3月18日に開催されたこじらせオンラインライブ(ゲスト:伊集院光)の収録後のおしゃべりです。「ドキュメント72時間」に出ていた、どこか抜けている若者の話から、3人が見聞きした詐欺や勧誘の話になりました。都会は罠だらけ。
構成/前田隆弘
長距離バスの思い出
──今日のライブで話題になっていた「ドキュメント72時間」のバスセンターの回(*)、僕はヒャダインさんと同意見でした。
*2023年2月17日放送「福岡・高速バスターミナル 年の瀬を走る」の回。佐世保の食品工場で働く若者2人が、高速バスで福岡にやって来て「(新天地の福岡で)将来成功したい」と夢を語る。しかし年末なのに宿泊先を考えずに来福、帰りのバスの手配もうまくいかないなど、いちいち危なっかしい。夢が大きいわりに状況判断が全然ダメな彼らの行く末を、ヒャダインは危惧していた。
能町 そうなんだ。
──「でっかいことをやりたい」と言うんだけど、その中身を全然考えていない様子で、なのに「成功する自信だけは100%あります」と言ってたから。
ヒャダ そうなんですよ。そういう人が詐欺グループに勧誘されて、受け子みたいなのをやらされるんじゃないかと思って。
久保 私は「佐世保にいるよりかはマシなんじゃないか」という気持ちで見てた。他にも、定年過ぎても高速バスで通いながら働いてる人が出てきて、いろいろシビアだなって。あと、親族が亡くなって急に島根に向かう人がいたんだけど、その島根行きのバスはその後すぐ廃止になって、オンエアの時点ではもう存在していないという。そこもシビアだった。
能町 話はずれるけどバスと言えば、2年くらい前、久保さんと広島でイベントをやったじゃないですか。私、その足で広島からバスに乗って島根の益田という街に行ったんです。それがもう地の果てに連れていかれるような、すごいバスで。18時半に出て、21時半くらいに着くんですけど、ほとんど下道を走るんです。しかもそのバスの客、私とおじさんの2人だけだったんですよ。中間地点で運転手の休憩が入るんですけど、サービスエリアとも呼べない、トイレだけがあるスペースが山奥にあって、そこに停車するんです。山奥に運転手・私・おじさんの3人だけになったとき、「ここで何か起こったらどうしよう」と怖くなりましたね。
ヒャダ 能町さんが乗ってなかったら、客はおじさん1人ですよ。
能町 あと私、大学が地理系の学科で、現地調査の実習があったんですよ。ゼミのメンバーは全員静岡市に泊まるんですけど、調査する場所は各自バラバラで、静岡市内だったらどこでもいいことになっていて。でも静岡市ってめちゃくちゃ広くて、南アルプスのほうまで範囲に入ってるんです。それで山奥の集落に行くのに、当時は1日1本しかバスがなかったんです。市内なのに片道3時間以上かかる道のりで。朝、そのバスに乗ったら客が私1人だったんですけど、なぜかクルーが2人いるんです。40歳くらいの男性運転手と、女性が1人。
──観光バス以外でワンマンじゃないバス、あるんですね。
能町 乗ってるうちに意味がわかったんです。道が狭くて、対向車が来たらバスのほうがバックして避けないといけないような場所がいくつもあるんですよ。そこで女性クルーが降りて誘導してて。私は一番後ろの席に座ってボーッと見ていたんですけど、なんだかその2人が妙に仲がいいんです。
ヒャダ あらま。
能町 で、やっぱり途中で休憩があるんです。山の中のただの「人んちの前」みたいなところにあるバス停に停まったときに、「休憩です」ともなんとも言わずに2人とも降りちゃって、なかなか戻ってこないんですよ。「え、どうしたらいいの?」と思って。外を見たら、2人がたばこを吸ってるんです。それで「これ、休憩ってことなんだ」とわかって。そのうち無言で戻ってきて、再出発したんですけど。私の中では、あの2人は不倫じゃないかと思ってます。お邪魔しちゃったかもしれない。
──能町さんが乗ってなかったら、ただの「不倫相手との長距離ドライブ」になってたわけですよね。
能町 あれ、すごい貴重な体験だったんですよね。田舎のバスはドラマがあるんですよ。あのバス、もう一回乗ってみたいな。
ヒャダ みなさん、4列シートの長距離バスに乗ったことありますか?
