、パソコンとインターフェースだけでやっていて。
hime すごい!
Rin音 トラックメイカーの方にトラックをお願いして、レコーディングをしたら送ってミックスしてもらって…って感じなんです。
hime 前回ゲストで来てくださったCHICOさんは曲は沖縄で作って、レコーディングは東京でするとおっしゃってました。東京の方が良い機材が揃ってるからと(笑)。
Rin音 僕は、良い機材を買ったとしても、違いがあまり分からなくて(笑)。それにみんながみんな、高いヘッドフォンで音楽を聴かないですよね。そう思うと、ある程度質のいいものなら家でも録音できるから、ハイグレードを目指して東京で作業して自分のストレスが増えるくらいなら、いまのやり方が一番いいかなって思っているんです。
hime すごくわかる気がします。さらに、この仕事をしていて、“やっていてよかった!”と思う瞬間はどんなときですか?
Rin音 自分がテレビで見ていた人と会えるときかな!
hime そこなんですね(笑)⁉
Rin音 テレビで見ている人に会えた瞬間は、“本物だ!”って思います! この前も、粗品さんに会えたときはうれしかったですね!
hime ちなみにRin音さんは、現在ソロで活動されていますが、クルーに入ろうと思うことはないですか?
Rin音 クルーをやりたいという気持ちはあるんですが、今はソロ活動が忙しいので、落ち着いたら身内でラップをやっている友達をフックアップできるような場所を作れればいいなと思っています。
hime 私はずっとグループなので、ソロで良かったなと思うことが知りたいです!
Rin音 バンドやグループだと、音作りもみんなで集まってやらないといけないですが、僕はソロなので、リリックも何もかも全部ひとりで決められるので、ペースも自分次第なんですよね。
hime たしかにそうですね。
Rin音 あとは、評価が目に見えるのはいいなと思います。高校の頃、サッカーをしていたんですが、サッカーって勝っても負けてもチームの成果で、誰か一人のおかげにならないですよね。でも、ソロで音楽をやると、自分がどれだけ活躍できたかが分かりやすいんです。それがたとえダメだったらダメでも良くて、それもすべて自分の責任にしたいんですよ。ちゃんと自分が背負って、逃げないようにしたいんです。
hime 強い! もともとそういう性格なんですか?
Rin音 そうですね。今年厄年なんですが、アルバムも出るし、厄年のせいで失敗したと思いたくないんです。なので、厄払いもして、言い訳をする要素を全部無くして、まっとうな評価を受け止めたいと思っています。
hime 素晴らしい~!
Rin音 その分、上手く行ったときは、“自分のおかげ”って思えるので、モチベーションが上がるんですよ。
●同い年だからこそ、アドバイスがスッと入ってくる感じがあります(hime)
hime 私はすごい悩んでしまうタイプなので尊敬します。ちなみに、どうやって自分のスタイルを見つけましたか? 私がもしソロをやるとしたら、グループとは全く違うことがしたいなと思っているんです。例えばSUSHIBOYSさんみたいなおふざけの感じもいいし、舐達麻さんみたいなアウトローな感じも好きだけど、それを女の子の私がやるのもなと思っていて。でもRin音くんは、ちゃんとRin音くんらしさが確立されているから、どうやって見つけたのかなと思っていて。
Rin音 じつは僕、一番最初はクルーで活動をしていたんですよ。仲が悪くなったわけではないので、いつかはまた一緒に曲を出そうとは話しているんですけどね。で、ソロ活動をしていくうちに、僕のバックボーンに不良カルチャーとかワルな要素はなかったし(笑)、青春しかないので、参考にするなら、電波少女さんや、ぼくのりりっくのぼうよみさんに近い音楽がいいなと思っていました。HIP HOPをやっている以上、カッコつけたいなという気持ちはあるじゃないですか。でも、自分が向いているのはこのジャンルだったし、それを認めてくれるシーンだったんですよね。なので、いろいろやってみて、自分に合うものを素直に選んだ感じなんです。
hime 最初は違うこともされていたんですか?
Rin音 はい。世に出す、出さないは関係なく、まずやってみたい曲を1曲完成させるんです。それを聴いてみて、自分が客観的に聴きたいと思った音楽が今のスタイルだったんですよね。そうやって選んでいくと、自分の色も分かりますし、今度は他の人の色をどうやって取り入れようかなって思うようになるんです。それが進化であり、成長だと思うんですよね。今回のアルバムでは、トラップっぽいサウンドをやっているんですが、最初は全然できないジャンルだったんですよ。でも、トラップが上手いICARUSという友達と一緒に曲を作っているうちに、“こういうリリックを書けばカッコよくなるんだ”って発見することができたんです。
hime すごくわかります。私も、レコーディングの後に、自分で聴ける曲と聴けない曲があるんですよ。
Rin音 自分の向き不向きもそうですし、好きな音楽というのもありますしね。ただ、自分が気に入らないと思っても、他の人が聴いたらいいときもあるので、一概に苦手だからと言って捨てていいとは言えないんですけどね。ただ、自分が好きだと思う音楽は大事なので、その気持ちは大切にしてほしいですね。
hime 同じ年だからこそ、すごくわかりやすい的確なアドバイスでうれしいです!
