1回目のアニメ人、梅津泰臣さんからバトンタッチされたのは足立慎吾さん。大人気ライトノベル『ソードアート・オンライン』のアニメ版でキャラデザインを手掛け、最近では映画ファンの間で話題になった『映画大好きポンポさん』(2021年)の作画監督&キャラデザインを担当。梅津さんとは、彼の原作&監督によるTVシリーズ『ガリレイドンナ』(2013年)で作監、キャラデザイン等を任され親交を深めた。梅津さんが「画がメチャクチャ上手い!」と絶賛する足立さんの3本の第一回目は、当人が映画に目覚めるきっかけとなったという『ロッキー』シリーズについて語っていただきます! 本連載恒例の、作品にまつわる渾身のイラストも必見です!
取材・文/渡辺麻紀
※プロフィールイラスト
<プロフィール>
あだち・しんご●大阪府生まれ。手掛けた主な作品に『WORKING!!』(2010年/キャラクターデザイン・総作画監督・作画監督・OP&ED作画監督)、『ソードアート・オンライン』(2012年/キャラクターデザイン・総作画監督・作画監督補佐・OP&ED作画監督)、『ガリレイドンナ』(2013年/キャラクターデザイン・総作画監督・作画監督・OP&ED作画監督)、映画『映画大好きポンポさん』(2021年/キャラクターデザイン)など。
ときどき口にする人生訓のようなセリフに心打たれる『ロッキー』シリーズ
――足立さんのまず1本目は『ロッキー』シリーズです。6本あるなかの1本ではなくシリーズで選ばれました。
僕はどの映画を観ても面白いと思ってしまうほうなので、3本を選ぶだけでも大変。ましてや、それに順位をつけるなんて出来るはずがない。なので今回は、それぞれ節目的な存在になった作品を選んでみたんです。
最初にあげた『ロッキー』シリーズは、簡単に言ってしまえば、映画を観始めた子供のころの初期衝動という感じで好きだった作品。カメラワークがどうとか、脚本が云々とか、そういう批評的な視線はまるでない、純粋な意味で「わー、よかった!」と言える作品。“ロッキー”というキャラクターに出会えて、映画が大好きになったと言っていいのかも(笑)。僕を映画好きにしてくれたキャラクターであり作品だと思いますね。
――『ロッキー』の1作目が公開されたのは1976年でした。
なので当然、1作目は中学生のころビデオで観たんです。アカデミー賞ももらっているし、おそらく評論家的、世間的にはこれがベストという評価なんだろうけど、正直言うと、それほど興奮したわけじゃないんですよ。ベトナム戦争が終わったばかりで、アメリカも豊かとは言えない頃という時代性が強く出ていて、おそらく同じ時代を生きた人が共感できるような作品なんだと思うんです。
僕が面白いと感じるようになったのはエンタメにシフトした『ロッキー2』(1979年)から。『1』で判定負けしたアポロと再びリングで闘うシーンがこの作品の一番のハイライトです。それまでお話がムチャだったりしても、このファイトですべて忘れ、ロッキーを応援する。当然、ロッキーもかっこいいわけだし。
――そういうリング上のロッキーが大好きだったんですか?
いや、そういう彼の雄姿はサブに過ぎなくて、僕が心打たれたのは、彼がときどき口にする人生訓のようなセリフ。ろくろく教育も受けてない、ボクシング一筋の彼の口から、人生の真実のようなセリフがこぼれる。僕はそれが大好きだったんです。
ほら、子供がふと哲学的なことを言っちゃったりするときってあるじゃないですか。プラトンとかソクラテスとかの賢者や、そういう研究をずっとしている人の言葉に含蓄があるのは当然だけど、そうじゃない人がポロっとそういう言葉を口にすると、賢者の言葉より心に届くと思うんです。
しかもロッキーの場合、その言葉はちゃんと自分で汗と血と涙を流しながら生きてきたからこそのもの。そこには彼の人生そのものが感じられる。そういう言葉だから、多くの人にとって代替可能な哲学が入っているんですよ。
――確かに『ロッキー・ザ・ファイナル』(2006年)でも「人生ほど重いパンチはない」と言ってましたね。いいセリフだなあと思いました。
でしょ? まさにそういうセリフがちりばめられている。そのセリフがある『ファイナル』のとき、シルベスター・スタローンもすでに60歳。一般的にいうと定年で引退してもいい年齢ですよ。そういう男がもう一度、リングに昇る話ですから、そのセリフも深くなるんです。
そこでもうひとつ、言っておきたいのは、このシリーズで僕が大好きなのは、スタローンという映画人の人生と、ロッキーという架空のキャラクターの人生が重なりあうところなんです。
ふたりとも同じように年齢を重ね、同じように挫折を味わい、同じように復活し、闘い続けてきた。一方でファンや観客も、スタローンやロッキーと同じように年齢を重ね、いろんな人生を経験してきている。だからこそ共感度が高いんだと思うんです。
――そういうところはありそうですね。
それにスタローンは、テーマをそういう人たちの年齢に合わせたり、時代性を意識して選んでいる。シリーズで一番ヒットしたという4作目の『炎の友情』(1985年)は冷戦から雪解けに向かっていた時期だったから、そういう要素をドルフ・ラングレン扮するソ連のボクサー、ドラゴとの闘いに持ち込んでいる。
最初はアポロとドラゴが闘い、アポロが激戦の末、亡くなってしまう。その復讐のためロッキーはソ連に向かい、そこでドラゴと非公式の試合をする。敵側なので会場は最初、ブーイングの嵐なんだけど、その試合っぷりを観てそのブーイングが歓声に変わるんですよ。そこには、ロシア人は決して敵ではない。みんなと同じようにスポーツが大好きで、いいファイトには惜しみなく拍手を送る普通の人なんだってメッセージが込められている。そういう描写を見ると、やっぱりスタローンって時代をちゃんと見据えているんだなと思っちゃいますよ。
――確かにそうですね。
で、問題は『ロッキー5/最後のドラマ』(1990年)。僕、『5』は失敗作だと思っていて1回しか観てなかったので昨晩、観直したんですよ。改めて観たら、これもアリだなって思いましたね。
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