少年は小学5年生の夏休み、レンタルビデオ屋で何気なく手にしたお笑いトリオ・ロバートのコントライブDVDがきっかけで彼らの大ファンになった。ライブの内容を忘れたくないという想いでライブ中、ノートにメモをしていると、そんな少年の姿が気になったロバートから声をかけられ、秋山竜次は彼を「メモ少年」と名づけた。少年はそれ以降もライブに足繁く通い、大学では学祭実行委員として正式にロバートへ出演オファーを出したり、秋山の実家のレストランでアルバイトとして働くなど、ストーカー行為は輪をかけてエスカレート。着実にロバートとの距離を詰めていく。そして、かつての少年は新卒でテレビ局に入社し、制作局に配属され、遂にロバート・秋山との番組を制作するという夢をかなえたのだった。
そんな「メモ少年」ことメ~テレ(名古屋テレビ放送株式会社)の篠田直哉ディレクターの数奇な人生が広く知られたのは、YouTubeチャンネル「テレビ局の生活」に、これまでの人生を本人解説により分かりやすくまとめられた動画「【ロバート秋山】元ストーカーがテレビ局員に。職権濫用で番組に呼ばれる」が投稿されたことがきっかけ。再生回数は500万再生を超え、大きな反響を呼んだ。
そんなロバートのストーカーもとい現TVディレクター・篠田さんがロバートと共に歩んだ15年間がつづられた書籍「ロバートの元ストーカーがテレビ局員になる。~メモ少年~」が発売中だ。発売を記念して、TV Bros.WEBでは単独インタビューを実施。本のことに加え、テレビの変革期を迎える今、テレビ局員として考えていることを語ってくれた。
撮影/尾崎篤志
取材・文/編集部
【Profile】
篠田直哉(しのだ・なおや)
●1996年5月12日生まれ。大阪府出身。メ~テレ(名古屋テレビ放送株式会社)コンテンツビジネス局 コンテンツプロデュース部 兼イベントコンテンツ部所属。2019年にメ~テレに入社し、コンテンツビジネス局 映像コンテンツ部に配属され、1年間アシスタントディレクターを経験。その後、ディレクターとして映像番組、コンテンツ制作に携わる。これまでの担当番組は「デルサタ」、料理コーナー「ロバート馬場ちゃんの楽楽ごはん」(AD)、単発特番「唐沢佐吉のメ~テレ大爆発TV!!」「ロバート秋山の虚構ドキュメンタリー」(企画・演出)など。現在は、「BomberE」(隔週火曜 深夜0時57分~放送 愛知・岐阜・三重の東海3県で放送)のディレクター、「LET’S HOT EVENT パパラピーズ」(毎週火曜 深夜1時29分~放送)のプロデューサーを務める。
秋山さんに指摘されないのを
祈るばかりです(笑)
──件の動画が半年経たずに500万回再生を突破し、爆笑問題のラジオ『爆笑問題カーボーイ』(TBSラジオ)で秋山さんがゲスト出演した回でも篠田さんの話題で盛り上がっていましたね。そして遂に篠田さんのロバートと共に歩んだ15年間がつづられた書籍「ロバートの元ストーカーがテレビ局員になる。~メモ少年~」が発売されますが、今の心境はいかがですか?
篠田:あの動画自体、誰も見ないと思っていたので「何でバズったんだろう?」と今でも不思議で。本が出ることも、こうやって取材されていることも変な感じがしていて、状況に笑っちゃっています。
──ロバートのコントや秋山さんが披露するネタといえば「歌姫の取り巻き」や「アスリートの棒読みCM」など誰もが日常で感じているものの見逃してしまいそうな違和感を題材にしていますよね。
篠田:そうですね。
──篠田さんは小学生の頃からロバートさんがお好きだということで、秋山さんのその鋭い視点は篠田さんの思想にも影響されていますか?