Rin音 あはは。自分が苦手なところを得意としている人もいっぱいいますが、僕は得意としているところじゃないと戦えないので、そこを磨くしかないなと思っていて。その後にしたいことが出来るようになると思うので、いまは必死で磨いている最中です(笑)。
hime Rin音くんは同じ年だからか、アドバイスがスッと入ってくる感じがします。話を聞いていても、順調にここまで来たように思うんですが、挫折したことはありますか?
Rin音 めっちゃありますよ! できないことも多いし、MCバトルで負けたら悔しいし、毎回挫折ですよね。
●自分が思っている以上に、人って他の人のことを覚えていないから、失敗してもそんなに怖くないんです(Rin音)
hime MCバトルは今も好きで出ているんですか?
Rin音 もちろん。僕の音楽の最初のはじまりがMCバトルなので、出ない理由がないんです。
hime 私だったら、出ない理由しか思いつかなくて(笑)。Rin音くんのように活動が順調だったら、戦う理由もないんじゃないかなって。頑張って口げんかしなくてもって思うんですが…。
Rin音 楽しいんですよね。あのヒリヒリ感はもちろん、あそこに身を置いている限り、絶対にフリースタイルをしなくちゃいけないし、自分と向き合わなくちゃいけないんです。それに、カッコよかったバトルと、めっちゃカッコ悪かったバトル以外は、みんなすぐに忘れるんですよ。
hime たしかに!
Rin音 自分が思っている以上に、人間って他の人のことって覚えていないから、失敗してもそんなに怖くないんですよね。でも、上手くいったときのことは覚えてくれるので、メリットの方が大きいんです。それに、HIP HOPじゃないとか、HIP HOPだとか、いろいろ言われることがあるんですが、それを覆すためにも、バトルは手っ取り早いんです。
hime テーマはどうしていますか?
Rin音 そのときに言いたいことって、結構あるんですよね。
hime 私、それが悩みなんですよ。あまり言いたいことがないんですよね。
Rin音 例えば、自分の恋愛で上手くいかないのは相手が悪いと思ったのか、自分の悪さが出ているのか、冷静に分析して、それをテーマにしてもいいと思うんです。言いたいことがないときにラップした最上級がSUSHI BOYSさんだと思うし、言いたいことがなければフリースタイルしてラップして韻を踏んでというのも面白いリリックでやっていれば意味があるし、自分ならではのワードセンスを鍛えることもできると思うんです。
hime たしかにそうですよね。ちなみに、Rin音くんの楽曲って全部実体験ですか?
Rin音 実体験じゃないと言ったら嘘になるんですが、どこかしら自分がそのときに思った経験が散りばめられているんです。作り話の世界の中で、自分ならこう思うということもありますしね。
hime 最近、ラップを聴いていて心が大きく動く曲って、あまりないんですよね。というのも、何を言っているか聞こえない曲が多いように思っていて。若い世代だと、宇宙語のようなものもあるのに、Rin音くんの音楽は、歌詞を見なくてもすべてが聴こえてくるんです。それが本当にすごくて! 楽曲も聴き終えたあとは、小説を読み終えたような気持ちになります。
Rin音 うれしいですね。歌詞は書く以上、中身がないとつまらないと思うんです。聴いてくれて、歌詞を読んでくれている人がいるということは、そこに何かがないとダメだと思うんですよ。なので、そこはちゃんとオチを付けたり、楽しんでもらえるように作るようにしています。
hime だから、すごく心が動くんですね。ちなみにラップをやっていなかったら何になっていましたか?
Rin音 普通に社会人だと思います。僕、就活をしようと思っていたんですよ。実は「snow jam」を出したら、音楽を辞めようと思っていて。
hime え~!?
Rin音 『film drip』を出すタイミングで大学も卒業するので、そこで一度辞めようと思っていたんですが、そのEPの反響が大きかったこともあり、それならずっとお願いしたかったRhymeTubeさんにトラックをお願いしようと思い、できたのが「snow jam」だったんです。その結果、いろんなところからお声がけいただくようになって、就活ができなくなってしまって…(笑)。
hime そうだったんですね! 就職をするなら何の仕事でしたか?