能町 若いころはありましたね。
久保 佐世保ー福岡間ならある。2時間くらい。
ヒャダ 僕も昔は若かったから、東京ー大阪間の4列シート5,000円みたいなバスに乗ってたんですけど……あれ、マジで地獄なんですよ。
能町 腰が爆発しますよね。
ヒャダ 若いって、やっぱりすごいなと思いました。
久保 体に合わないところに、ずっといることができる……それが若さ。足に合わない靴をずっと履ける。自分に合わない場所にずっといられる。すごいですよね。
──今もあるのかな? 安くて有名だった、東京ー大阪間の「青春ドリーム号」という4列シート・2階建ての巨大バス(*)。
*JRバスグループの「ドリーム号」シリーズは現在も運行中。その廉価版として「青春ドリーム号」シリーズが登場し、中でも東京ー大阪を結ぶ定員86名(!?)の「青春メガドリーム号」は格安料金で人気を集めたが、車両火災を起こしたこともあり、2009年に廃止となった。
ヒャダ あります。僕が乗ったの、それだと思います。
久保 「青春ドリーム」って、そんなギュウギュウのバスに夢ないじゃん(笑)。
能町 ドナドナじゃないですか、もう。
ヒャダ 狭い4列シートで寝るって、今では信じられないですよ。
能町 でも寝たんでしょ?
ヒャダ 寝ますけど、2時間ごとに目が覚めるんですよ。体勢がゆったりできないから。隣の人のいびきがうるさかったりして、しんどかった思い出がありますね。
一発逆転を狙う人々
久保 さっきの「72時間」の話に戻るけど、あれ見てると、やっぱり九州の人間は福岡を目指すんだなと思った。
能町 東京じゃなく、あえて福岡なんですね。
──福岡=プチ東京というか、「東京よりも安全な都会」みたいな感じなんですよね。
久保 お金がなくなったとしてもギリ地元に帰れる場所、それが福岡。
──これが東京だったらあっという間に喰い物にされて、もう地元に戻れなくなるかもしれないです。
能町 最近、特殊詐欺の本を読んじゃったから、捕まる人がどういうパターンで沈んでいくかがわかっちゃって。たとえば、奥さんと子供がいるんだけど、失業してパチンコで金使っちゃって、そのことを言えない人が一発逆転を狙うんですよね。で、SNSで「簡単に稼げます」みたいなのを見つけるという。
ヒャダ 闇バイトだ。
能町 それで相手から「身分証明書をお願いします」と言われたら、ホイホイ渡しちゃうんですよ。渡した後に「これをやれ」と命令されて、だいたい高齢者をだますやつなんですけど、拒否したら「お前の身元は全部わかってる。追い込みかけるぞ」と脅されて、どんどん追い詰められていくらしいです。
ヒャダ そういう人って見栄っ張りだから、だまされたことを警察にも家族にも相談できないんですよね。
能町 そう。ていうか、「警察に言ったら、お前の家族がどうなるかわかってんだろうな」みたいなことになっちゃうという。
──ただ、佐世保の食品工場で働く若者が夢を見る感じもちょっとわかるんですよ。以前、深夜のファミレスでネットワークビジネスの勧誘を見たことがあって。
ヒャダ よくいますよね。
──勧誘する人が「●●さんって今、給料どれくらいですか?」と聞くんですけど、相手の給料はやっぱり安いんですよ。で、「そのままずっと真面目に働いて、生涯年収どれくらいになると思います? だいたいこれくらいですよね?」とズバリ言うんです。今のまま働いても「生活」はできるけど、「裕福な生活」はできないと突きつけてくる。
ヒャダ で、「そんなあなたに!」となるわけですよ。
──「真面目コースでは逆転はない」というのはたぶん当たっていて、その現実を突きつけられた人が一発逆転に飛びつく気持ちも、わかるっちゃわかるなと。
ヒャダ そういうの、途中で2人目が登場するんですよね。
能町 「すっごい尊敬できる人がいて!」って(笑)。
久保 それで思い出したけど、犬の散歩中に「家にある高級品を買い取ります」みたいな訪問を見かけたことがあって。リーダーの下に4、5人の部下がいて、通り沿いの一帯を訪問していくんだけど、分担して1戸ずつ声を掛けるだけじゃなくて、「この家は感触がいい」となったところに、わーっと行く感じで。「少しでも弱み見せたら、もう終わりじゃん!」と思って、怖かったんだよね。
──そんなジェットストリームアタックみたいな訪問が……。
久保 私は外から見てただけだから、それが悪いことしてると確定したわけじゃないけど。
ヒャダ でもちょっとおっかないですね。
能町 「手相の勉強してます」って声をかけてくる人いるじゃないですか。
ヒャダ 出た!
能町 もちろん怪しいのはわかってたんですけど、暇すぎて手相を見てもらったことがあるんですよ。どんなことを言うのかなと思って。そしたら「勉強中だから詳しいことはわかんない」って言いながら、誰にでも当てはまるようなことを言うんです。で、気がついたら、3~4人に取り囲まれてたんですよ。
一同 怖っ!