篠田:影響はありますね。今日も取り巻きが…いや「取り巻き」といったら失礼ですけど(笑)。この本の取材で編集さんとかメイクさんとか、たくさん取り巻かれている状況に笑っちゃいました。
──結構な人数に囲まれながらの撮影でしたね。
篠田:すごい状況でしたね。それと本を出版するにあたり「情報解禁」ってあるじゃないですか。以前、秋山さんが「知らねえタレントが”オフィシャルブログ”を開設してるけど、人気タレントについて記したファンによる非公式ブログがあってのオフィシャルブログなのに、なんで誰も知らねえタレントが”オフィシャルブログ”とか言ってんだ」とおっしゃっていて。それと同様に「『情報を解禁しろ!』という暴動が起きてないのに『情報解禁されまして…』とか言ってることにムカつく」ともおっしゃっていて、僕も確かにその通りだなと思うんですよね。
だからこの本にも「情報解禁日」が設定されていて社内でも「篠田の本の情報解禁日はどうなった?」とか言われていたんですけど「いや、僕の本の情報解禁日なんて誰が気にしてるんだ」「いつ解禁されても騒ぎにならないよ」と思っていましたね(笑)。だから秋山さんに指摘されないのを祈るばかりです(笑)。
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──本では篠田さんの個人史だけでなく、ロバートの魅力についても多く語られていますね。
篠田:出版のオファーをいただいた際に「篠田さんの人生を話してください」と言われたときは「僕の人生について書かれた本なんて誰が読みたいんだろう?」と思ってたんですけど、僕の人生を話していると、いつのまにかロバートの話になっちゃって(笑)。たくさんお話しさせていただいて改めて「僕の人生=ロバートなんだな」ってことに気づきました。だから読んでいる人も「この人のこれまでの人生を知る本だと思って読み進めてんのに、ずっとロバートについて話してんな」と感じるでしょうね(笑)。
──他にも篠田さんによる「ロバートのコントベスト5」といった様々なロバートに関するランキングも掲載されています。
篠田:そうですね。いろんなランキングを載せているんですけど、全てギリギリまで変更させていただいたので情報の鮮度は高いと思います(笑)。
入社3年目、テレビ局員として
働く中で感じるテレビ業界の今後
──現在、若い世代のテレビ離れが進む一方で、テレビ業界ではいわゆるコア視聴率(男女13~49歳による視聴率)が重視されるようになったことで若い世代向けの番組、特にお笑い番組が増えています。この二つの変化は篠田さんにとって逆風と追い風が吹いている状況だと思いますが、この状況を踏まえて、テレビ業界に入って良かったと感じますか?
篠田:めちゃくちゃ良かったと思っています(笑)。僕はお笑い芸人さんはもちろん好きですがYouTubeもすごく好きで、YouTuberさんの動画もめちゃくちゃ見るんです。個人的には、テレビ業界にはいるものの「テレビ」であることに強くこだわっているわけではなく、コンテンツの出し口がテレビでもYouTubeでも、より多くの人に面白いと思ってもらえることが重要だと思っていて。
あのバズったロバートさんとの動画も、元々は地上波テレビ番組の宣伝用の動画として出したんですけど、それがYouTubeで話題になって「こいつがつくる秋山の番組なら見てみたい」という人が地上波に見にきてくれるのを感じました。テレビ局にいてもYouTubeの動画を作れますが、地上波番組を作ることはテレビ局でしかできないので、その二つの良さをミックスして作れるのはテレビ局にいる強みだと思います。
【ロバート秋山】元ストーカーがテレビ局員に。職権濫用で番組に呼ばれる
──テレビ業界を志望している学生は「憧れのあの人と番組を作りたい!」と夢見る人も少なくないと思います。篠田さんは入社3年目にして既に憧れの秋山さんと番組を作ることができたという意味で、就活生にとっては理想的な将来像だと思いますが、実際に局員になってみて、入社前と入社後でどんなギャップを感じますか?
