おおね・ひとし●ドラマ『エルピス―希望、あるいは災い―』、Netflix、Hulu、U-NEXT等にて全話配信中。
先日、出演したYouTube生配信番組『テレビ東京若手映像グランプリ2023』。昨年から始まったこのイベントはタイトルの通り、テレビ東京の若手ディレクターたちが、今自分たちが本当に作りたい番組を企画提出し、社内オーディションを経て、100万円の予算で10分の番組を作り、審査を受けてグランプリ作品を決めるというものだ。
今年のMCはぺこぱ、審査員は昨年とほとんど変わらず、ロンブー淳、劇団ひとり、Aマッソ加納(昨年はヒコロヒー)、佐久間宣行プロデューサー、そして大根の5人。芸人はテレ東番組への貢献度(池の水、ゴッドタンなど)、佐久間Pは言わずもながテレ東出身のスタークリエイター、という基準で選ばれたのだと思うが、オレは『モテキ』をはじめとする深夜ドラマをテレ東で量産し、現在複数制作されているテレ東深夜ドラマ枠の土壌を開拓したディレクターという理由……というか、エントリー作品はバラエティが中心だが、ドラマテイストが濃いものもあるので、それを批評・審査できる演出家ということなんだろう。テレ東には社員のドラマ演出家はいないので、だったら大根でいいや的な? とはいえ、テレ東には多大なる恩義を感じていることも事実だし、審査は好きではないが、若手に好きに番組を作らせるというチャレンジングな企画には賛同しているので、昨年に引き続き、出演させていただいた。
ここにまだ残っているYouTubeを貼っておくので、もし時間があれば観ていただきたいのだが、ぶっちゃけ参加した5作品のすべてが、鑑賞に耐えられるレベルかといえば、うーん……だし、観た人によってはオレが時間泥棒呼ばわりされる可能性もあるので、今回はとりあえず2時間の番組内で最も盛り上がった瞬間をお勧めしたい。
テレビ東京若手映像グランプリ2023 決勝(アーカイブ配信は3月31日(金)23 : 59まで)
それは5作品目の松丸ディレクター(制作4年目)が作った『バイオグラフ』というクイズバラエティ番組(1時間28分あたり)……そのものではなく、審査員一同が作品を観たあとの審査コーナーである。番組そのものは、よくも悪くも普通というか、アイデアそのものは悪くはないが、如何せんタレント頼りというか、こぢんまりまとまっているというか、せっかくこういうチャンスなんだからもっと若手らしい、ぶっ壊れたところが観たかったなあというカンジで、淳、大根、佐久間、加納の順でコメント・批評した内容も概ね、そのようなものだった。
ところが次に振られた劇団ひとり、ここで事件が起きた。
はじめこそ「もうできあがっちゃてるというか、プロの仕事だし、即戦力なんだろうけど……」と、我々同様の切り口だったが、「(作り手としての)魂を感じない」「すべて机上で作られたもの」「こういう人と一緒に仕事をしたいとは思えない」と、徐々に辛口意見が加わってきて、理路整然ながらもディスり口調が激しくなり、ついには「つまんねえんだよ!」でスイッチオン! ここからはまるで若手の頃の劇団ひとりのネタを見ているかのような、その場をすべて支配するあの空気が蘇り、罵詈雑言と暴言が約2分間続いた。
松丸ディレクターの顔は強張り、隣の佐久間Pがフォローしてもそれを振り切り、MCのぺこぱもなんとか場を笑いで包もうとするが、このスイッチが入った時の劇団ひとりが止まらないことを知っているオレは、離れた席で「もっと! もっとちょうだい!!」と、思いがけず訪れた、劇団ひとりがいちばん得意とする謎のキレからエモーションが高まっていく“芸”を楽しんでいた。そしてYouTubeとはいえ、公共の場で昨今ナーバスにならざるを得ない毒吐き・ディス・個人攻撃・人格否定を目の当たりにした幸福感すら覚えた。そうそう、初めて観た劇団ひとりはこうだったよなあ。
今や売れっ子お笑いタレントの枠に留まることなく、司会業・小説家・映画監督・俳優・声優などなどとマルチに活躍する、いわば“上がり”のポジションを獲得した劇団ひとりだが、若手ピン芸人としての下積み時代は尖りまくっていた。オレが劇団ひとりを認識したのは、2001年に長野放送で放送されていたローカル番組『YOU・遊・気分 土曜だ!ぴょん』(以下、どよぴょん)だった。
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