能町 「あなたの手相はちょっと特別な感じがするから、尊敬してる先生がどこそこにいるから、もしよかったら一緒に行って見てもらいませんか」と言われたときにはすでに囲まれていて。なんだかんだ理由をつけて逃げましたけど。「こう来るんだな」というのがわかった。
その出会い、本当に偶然?
ヒャダ 僕も思い出したんですけど、恵比寿の駅ってエスカレーターが3階まで行くんですよ。
能町 ああ、あの長いやつ。
ヒャダ あのエスカレーターに乗って地上の様子を見てたら、道に迷って困ってる感じの男性が、女性に「すみません」と声をかけたんですけど、その女性は無視したんです。そのまま見てたら、その男性が真顔に戻ったんですよ。で、また女性が通りかかったら困り顔になって「すみません」と声をかけてて。だからその人、「困ってる詐欺」をしてたんですよ。
能町 なんでそんなことをしてたんだろう。気になる。
──ナンパの可能性もありますけど、もしかしてそれ、「事業家集団」では……。
能町 聞いたことある。
──それも仮の名称なんですけど。「このへんでおいしいケーキ屋さん知りませんか?」みたいに声をかけてきて、そこから話を広げて勧誘していくという。
久保 偶然知り合って、仲良くなってから行きつけの店に連れて行ってもらったら、店員も客も全員同じグループの人間だった……みたいな話も聞いたことある。都会で生きていくのって、なかなか難しいもんだね。
能町 いや、みんな本当に都会に出て来て、そういうのに引っ掛からずによく生きてこれましたよね。
ヒャダ 僕の友達の話なんですけど、そいつの友達が女の子をナンパして、3人でキャンプに行くことになったんですって。その子が「アウトドアに興味がある」と言ってたからということで。で、キャンプに行ったら、「私の仲間がここで偶然キャンプをしてるんだ! 一緒に合流しない?」と言われたらしくて。
能町 え? その女の子に?
ヒャダ そう。言われるがままに行ってみたら、そのグループは10人くらいだったらしいんですけど、行くやいなや「名前、なんて言うの?」と聞かれて、出会って即、下の名前で呼ばれたんですって。
能町 怖い。その時点でもう怖い。
ヒャダ それから夢を聞かれたらしくて。で、「この近くの飲み屋に、俺たちが尊敬する、成功してる人がいるから訪ねていこう!」と言われて、その人が泣きながら夢を語って、みんなで感動したという……。
──めちゃくちゃ怖くないですか。とっかかりのナンパさえ、仕組まれていた説ありますよ。
久保 よし、夢を語ろうか。私たち、そこに今、参加しました!
能町 夢……?
久保 「初めまして〜! 下の名前は何て言うんですか?」。
能町 「みね子です」。
久保 「じゃあ、みね子って呼ぶね! みね子、笑うとかわいいよね!」。
ヒャダ 「かわいい!」。
久保 「なんかクール系かと思ったけどさ」。
能町 「いや全然そんな……すいません」。
久保 「ここにいる人、みんないい奴ばっかりだから!」。
ヒャダ 「みんな夢を追い掛けてるから、キラキラしてるんだよね!」。
能町 「へえ……すごいですね」。
久保 「みね子は夢を持ってる?」。
能町 「1つもないです」。
一同 (笑)
ヒャダ 「いや、やっぱそうなっちゃうよね。夢が持てない社会になってるのは、今の大人たちの責任だと思うんだよね。だけど、それを俺たちの世代で変えていかなきゃいけないと思うんだ!」。
能町 「いや、別にそんなのは……」。
ヒャダ 「ここだったら夢を口にしても誰もバカにしないし。だって、みんな夢を持ってるから!」。
能町 「じゃあ私の夢いいですか? 地球が滅亡してほしい」。
一同 (爆笑)
ヒャダ 「そうだよね。わかるよ。本当にそれくらい追い込まれるよね」。
久保 「わかる!」。
ヒャダ 「こんな地球なんか滅んじゃえって気持ちになるけど、だけど俺たちも、もう1ミリグラム、1ナノグラムの希望にかけて生きてるんだよね」。
久保 「そういうのって、人前で恥ずかしくて話せなかったりするじゃん?」。
能町 「まあ私、何でもしゃべれます」。
久保 「強いね〜!」。
ヒャダ 「その強さを生かしたら、今までよりずっと成功できるようになるよ!」。
久保 「みね子はさ、今の収入に満足してる?」。
能町 「はい(笑)」。
一同 (爆笑)
久保 終了〜(笑)。
ヒャダ 駄目だ、こりゃ(笑)。
親しくなった人に冷たい態度を取れるか問題
能町 でも(「収入に満足してる?」と聞かれて)本当に「はい」と答えたら、その先どうなるんだろう?