篠田:入社1年目でADとして働いていた時は「意外とデスクワークが多い」と感じていましたが、3年目を迎えて改めて強く感じたギャップで言えば、テレビ局には「”地上波テレビ”にこだわりがあり、デジタルやネットを敵視している」と考えている人が多いと入社以前には思っていましたが、実際はテレビ局もデジタルシフトしていく時代なので、むしろデジタルネイティブ世代の意見をすごく取り入れてくれていると感じます。業界全体がそうなのかは分かりませんが、少なくとも僕が勤めている会社は若手社員でも企画や意見が反映しやすいと感じますね。
──逆に言えば、デジタルネイティブ世代として即戦力で意見を求められる。
篠田:そうですね。むしろテレビ用のVTRしか作れない人は必要とされないし、今後減っていくと思います。僕も勉強中ですが、コンテンツを多くの人に見てもらうために演出面・戦略面で出し口を地上波に縛られずにYouTubeやネット配信なども絡ませながら面白く、かつより広める知識や考えを持っている人、そういう観点で視野が広い人がこれからは必要とされると感じます。
バズ後の秋山からのアドバイス
「より全力で手を抜かずにやらないといけない」
──若くして憧れの秋山さんと番組を作られ、既に目標は成し遂げられたように思えます。今後の目標はありますか?
篠田:一つの目標として「秋山さん一人だけではなく、ロバートさん3人の番組をつくる」というのはありますね。これまでに秋山さんと番組を二つ作ったんですけど、その内容も秋山さんのキャラありきで作ったもので、まだ自分のディレクターとしての演出力があってできた番組ではないと思っていて。自分の演出で秋山さん、ロバートさんの面白さがより伝わる番組を作るというのが直近の目標です。だから「もう既に成し遂げた」ということはなく、まだまだこれからだなと思っています。
──しかし、これほど「ロバートが好きなディレクター」として知られるとそのイメージが強いので、メリットもあれば、そのイメージに引っ張られることで生じるデメリットも今後出てくるのでは?
篠田:そうですね。秋山さんからもあの動画がバズった時に「いろんな人に見られてよかったね」というご連絡をいただいたんですけど、それと同時に「もうこれからは『ロバートが好きな篠田』って認知されたわけだから、俺ら以外の人たちと仕事するときにより全力で手を抜かずにやらないといけないよ」というアドバイスをいただいて、本当にその通りだなと思いました。ロバートさんとは関連のない番組──普段担当している番組も含めてクレジットに「演出・篠田」と名前が載っているのを見た人が「あの人、ロバート関連の番組じゃないから手を抜いてるな」って思われないように毎日頑張らないといけないと思いますね。
──なるほど。ちなみにロバート関連以外のもので今気になっているコンテンツは何かありますか?
篠田:なんやろう…。色々あるんですけど、まず『オオカミくんには騙されない』シリーズ(ABEMA)。恋愛リアリティ番組は人間味が見えて、めちゃくちゃ好きなんですよね。他には番組でもご一緒した≠MEとか、アーティストだとeillさんがめちゃくちゃ好きで表現力や世界観が凄くて『ただのギャル』のMVには度肝抜かれましたね。でもなんだかどれも浅いことしか言えないな…。
──いえいえ(笑)。では、ロバート関連で最近お気に入りのものはありますか?
篠田:最近だと『秋山と映画』(テレビ朝日)ですね。以前放送されていた『秋山とパン』と同じ演出の方が手がける番組で、ジャンルとしては深夜に放送されているような映画の告知を兼ねた番組なんですけど、従来の告知番組と違って、作品に対して忖度が一切ないんですよ! 一般的に映画を紹介する番組は、その作品の魅力を伝えることを重視するあまり、企画の演出が狭くなってしまいがちなんですが、この番組は、毎回「秋山世界観」が全開の演出で、いつも楽しみにしています。その結果、映画告知としてもプラスになっているんだろうなとも感じています。
──やはりロバートの話になると饒舌ですね。
篠田:そうですね。他にも好きなコンテンツはいろいろあるんですけど、ロバートさんへの想いが濃すぎて熱がはいっちゃいますね(笑)。
【書籍情報】
「ロバートの元ストーカーがテレビ局員になる。~メモ少年~」篠田直哉/著
●発売日:2022 年 6 月 25 日(土)
※一部、発売日が異なる地域がございます
●定価:1,760 円
●仕様:四六判、ソフトカバー、192 ページ
●発行:東京ニュース通信社
●発売:講談社
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