第43回ついに来ました、令和の暴力野球マンガバブル

ついにきた、令和最大の野球マンガ時代が！
　野球マンガの最大の魅力、それはこのコラムで何度も言ってきた通り「野球のルールに反していなければ、その他のすべてのルールを無視してもゲームが続く」ところ。
　何度も宣言していますが我々は『アストロ球団』（原作／遠崎史朗　作画／中島徳博）を人生の最上位概念に置き、『アストロ球団』内での常識にあわせて現実の認知を歪めて正気を保つ側の人間（アストロサイダー）。
　もうはっきり言い切ってしまいますが、この連載はオススメ新刊マンガの紹介コラムではなく、新刊マンガの中から『アストロ球団』の要素を持った作品を屁理屈で見つけるコラムとして「野球で爆発が起こるもの」「野球で死人が出るもの」「野球に格闘家が出るもの」「野球で魂が燃え尽きて老化するもの」「ルールブックに書いてあればどんなバットを使っても認められること」等を勝手に繋いでまいりました。

　
　そういう無駄とも思える行為を何年も何年も地道に積み重ね……ついにこの春、『球神転生』1巻が発売されました！

ジェントルメン中村『球神転生（1）』（小学館）

　この作品は、面白い野球マンガの最大の条件である「野球に野球じゃないものがいっぱい混ざっている」の量と質が尋常ではなく、第1巻から早速登場するライバル校のメンバーが、バスケットボール、フィギュアスケート、剣道、サッカー、テニス、ボウリング、ゴルフ、そしてボクシングという他競技の小学生王者を集めた「令和のビクトリー球団」。
「ボクシングはフェイントのスポーツだから、同じ構えから全く違うフォームで投球できる」とか、他のスポーツのどこが野球に勝っているのかを突き詰めて、「だからこの程度の芸当造作もない」に落とし込む説得力が圧倒的。これは実質「自分なりのマクー空間に引きずり込んでくる奴ら相手にどう戦うか」という問題で、ここにジェントルメン中村の「きっちり立てるものを立てつつ、自分も一歩も曲げない」逆転劇が組み合わされると、「レーザーブレードはマクー空間でしか使わないから光り輝くし、ギャバンダイナミックは必中必殺の技になる」という奇跡が無限に見られることになる。
　もうこの人が技術で再現する「ジェントルメン中村節」、違う絵柄でもいいから読みたいとも思うので、今後は原作仕事もガンガン増やして「令和の倉科遼」になってほしい。『球神転生』に一つ言いたいことがあるとするならば、「いつか力士も出してください」ということです。「野球マンガに野球じゃないものが混ざる」と「相撲マンガじゃないのに力士が出てくる」の2大娯楽が合体すれば、世界の面白さ全体のレベルが一つ上がるのでな!!

　さて、今月の野球マンガニュースといえば『バキ外伝　花のチハル』2巻にもありました、「野球に格闘家が出るもの」と「野球で爆発が起こるもの」の合わせ技！

漫画／尾松知和　監修／板垣恵介『バキ外伝花のチハル（2）』（秋田書店）

　この巻では、『バキ』大擂台賽編で刃牙に瞬殺されたまま退場し、20年「あいつは何だったんだ？」と思われ続けていた狂獣・郭春成がまさかの再登場を果たし、バッティングセンターで人間ホームラン！　刃牙戦では全くいい所が描かれなかった彼ですが、まさかの「チンピラにバッティングフォームの美しさを3ページかけて褒められる」という見せ場が与えられました。格闘の実力は未だ不明だが、バッティングセンスを見れば「人間の芯をどう叩けばよいのか」が分かり、これは喧嘩の強さと直結するので（北関東調べ）、続く3巻できっといいところを見せてくれると思います。

『ニクバミホネギシミ』もしっかり不快。釣り目巨乳のヒロイン・犬吠埼さんが最終的に不審死することが分かってる上で元気に活躍してくれるので、作中で魅力を発揮すればするほど嫌な気持ちになる――そんな気持ちになれるいいホラーです。

パレゴリック『ニクバミホネギシミ（1）』（新潮社）

『ねずみロワイアル』もいいですよ！　主人公の西部くんが「令和のデスゲームマンガで主役を張れるレベルにない知能」なんですが、アホゆえに一切の策略を巡らさず、褒められて油断し、許してはいけない極悪キャラに情がわき、事態を最悪な方向に導いてくれることを考えると「ねずみだからしょうがないよね！　やるべきこと（悪い意味で）をやれ！」と応援できるはず。起こらなくていい悲劇が全部起こる展開に大期待です。

佐々木順一郎『ねずみロワイアル（1）』（講談社）