久保 「ボランティアに興味ある?」みたいな方向に行くんじゃない?
能町 「美津子がすごいお金持ってるのはわかる。わかるんだけど、もうちょっと社会に貢献したいなって気持ち、本当はあるよね?」。
ヒャダ 「それだけ価値のある人間だからね」。
久保 「でも私、優先順位の中に自分しかいないんで。もう助けられるの、自分しかいない。自分は泥船の中にいるのに、他の人を助けるなんて無理でしょ? きれいごとだけじゃ生きていけないからさ」。
ヒャダ 「ほんとそう。きれいごとだけじゃ生きていけないからこそなんだよね」。
能町 「美津子の気持ちはわかった。そう言いながら、本当は助けたいのに助けられないつらさを、そうやってごまかしてるんだなって、すごいわかった」。
ヒャダ 「つらかったよね、今まで」。
久保 「うん、つらかった……」。
能町 「ほんとつらかったと思う、美津子」。
ヒャダ 「だからみんなでその悲しみをシェアしようよ!」。
久保 「(急に冷めて)シェアは無理」。
一同 (笑)
能町 みんな強い(笑)。
ヒャダ 「マルチやっつけるキラーフレーズ選手権」、面白いですよね。
久保 どのパターンもそうですけど、強引に行くわけじゃなく、まず「親しい友達」という付き合いのフォーマットを築いてから勧誘するわけですよね。いったん親しい関係を築いてしまった人に急に冷たくするのって、なかなか難しいと思うから。
能町 最初は親しく来て、普通に友達だと思ったところから、急に来られると怖いですよね。
久保 わかりやすく最初から怪しさ全開では来ないんだよね。
ヒャダ 関係性を築いた後に、「この人に対して180度違う、冷たい態度をしなきゃいけない」というのは、かなり酷ですよね。そういうのに引っ掛からない人生でよかった。
能町 たまたま人生うまくいったって感じですよ。
久保 でも何かのきっかけで、今後も出会う可能性もあるから怖い。
ヒャダ われわれ、今はまだ40代だから、それをはね返せる実力がありますけど……。
能町 ねえ。だんだん体も心も鈍ってくると……。
──今回、とても春らしい話題になりましたね。新生活を始める人は本当に気をつけてほしい。
「久保みねヒャダこじらせブロス」連載バックナンバーはこちらから。
【ライブ情報】
有観客&オンライン配信での開催
久保みねヒャダこじらせライブ
開催日:2023年4月23日(日)
会場:お台場特設会場(フジテレビ湾岸スタジオ内)
昼公演13:00開演/夜公演17:30開演
昼の部:3人による会場限定ライブ(配信なし)
夜の部ゲスト:岡村靖幸(有観客&配信あり)
チケット
会場指定席¥4,980(税込)
配信チケット¥2,980(税込)
(アーカイブ配信あり)
チケットは会場、配信ともチケットぴあにて発売中!
【番組情報】
ほぼ月一で不定期放送中
久保みねヒャダこじらせナイト
次回放送:2023年4月29日(土)
フジテレビ●深2:45~3:45
*FODプレミアムでこれまでのライブを限定配信中(FOD限定トークあり)。
【プロフィール】
くぼ・みつろう●漫画家。代表作として『モテキ』『アゲイン!!』など。現在は『ユーリ!!! on ICE 劇場版 : ICE ADOLESCENCE』制作中。
のうまち・みねこ●自称漫画家。新刊『鉄道小説』(乗代雄介・温又柔・澤村伊智・滝口悠生・能町みね子共著/交通新聞社)が発売中。『私みたいな者に飼われて猫は幸せなんだろうか?』(東京ニュース通信社)、『ほじくりストリートビューザ・フューチャー』(交通新聞社)、『皆様、関係者の皆様』(文春文庫)、『私以外みんな不潔』(幻冬舎文庫)も発売中。
ひゃだいん●音楽クリエイター。J-POPからアニメソング、ゲーム音楽まで幅広く手掛ける。初のピアノ・ソロ楽譜集『ヒャダイン(前山田健一) / ピアノ・コレクション』、『ヒャダインによるサウナの記録 2018-2021 -良い施設に白髪は宿る-』が発売中。
- 自分のために生きていますか?【連載 久保みねヒャダこじらせブロス/最終回】
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投稿者プロフィール
- テレビ雑誌「TV Bros.」の豪華連載陣によるコラムや様々な特集、過去配信記事のアーカイブ(※一部記事はアーカイブされない可能性があります)などが月額800円でお楽しみいただけるデジタル定期購読サービスです。
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