連載第1回はこちら
ポテサラ論争をノベライズする
<はじめに>
ポテサラ論争とは2020年7月、以下のツイートがきっかけで盛り上がったSNS上の議論である。
「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」の声に驚いて振り向くと、惣菜コーナーで高齢の男性と、幼児連れの女性。男性はサッサと立ち去ったけど、女性は惣菜パックを手にして俯いたまま。私は咄嗟に娘を連れて、女性の目の前でポテトサラダ買った。2パックも買った。大丈夫ですよと念じながら(Twitterから引用)
なお、この連載は現実のさまざまな事象をフィクションとしてノベライズするもので、元ネタとなったツイートとは一切関係がないことをお断りしておきます。それでは本文をどうぞ。
疲れ切っていた。へとへとに──。
リモートワークなんてまったく関係ない保育士の私は、息苦しいマスクで感染予防に細心の注意を払いながら園児たちの相手をし、なんとか終業までこぎつけると、今度は自分の娘が通う保育園にチャイルドシート付きの電動自転車で駆けつけ、帰りに近所のスーパーに立ち寄った。
夕食の献立は娘の大好きなハンバーグと決めていて、挽肉とタマネギとタマゴは買ったけれど、もう一品くらいは出来合いで済ませたいなと、惣菜コーナーにあったポテトサラダに手を掛けたときだった。
「まったく、母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」
反射的に振り向くと、湿った舌打ちを鳴らした老人が、踵を返して去っていった。
まずこのご時世に、マスクなしの老人の顔に驚き、そのあとでゆっくりと、言葉の意味が入ってきた。
ク・ソ・ジ・ジイ~~~~~~~~~ッ!!!!!!!!!
娘の手前、怒鳴り返すことも出来ず、肩を震わせる私のオーラがよほど凄まじかったのだろう。見かねた主婦がとっさに目の前でポテサラを買い込み、同情の目配せでその場を立ち去っていった。
娘が「どうしたの?」という顔で裾を引っ張る。私は懸命に涙をこらえながら、指の形にめりこんだポテサラを買い物カゴに入れた。
帰り道、バッテリーの切れた電動自転車を押しながら、私は頭の中であのクソジジイに、あらん限りの制裁を加えていた。
そこは薄暗い倉庫で、私は後ろ手に縛りつけたクソジジイをコンクリートの床に転がし、その指を一本一本ゆっくりとへし折っていく。
悲鳴は聞こえない。なぜならクソジジイの口にはアベノマスクが何重にも掛けられ、布テープでぐるぐる巻きにしてあるからだ。
全身に容赦ない蹴りを入れたあと、鉄板の入った靴底でジジイの頭を思い切り踏み潰す。グチャグチャにマッシュした脳ミソにキュウリ、ニンジン、タマネギを加え、マヨネーズを投入。出来上がった脳ミソサラダを完成と同時に床に叩きつける──。
それでもまだまだ、私の怒りは収まらなかった。