大島弓子『秋日子かく語りき』取り戻せないものはいつだって眩しい【世田谷ピンポンズ連載2023年5月】

世田谷ピンポンズが毎月気になった書籍を、彼の持ち味である、生活感のあるノスタルジーが散りばめられた文章でご紹介。今回は大島弓子『秋日子かく語りき』。

 

これまでの連載はこちらから

 

取り戻せないものはいつだって眩しい

文/世田谷ピンポンズ

 

大島弓子の『秋日子かく語りき』という漫画が大好きだ。
物語は高校生の天城秋日子と主婦の久留竜子が交通事故に遭い、あの世に向かうところから始まる。二人が歩いていると神の使いがやってきて、秋日子の死は間違いで、竜子はこれからあの世に行くのだと告げる。竜子は現世に未練たっぷりで、泣き喚く。秋日子はそんな竜子に一週間、自分の身体を貸してあげることにする。
竜子は秋日子として現世によみがえる。とはいえ、竜子はこの降って湧いたような時間を満喫するわけではない。若くふるまうわけでもなく、若さへの憧れを嫉妬に変えることもなく、竜子が気になっているのは残してきた家族のことだ。竜子は自分の家を訪れる。そこで長男や末娘、少しぼーっとした夫が意外にものびのびと暮らしていることを知る。事故で生き残った人という立場を利用して、たびたび家に入りこむ竜子だったが、そこで大切にしていた観葉植物のフランクリンが枯れているのを見つける。
フランクリンは竜子にとって夫との思い出だ。彼女は秋日子に好意を持つ茂多に協力をお願いし、鉢植えを盗む計画を立てる。フランクリンはどうなるのか、竜子が最後の最後にすることとは。

この記事の続きは有料会員限定です。有料会員登録いただけますと続きをお読みいただけます。今なら、初回登録1ヶ月無料もしくは、初回登録30日間は無料キャンペーン実施中!会員登録はコチラ