Rin音 大学でプログラミングを習っていたので、エンジニアだと思いますね。
●私もゆるくなりたいんですよ。早くオンとオフがちゃんとメリハリ付けられるようになりたい(hime)
hime 今の目標はありますか?
Rin音 う~ん。お客さんを高ぶらせて、僕も叫びまくるようなライブがしてみたいですね。やったことがないので。
hime いいですね~! 私、このアルバムを聞いたときに、力んでいない感じがすごくいいなって思ったんです。若いラッパーや、もちろん私たちも、どうしても頑張って歌おうとしちゃうんですが、Rin音くんは力が抜けているのに、全部歌詞が聴こえてくるからすごいなって思うんですよね。逆に、声を張った音楽も似合いそう!
Rin音 一回で良いから、思いっきり「わー」って言いたい!
hime めっちゃいいと思います! もし、エンジニアになっていたとしても、音楽は続けていましたか?
Rin音 それは辞められないと思います。フリートラックを漁るのも大好きですし、ケータイで曲を作ったり、趣味として続けていたと思います。hime さんは、他の人の意見って気になりますか?
hime 気になります! リリスクに対して来る意見はあまり気にならないんですが、個人をターゲットにしてくるものはすごく気になりますね。
Rin音 そうなんですね。僕も最初はなんでそんなことを言うの?って思っていたんですが、よくよく見ていると的外れなことが多いんですよ。なので気にしない方が良いという結果に至ったんです。周りを気にして、意識すると、めっちゃダサイ曲ができるんですよ(笑)。なので、本当に気にしなくていい! ゆるくやった方が良いです!
hime 私もゆるくなりたいんですよ。早くオンとオフがちゃんと付けられるようになりたいですね。あと、今更なんですが、そもそも、なぜラッパーを目指したのかも気になるのですが…。
Rin音 高校生のときに、MCバトルを聞き過ぎて、歌詞の内容を全部覚えて、ソラで言えたんですよ。それを替え歌のようにしていたら、“あれ、これは俺のラップになるじゃん”って思って。それが得意になって、負ける気がしなかったんです。
hime すごいなぁ。そういえば、高校のときにクラスの男子がラップバトルの試合を一行ずつ書き合うことをしていたんですよ。そこで「ラップ好きなの?」って話しかけたら、次の日からやらなくなっちゃって! あのままやっていたらすごいラッパーになっていたかもと思うとすごい申し訳ないんです(笑)。
Rin音 あはは。いまもどこかでやっているかもしれないですよね。
――さて、4月20日にRin音さんのアルバム「cloud achoo」が発売します。
Rin音 本当にいろんな曲を入れているので、どの曲が好きかとみんなで話してもらえたらと。
hime 私は『Myth』が好きでした。聴き終えた後に、映画を観終わった気持ちになったんです。すごく情景が浮かぶし、何歳の人が聴いても心が動くラップなんだろうなって思っていて。すごく引きこまれました。さらに、ライブで盛り上がる曲とじっくり聞きたい曲のバランスがすごくいいなと思ったんです。同業者として、そのバランスってすごく大事なことがわかるから、本当にいいアルバムだなと思いました。
Rin音 うれしい! いい気分で福岡に帰れます(笑)。
hime あはは。HIP HOPの入り口として聴きやすいアーティストさんだと思うので、いろんな人に聴いてもらいたいですね。
Rin音 そんなに褒めていただいて…(笑)!
hime こちらこそ。今日はすごくいい話が聞けてうれしかったです! ありがとうございました!
Rin音●福岡県宗像市出身、1998 年生まれのラッパー。18 歳からラッパーとしてのキャリアをスタートさせ、数々のMCバトルを総ナメする実力派。2018 天神U20MC battle Round1 優勝、KMB vol.7 準優勝、チュリトリスワールド優勝などMC バトルで頭角を現す。 2019 年7 月に待望の1stEP「film drip」を配信限定でリリースしHIPHOP シーンで新世代のラッパーとして 注目を浴びる。2020年2 月 にリリースした「snow jam」ではSpotify 国内バイラルランキング1 位、Apple Music総合 ランキング の9 位 にまで上昇するなど、各ランキングでも軒並みランクイン。現在ではストリーミング総再生回数2億5千万回を突破している。2020年6月10日には1stアルバム「swipe sheep」をリリース。多種多様な日本語を操りリリックが醸し出すエモーショナルな雰囲気は若者を中心に絶大な人気を誇っている。『第62回輝く! 日本レコード大賞』にて「新人賞」を受賞。4月20日に2nd Album『cloud achoo』が発売される。
hime●lyrical schoolのメンバー。無類のヒップホップ好きとしても知られる。4月20日にニューアルバム『L.S.』発売!詳細はこちら→http://lyricalschool.com/
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