【2021年4月号 天久聖一 連載】くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館をノベライズする『ノベライズジャパン』

くりぃむしちゅーのハナタカ!優越館をノベライズする

最初はぜんぜん違う番組だった。
たしか日本人の三割程度が知る知識を、クイズ形式で紹介する番組だったように思う。それがいつの間にか、なにかのランキングの1位を当てる番組になっていた。
バラエティー番組ではよくあることだ。
野心的な企画は最初の取っ掛かりに過ぎず、ウケたコーナーだけが残り、滑ったコーナーは差し替えられ、幾多のテコ入れがあって、出演者の入れ替えがある。番組はいつの間にかドロドロに煮詰まり、誰もが啜れるおじやになる。

くりぃむしちゅー上田がコーナータイトルを読み上げる。VTRが流れる。今回は回転寿司スシローの一番売れている皿を当てるという問題だ。
上田が全員に1位予想を訊く。じゃあ行きますよ、せーの!
「サーモン」(柴田理恵)
「サーモン」(チョコプラ・長田)
「サーモン」(関ジャニ・横山裕)
「ハマチ」(チョコプラ・松尾)
「マグロ」(広末涼子)
「マグロ」(小藪)
「サーモン」(有田)
「イカ」(私)
私を含めた8人が同時に答える。バラエティではおなじみの面々の中、一際豪華といえる広末はおそらく番宣ゲストだろう。
解答は合議制。つまり全員が話合いによってひとつの答えを導き出す。
まず長田が「いいですか?」と手を上げる。「俺、まさにこの収録前、家族でスシロー行って来たんです」。
スタジオがどよめく。注目が集まる。
「めちゃくちゃサーモン流れてたんです。それにサーモンの種類めちゃくちゃ多いんです。炙りとか、トロとか、マヨネーズとか、サーモンは子供に人気ありますから、ということはやっぱりマグロよりサーモンかなと」
じゃあサーモンかな……、ぼんやりそう思った。
「はい」マグロ派の広末が手を上げる。
「実は私もサーモンとマグロ迷ったんです。でも、そんなにサーモンの種類があるなら分散するんじゃない?」
「おっしゃる通り!」間髪入れず、小藪が同調する。「ウチの嫁はんと子供たち、全員サーモン好きです。でも、全員選ぶの違いますねん! 割れてまんねん!」
なるほど、問題はあくまで各皿の人気。プレーンなサーモンは他の変わり種サーモンと票割れを起こし、思ったほど伸びないのではないか。さすが広末。旦那はキャンドル・ジュン。
「だとしたらいいですかぁ~~~?」唯一のハマチ派、チョコプラ松尾が芝居がかった声を上げる。
「なんや、できる弁護士みたいに」小藪のツッコミが失笑を呼ぶ。
「マグロもかなり種類あります。ということはマグロも割れるんじゃないですかね。そうなると、種類の少ないハマチもあるんじゃないかなと」
「ハマチは止めとこ」有田が一蹴する。人気ネタではあるが、トップは取れまい。松尾は食い下がってみるものの相手は番組の冠。わざとらしい狼狽で笑いを取った。
議論は思いのほか、白熱した。
「ボクもサーモンだと思うんです」と横山。「やっぱり家族で行くと子供って同じものばかり食べるでしょ。サーモンばっかり食べる子いますから」。
小藪「でもプレーンなサーモン食うてる子、そんなおらへんで」
長田「俺もベタなのはマグロだと思うんですよね。でも人気ナンバーワンが売り上げ1位とも限らない。となると……」
全体がサーモンに傾き始めた頃、上田が広末に確認する。
「広末さんはやっぱりマグロだと思う?」
「……そうですね」
「じゃあ、いいですよ、マグロで。どっちもあり得るんで」ゲストを立てるつもりだろうか、有田が言い放った。
「いや、でも私の責任だと嫌だからサーモンで」
無理もない。流れは完全にサーモンだ。ここで覆した意見が不正解なら広末の汚名は避けられまい。
突然、柴田が割って入った。
「思ったことちゃんと主張した方がいいよ。じゃないとずっとお腹にたまるから! 一週間も二週間も!」
「そんなに引きずる問題かな!」上田のツッコミに笑いが起きる。
しかし、これで流れが変わった。
本来サーモン派であった柴田がマグロに乗り換えることで形勢は逆転した。論理より女性の直感、明言こそなかったがそんなムードが現場を支配する。
戸惑う広末を見かね、小藪が騎士役を買って出る。
「マグロにしましょう。もし違っていたらボクを罵倒していただいて結構です!」
スタジオがどよめく。広末が両手を胸にあてる。

 


結論から言うと、1位はマグロだった。